20
アーク歴4020年 1月7日
オーレトア共和国 首都・レフィアル
大統領官邸
オーレトア共和国の首都レフィアルは大陸北西部にある人口150万人の都市だ。計画的な区画整備が行われた結果非常に整然とした町並みが広がっているのが特徴であり市内の各所には公園や緑地などが多数整備されていることもあって都市人口は他国の首都に比べれば少ない。それでも人口100万人以上は暮らしている大都市であることにはかわりなかった。
市内中心部には政府の重要拠点が集まる区画がある。国家元首である大統領が執務などを行う大統領官邸もこの区画の中にあった。大統領官邸の建物はとても歴史を感じられるものだ。この国が王政から共和制に変わってそしてレフィアルが首都になった200年前に建造された建物をそのまま使用しているからだ。因みに周辺にある官公庁はいずれも今風の近代的なビルになっている。
「今度は無人機ではないのか?」
「はい。ですが、やってきた方角は同じなので同勢力によるものかと」
オーレトア共和国大統領のケビン・キンケードは国防大臣からここ数日連続してやってくる国籍不明機に関する報告を執務室で受けていた。
オーレトア北方に大陸があることはすでに判明している。
外務大臣などが外交使節を送るように主張しているのだが大統領を含めた多くの閣僚はこれに慎重であり現在までにその大陸との接触はしていなかった。国籍不明機がオーレトア領空に侵入するようになったのは5日前――この意味の分からない世界に飛ばされた翌日からだ。
そのたびに戦闘機がスクランブル発進しており、領空侵犯しているのが大型無人機であることまではわかったのだが、一体どこがオーレトアに対して頻繁に無人機を飛ばしているのかは現在もわかっていない――否、ダストリアの北方にある大陸から来ているのは確実なのだがどの国が飛ばしているのかがまだわかっていなかった。
「こう頻繁に偵察機を飛ばしていることをかんがえると、我が国に対して武力侵攻を考えている国があるのではないでしょうか」
「その可能性は高いだろうな…今回の有人偵察機はそのための第一歩か?」
「もしかしたら空軍機にわざと撃墜させるように仕向けているのかもしれません」
「それで攻め込む大義名分にするのか?」
「おそらくは…」
「だとすれば、厄介な国に目をつけられたものだな…」
まだ、このときの大統領は相手が本気で攻め込んでくるとは思っていなかった。国防大臣も危険性があると報告はしたものの本心では「突然見ず知らずの国に軍事侵攻を仕掛けてくる国はないだろう」と楽観的に思っていた。
しかし、相手は前の世界で思うように動けずに鬱憤を溜め込んでいた覇権国家だ。ストッパーがなくなった覇権国家はがむしゃらに目の前にある『獲物』に群がろうとしていた。大統領が自身の考えが甘かったのに気づくのはそれから数時間後であった。
翌日。
大統領と国防大臣は自分たちの考えが甘かったことを後悔する。
軍需拠点である北東部の「ブラストマス」が巡航ミサイルによる攻撃を受けたのだ。これによって港にあった石油貯蔵タンクにミサイルが命中し大規模な爆発と火災が発生しており、更に停泊中だった艦艇にも被害が出ており現地は大混乱に陥っているという。
攻撃が行われたのは前日の深夜。
攻撃を行ったのは人民解放空軍の新型ステルス爆撃機「H-20」だ。
アメリカのA-2の技術を一部流用したとされる「H-20」はA-2と同じく全翼型でステルス性能が高い航空機だ。近年になってH-6に変わる主力爆撃機として配備が進められており、今回初めて実戦に投入された。
「H-20」は30発ほどの巡航ミサイルをブラストマス海軍基地に向けて発射し、そのまま北中国本土へ戻っている。
発射されたミサイルの殆どは海軍基地に着弾したが、一部は近くの都市部にも着弾しており市民など数百人あまりがこの攻撃で死傷している。
「そ、それでブラストマスの被害は?」
「海軍施設・空軍施設ともに甚大な被害が出ています。また、都市部にもミサイルが着弾しており一般市民からも犠牲者が出ているようです」
「…なんということだ」
被害の大きさに絶句するキンケード。
ブラストマスはオーレトアにとっては重要拠点だ。
大規模な海軍基地も置かれているのもそうだが、オーレトア北東部における防空拠点である空軍基地も隣接しており、こちらが攻撃を受けたのもオーレトアにとってはダメージが大きい。
更に、悪い報告は続く。
「偵察機によると、我が国の北方に40隻あまりの大艦隊が接近しているとのことです」
「なんということだ…」
「現在第2艦隊と空軍の残存兵力を使って上陸を阻止します」
「頼んだぞ…」
「はい、では私は国防省で指揮を行います」
国防大臣はそう言って足早に大統領執務室を退室した。




