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迎撃機は豊原だけではなく、南樺太北部の敷香からも飛び立っていた。
敷香から飛び立ったのは「79式多用途戦闘機(閃電)」
別名「FJ-5」
元々はアメリカと共にF-16の共同開発を行うつもりだった日本空軍。
しかし、軽戦闘機を目指すアメリカ側とある程度の航続距離を欲した日本とでは意見があわずにこの計画はご破産。結局、日本は共同研究で得たものを利用しながらF-16よりも一回り大きい戦闘機を開発した。それが79式である。
アメリカと同じく高価なF-15とのハイロー・ミックスの「ロー」の部分として日本はもちろんのこと日本と関係の深い東南アジアやイラン・中東地域にも輸出されている。
ちなみに、軽戦闘機として開発されたF-16は結局その使い勝手の良さから多用途戦闘機(マルチロール機)として世界各地の主に西側陣営を中心に導入され約1万機が製造されており、現在でも各国で中古の機体や改良した機体が現役で運用されている人気の戦闘機となっている。
敷香から飛び立ったのは第12戦闘航空団第260戦闘飛行隊に所属する79式2機だ。どちらも対空兵装をしており大澤の2機と共に最初に現場空域に到達した。
『こちら<ストームアイ>国籍不明機はすでに我が国の領空を侵犯している。こちらで警告を発しているが応じるつもりはないらしい。すでに司令部より撃墜許可は出ている。派手に暴れてこい』
AWACSからの指示は中々に物騒だが相手は大艦隊を差し向けている侵略国家だ遠慮などする必要はないだろう。
『聞いたか。今日豊原から『女神』たちが上がっているらしいぜ』
「またそれか…女ばっかりおいかけて撃墜されてもしらんぞ」
『言ってろ。お前みたいな堅物にはわからないだろうが、俺等にも『癒やし』は必要なんだよ』
などと軽口を言い合う79式のパイロットである近藤一樹大尉と真崎慎太郎大尉。ちなみに真崎大尉のいう「女神」というのは橘中尉たちのことだ。二人共整った顔立ちをしているので樺太の空軍パイロットたちは密かに両名のことを「女神」などと呼んでいるのだ。
ちなみに、メディアからも二人は「美人パイロット」として追いかけ回されており当人たちは迷惑していた。空軍も内心では彼女たちを広報活動に活用したいと考えているが無理強いをすれば優秀なパイロットを二人失うことになりかねないのでメディア対応にはかなり苦慮しているらしい。
近藤大尉たち密かに彼女のことを慕っている男性パイロットたちはそんなメディアの行動に憤りを隠せないらしいが、真崎大尉からみれば「女神」などといって勝手に崇めている彼らも彼らで問題なのでは?と内心では思っていたりする。
それはさておいて。
そんな、女性パイロット二人と任務をすることになった幸運を噛み締めている近藤大尉だがもちろん任務には真剣に取り組んでいる。すでに彼の機体のレーダーには複数の国籍不明機が映し出されていた。
『こちら<ブロッサム2>敵機をレーダーに捉えた』
『攻撃を許可する。我が国に土足で踏み入れたことを奴らに思い知らせてやれ』
『了解!』
2機の79式戦闘機から8発のAAM-8空対空ミサイルが発射された。
「はぁ…俺を満足させるような敵は出てこないかねぇ」
この飛行隊でハリエット少佐に次ぐエースパイロットであるハビエル・ジョンストン大尉は欠伸を噛み殺したような声でつぶやく。とても、これから敵地に踏み込むパイロットとは思えない言葉だ。
ハビエル・ジョンストンというパイロットはその戦闘機パイロットとしての技量は認められているが性格面に問題があるとされていた。だからこそ、彼は少佐に昇進してもおかしくない成績を残しているにもかかわらず今も大尉のままなのだ。
とりわけ上層部から目をつけられやすく、作戦批判で謹慎処分を食らうなどということは片手で数え切れないほどだ。それでも、上層部は彼のパイロットとしての技量だけは認めているので軍を除隊にするなどという処分までは出来ないでいた。
ハリエット少佐にとってはこのジョンストンの存在もまた悩みのタネだ。
「ん?ようやく迎撃機が上がってきたのか」
『ジョンストン大尉。レーダーを見ているか?』
「確認していますよ。少佐殿」
『どうやら我々の行動は感づかれたようだ』
「ならば少佐殿。この俺にお任せください。迎撃機を蹴散らしてやりますよ。少佐殿は安心して攻撃隊を目標まで先導してやってください」
『…分かった。君に任せよう』
「ありがとうございます!」
ハリエット少佐は一瞬考え込んだが、ジョンストンの力量をよくしっているので彼とその部下に迎撃機の処理を任せることにした。
「よーし、隊長殿の許可はもらった。いくぞ。アーサー!」
『はい!大尉殿』
だが、その瞬間。彼の機体で突如としてけたたましい警報が鳴り響いた。
それがミサイル警報であると気づいたジョンストンは慌てて回避行動をとる。ただ、どこからミサイルが接近しているのかは彼は理解していなかった。すると無線で部下である少尉の悲鳴にも似た声が聞こえてくる。
『よ、避けきれない!』
「おい。アーサー大丈夫か!?」
『――』
部下からの返事はない。そのかわり先程まで一緒に飛んでいたはずの部下の機体が炎につつまれて落下していくのが見えた。ミサイル警報はなおも鳴り止まない。
「くそっ!なにがどうなっている!」
それがジョンストンの最期の言葉となった。
彼の機体の尾翼にAAM-8が着弾。姿勢制御ができなくなった彼の機体は錐揉み状態のまま冬のオホーツク海へと落ちていった。
さて、ジョンストンたちと別れたハリエット少佐たちの前にも危機が迫っていた。彼らの前に突如として未知の戦闘機が出現したのだ。それまでレーダーには一切映っていなかった戦闘機の出現に少佐たちは混乱した。
「レーダーには何も映ってなかったぞ…」
彼らの世界でステルス機という概念はなかった。
だからこそ、レーダーに映らず突如出現した戦闘機に彼らは状況を飲み込むことが出来なかった。それが、大きな隙をうむ。
『隊長たすけ――』
『ミサイル接近!ミサイル――』
無線から部下たちの助けを呼ぶ声が聞こえやがて聞こえなくなる。炎に包まれた戦闘機が次々と落下していく。そして、ハリエット少佐の機体にもミサイルの接近を告げる警報が鳴り響く。少佐はハッとしてすぐにチャフを発動させるなどして回避行動をとる。
しかし、警報は鳴り止まない。
95式戦闘機が発射したのは人工知能などが搭載されチャフやフレアなどによる妨害への対抗策を講じた新型のAAM-8Eと呼ばれるミサイルであった。必死に操縦打を操作する少佐だったが機体の右翼にミサイルが着弾し、一気に機体の制御がとれなくなった。彼はもう機体がもたないことを察しすぐに脱出レバーを強く引いた。
機体から脱出した彼が見たのは味方機が見たこともない戦闘機にあっという間に背後をとられ撃墜された瞬間だった。
「…これは悪い夢だ」
ノルキア海軍第一次攻撃隊は目標への攻撃が出来ず全機撃墜された。




