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 正暦2025年 1月4日

 パナマ共和国 東部


 南北アメリカ大陸の結節点であるパナマ。

 パナマ運河という交通の要衝を抱えるこの国は中央アメリカの国としてもパナマ運河の通行料収入などによって経済的に発展していた。ただ、今回の転移騒動によってパナマ運河は当分の間通行禁止となっているため運河を行き交う貨物船などはこの数日の間見ていない。

 パナマ政府は早急に運河を通航再開したいが、最大の利用者ともいえるアメリカは仮に運河が開通したとしてもしばらくの間は海外向けや海外からの輸出入は行わないと発表しているため普段の姿が戻るかは不透明だった。


 そのパナマと本来なら国境を接しているコロンビアは今は存在しない。

 南米大陸はパナマの一部を除いて消失してしまい。後に北アメリカから南東に7000キロ以上離れた場所にヨーロッパとともにあることが確認されたがまだこの日の時点では行方不明のままだ。

 しかし、南米大陸とは異なる大陸がパナマとつながっていた。

 パナマ東部は未開発のジャングル地帯で人口も少ないことからパナマ政府も普段からあまり関心を持っている地方ではない。


 そんな、パナマ政府当局からも特に注目されていないジャングル地帯を進む集団がいた。その集団や戦車や装甲車などを持ち込んでおりどうみてもどこかの軍隊だった。戦車も装甲車も現代的な姿をしており戦車にいたってはソ連が開発したT-90戦車によく似た姿をしていた。


「どこを見てもジャングルばかりだな」

「しかもかなり暑いですね・・・」

「まさかこちらの大陸に入った瞬間にここまで気候が変わるとはな・・・」


 戦車から顔を出してたれてくる汗を拭う軍服姿の男二人が南国の太陽をにらみつける。彼らがいた地域は比較的寒冷地にあったのだが国境を超えた瞬間に目の前に現れたのは手つかずのジャングルとジャングル特有の湿度であった。


 彼らが所属するのは南アメリカ大陸の代わりに北アメリカにくっついた大陸内にある「フィデス人民共和国」という名前の国家だ。フィデスのある「フィロア」大陸は転移前の世界では比較的高緯度のところにあったので気候は一年を通じて比較的寒冷であり夏も短いことからそれほど夏に対しての備えはしていなかった。フィデスはこの大陸の大部分を国土としている大国で転移前から領土拡張に熱心な所謂「覇権主義」的な部分のある国だった。

 転移前の世界では豊富な天然資源が埋蔵されている可能性のある島を巡って海を挟んだ隣国と何度も衝突するほどでそのたびに海軍力に勝っていた隣国に手痛い反撃を受けて撤退する――というのを何十年も続けてきた。


 転移騒動で大陸の北側の一部が他所の大陸とつながっていることがわかったことから軍上層部は偵察部隊を向かわせて可能であれば進軍して自国領土にしようと企んでいたほどだ。

 だが、国境を抜けて待っていたのは熱帯の洗礼だった。

 一応戦車などに空調はあるが、それでもこのような気候に慣れていない兵士の中には体調を崩す者まで現れた。


「食料はまだあるが。いい加減このジャングルを抜けたいな・・・航空偵察によれば都市があるのは確実だからな」

「でも空軍の連中ジャングルの深さまでは報告していないですよね?本当に偵察したんですかね」

「上に嘘を報告したらそれだけで処分対象なんだからそんなことしないだろう」


 結局、彼らがこのジャングルを抜けるのに更に二日ほど時間を要することとなった。


 正暦2025年 1月6日

 アメリカ合衆国 ワシントンD.C.

 ホワイトハウス


「日本が異世界の国家と接触したのか」


 この日の昼過ぎ。クロフォードは、執務室にやってきた国務長官から「日本が異世界の国と接触した」と報告を受ける。報告によれば相手側が日本に向けて外交使節団を乗せた軍艦を派遣して日本もそれを受け入れたということだ。現在は国交締結に向けた交渉が大詰めであり近日中に日本は異世界の国と外交関係を樹立するらしい。


「日本からは我が国とイギリスそして中華連邦を相手側に紹介するということで、相手側からも好意的な返事がもらえたようです」

「さすがは日本だな。それで、日本と接触した国に関しての情報はないのか?」

「日本側から簡単ですが、情報は受け取っています。日本と接触した国は『アトラス連邦共和国』という連邦共和制国家です。6つの主要な島とその周囲にある4000の島々からなる島国で人口は約1億2000万人。国土面積は54万平方キロメートルと日本より若干小さい程度ですね」

「日本とイギリスのちょうど間くらいか」


 連邦共和制というのはアメリカと似た国家体制なのでクロフォードは「まるで三カ国を混ぜ合わせたような国だな」と内心思った。


 国務長官は次の説明をしようとタブレットを見て思わず「ん?」と首をかしげてしまった。


「どうかしたのか?」

「い、いえ。この資料にアトラス連邦共和国の種族に関して書かれているのですが」


 困惑顔の国務長官は大統領に自分のタブレットを手渡す。

 タブレットを手渡された大統領もある項目を見て「ん?」と同じように首をかしげてしまった。


「この『エルフ』というのがアトラス連邦の主要種族ということか?」

「資料通りならばそうですが、ああ。参考画像が添付されていますね」


 この資料は日本政府から提供されたものであり参考画像も一緒に添付されていた。


「・・・なるほど。たしかに日本の小説などで出てくる『エルフ』と風貌などは似ているな」


 とんでもない美形というのが日本のファンタジー小説などで出てくるエルフ族の特徴だが、添付された画像に写っている男性はその特徴のままであった。資料にはアトラス連邦は国民の7割がエルフ族で2割が獣人族などのそれ以外の亜人種。そして人間は全人口の1割ほどしかないと書かれていた。ただ、ハーフなどを合わせれば人間族の血を引いている国民は2割程度になるとも書かれていたが、どちらにせよアトラス連邦という国の多数派は「亜人種」と呼ばれる人間と異なる種族であるらしい。


「まあ、種族のことは一旦おいておこう。アトラス連邦の軍事力に関する資料はないのか?」

「あります。アトラス連邦軍は総兵力45万人で。陸軍が24万人。海軍11万人、空軍8万人の常備兵力を有しているということです」

「案外兵力が多いな。イギリス以上か」


 イギリスの兵力は35万人。

 一方でアメリカは150万人であるが、この数でも地球全体で見ればソ連・インド・北中国に次ぐ四番手になる。ちなみに日本は100万に近い常備兵力を抱えているがこれは中ソとの二正面作戦を常に警戒していたためである。

 アトラス連邦がいた世界の国際情勢などは分からないが島国としてはかなりの重武装をしているように思える。


「どうやら、領土を巡って近隣諸国と軍事衝突が何度か起きていたようで兵力は近年増員した結果のようです」

「なるほどな・・・」


 アメリカは領土問題というのはないが、地球でも近隣国との領土問題というのはよく聞かれた話だ。有名なところではインドとパキスタンがカシミール地方を巡って過去に4度の印パ戦争を戦っていたし。同じ陣営であるソ連と北中国も国境を巡って対立している。

 とりわけこの領土問題というのは係争地に何らかの資源が埋まっている時に起きやすい。恐らくアトラス連邦が抱えている領土問題もこれらの天然資源絡みなのだろうと大統領は考えた。


 この時大統領たちは知らなかったが、実はアトラス連邦と対立していた国はアメリカの近くに存在していたのだが国内問題や今回のアトラス連邦の件などあり誰も近くにある異界の大陸の存在を気にかける者がいなかった。

 後に、大統領はそのことを後悔するのだがそれはまた別の話である。

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