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 新世界歴2年 3月27日

 日本皇国 南洋諸島州 マリアナ諸島 グアム島

 南洋警察庁



 グアム島の空軍基地を筆頭に、国内複数箇所の基地に火炎瓶が投擲された事件は、武闘路線を掲げる新左翼系政治団体による犯行であることが、警察の調査などによって判明した。

 この、政治団体は自らの主義・主張を実現するために武力闘争も厭わないことで知られている団体であり、現代までに多くの事件を引き起こしてきた問題集団であった。

 ただ、ここ数年は比較的大人しくしていただけに、ここにきて行動を開始したことは長年、団体の監視などを続けていた公安警察は驚いたという。

 実行犯は、政治団体に所属する学生であった。

 いずれも、著名な国立大学に在学中であったが、講義よりも団体の活動を優先していたという。今回、火炎瓶を投擲したことに関しては「異世界に来て政府の言う『脅威』は消えたはずなのに、未だに軍縮を行わない政府や軍に対しての抗議」だと、供述していた。


 ちなみに、件の政治団体と抗議活動を実施している市民団体も抗議活動を共同で開催するなど付き合いは深く、今回の活動も政治団体側が応援の人員を送り込んでおり、その人員が事件を引き起こしたようだ。

 主催者の市民団体側が「自分たちは関係ない」といったのは事実ではあった。彼らもいくら武闘派といっても近年は目立った動きを見せていない団体が真っ昼間にしかも警察が監視している中で火炎瓶を投げつける真似をするとは思っていなかったようだ。

 自分たちの活動に水を差されたと市民団体の代表は激怒し、政治団体側に抗議したらしい。もっとも、政治団体側は一切取り合わなかったようだが。


 さて、今回の基地に対して火炎瓶を投擲する計画をたてた組織は「東亜革命同盟」という。所謂「武力革命」を目指している過激派集団であり、主に1950年代から80年代にかけて国内はもとより国外でも、テロ行為を行ってきた日本も含めた複数の国で「テロ組織」に指定されている組織だ。

 当時は、この時期に同様の活動を行っていた過激派集団と同様に大学生など学生運動に参加していた若者たちを主な構成員としているが、他の過激派組織と違うのはソ連の工作機関がかなり積極的に組織の運営に関与していたとされていることだ。

 これは、後に発見された当時の資料などで判明していることだが、ソ連の工作機関は当然ながら現在に至るまで自身が関与していることを認めては居ない。ただ、ソ連は同時期に東アジアの西側陣営の国々で同様の工作活動を行っていることから「東亜革命同盟」も日本における、ソ連の工作活動を支援する組織であると現在ではみなされていた。

 ソ連という後ろ盾がいるおかげか、1980年代に幹部クラスの多くが逮捕されたにもかかわらず、他の組織と異なり大きく衰退することなく、現在でも活動を続けていた。

 今は、当時のような「武力革命」路線を放棄しているとされているが、それでも抗議集会などの際には一部のメンバーが警察と揉めるということも起こしている。ただ、昔のような爆弾テロなどといった民間人に被害が出るレベルの破壊行為は行っていなかっただけに、今回の件は警察内部でも衝撃は大きかった。




「家宅捜索は3日後に行われる……か」


 証拠はほぼ残っていないかもしれないがな、といって肩を竦めるのは南洋警察庁の公安部長だ。グアム島にも「東亜革命同盟」の支部があった。過去にテロを行っていた組織なので、当然ながら日常的に公安警察による監視が行われていたが、事件が起きるまで支部に目立った動きはなかった。


「どこかに、別の……『裏の拠点』があるはずなんだがなぁ」


 公安部長は支部以外に活動拠点があると考えていた。

 もっとも、実行役たちにそのことを聞いてみても「そんなものはない」という答えしか返ってこなかったが……。

 実行役というのは末端の兵隊のようなものだ、恐らく彼らに重要な話は一切知らされていないだろう。

 他の組織と異なり「東亜革命同盟」は秘密が多い組織だ。ソ連の工作機関が背後にいたかもしれないが、末端の構成員を捕まえても組織の内情はわからなかった。

 これが、他の過激派組織ならば規模も小さいおかげで幹部の居場所などもわかり、検挙はしやすかったのだが「東亜革命同盟」に限っては、それができなかった。

 だが、「東亜革命同盟」の幹部たちも時勢をきちんと把握していたようで新左翼による武力革命思想が落ち着いた頃から目立った行動を起こさなくなり、デモなどの「平和的」な活動に注力するようになった。

 もっとも、すべての幹部たちがそれに納得しているかといえば違った。

 一部には「武力闘争を続けるべき」と主張する者もいた。そして、特に過激な思想の持ち主のものは、組織を抜けて新たな組織を作る者までいた。だが、彼らが作った組織は短時間で崩壊している。警察の捜査によって主要メンバーの大半が逮捕されたからだ。

 結果的に、現在の「東革同」は穏健派が組織の中核になっている。

 彼らは「平和的な革命」を目指している勢力なので、今回のような火炎瓶を投擲するなどというテロ紛いの行動を起こすことなかったはずなのだ。


「『東革同』って武力路線を放棄したって話ですよね?」

「表向きにはそうなっているが、そもそも『東革同』が正式にそういったわけではないからな」


 いくら「穏健派」が組織の中核にいるとしても、彼らは引き続き強い革命思想を持っていると考えられている。彼らは未だに共産主義こそが理想の国家体制なのだと信じ続けて活動をしている。

 だが、共産党系の政治活動は現在でも日本では制限されている。

 そのことに彼らは強い不満を持っていることは、長年の監視でわかっている。つまりは、その不満が結果的に「暴力的な行為」として社会へ牙を剥く可能性だってあるのだ。

 ならば、共産党の政治活動を制限しなければいいという話になるが、それはそれもリスクが大きいと考えられており、現時点で日本政府として活動制限を撤廃するつもりはない。それは、異世界に転移したことで物理的にソ連などと離れた今でも変わらないことだった。


「支部長含めて、あそこの連中はタヌキだからなぁ……確実に証拠になりそうなものは残していないだろうな」


 事件が起きてすぐに家宅捜索が行えれば、偽装工作する時間を削れたのに――と、公安部長は悔しがる。

 長く、公安捜査官として活動していた部長は。ある意味で、グアム支部の支部長とは顔なじみだ。もちろん、親しい仲ではなく常に腹の探り合いをお互いでしているので、仲はむしろ悪いほうだった。


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