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 正暦2025年 1月1日

 ドイツ連邦共和国 ベルリン

 大統領官邸


 第一次世界大戦・第二次世界大戦共に敗戦国となったドイツ。

 ただ、現実と異なり東西に分断されることはなく全域がアメリカ・イギリスなどによって占領されたことから全域が民主主義国のドイツ連邦共和国となった。当初は、二度の世界大戦で敗北したこともあってか軍備の制限がかけられたが東ヨーロッパがソビエトの衛星国となり、更にアメリカとソ連の対立がより激化したことからドイツはアメリカなどによって再度、再軍備されることとなり長らく東西冷戦の最前線として東側陣営を対峙することになった。

 しかし、その間。ドイツ経済は飛躍的な発展を遂げアメリカ、日本に次ぐGDPを記録するなどヨーロッパ最大の経済大国として発展している。ドイツ経済を支えているのは工業だ。勤勉な国民性で知られているドイツは、多くの製造メーカーが本部を置いており特に自動車工業や航空産業、造船業などといった重工業が、近年はIT産業も成長しておりドイツ経済を牽引していた。

 現在では、イギリス・フランスと共にヨーロッパを主導する列強の一つにまで返り咲いており更には国連安保理の常任理事国にも近年選出されるなど国際的地位を大きく向上させていた。


 ベルリンの中心部にある大統領府では、大統領を本部長とする非常対策本部の会議が開かれていた。未明に発生した地震では建造物の被害はなかったが突然の地震で驚いて転倒するなど各地で百人近い負傷者が確認された。さらに、夜空に浮かんだオーロラのような発光現象にパニックになった住民から警察などに多数の通報が入り一時、緊急回線がパンク状態になるなど混乱は見られたがそれ以外では目立った問題は起きていない。

 ただ、外に目を向けてみると多くの問題が積み上がっていた。


「一番の問題はイギリスとソ連の消失か…大陸が分断されるほどの地殻変動が起きたと見ていいのだろうか?」

「他国からの情報では観測された地震は我が国と規模は変わりませんでした」

「専門家はどう言っている?」

「こんな現象は前例がなくなにもわからないそうです。ただ、これほどの大規模な地殻変動を起こすならばもっと強い地震が観測されているはずだ――というのが専門家の見解です」

「ソ連が消えたのは安保上喜ばしいとは言え。海外との通信途絶は厄介だな。衛星すらも使い物にならないとは…これでは、各国との貿易にも支障が出るし、エネルギーも不足するではないか」


 ドイツもまた原油などを海外からの輸入に依存している。

 主に中東方面や北海油田からの輸入だ。原発はあるが、リベラル政権が長く続いたこともあり原発から再生可能エネルギーへの転換が急速に進められた結果、国内の原発は2基ほどしかなくとてもではないが国内の全電力を賄うことはできない。そして、肝心の再生可能エネルギーだけで全電力を賄えるわけもないのでドイツの電気は大部分を火力発電で賄っている。不足分は主にフランスやイタリアから高額で購入しており、財政上の負担にもなっている。とはいえ、新規に原発を建設することは住民の反発が強いことから難しく、核融合発電所も住民たちの反対で建設することが出来ない。

 中東諸国とは一切連絡を取ることが出来ない。

 ギリシャによればトルコが消失し、その代わりに未知の大陸と繋がったという話なのでおそらくはユーラシアのアジア側はそっくりそのまま消えたと考えていいだろう。


「…ともかく、フランスと連携しながら少しでも状況を改善できるようにするしかないな」




 同日

 フランス共和国 パリ

 大統領宮殿



 ドイツやイギリスと並んでヨーロッパの中心国家であるフランス。

 NATOや欧州連合に加盟はしているものの、その独自の外交政策によってNATOの盟主であるアメリカとやや距離を置き、西欧諸国の中で比較的ソビエト連邦に対して融和的な姿勢を示すなどしていたが近年では距離を置いていたアメリカとの関係を改善させるなどしている。

 それでも、現在でもなお西欧の中ではソビエトとの関係は比較的良好なのは変わらない。そんな、フランスもまた突如として対岸のイギリスが消えたことに国内は混乱していた。


「一体何がおきている?」

「どうやら、大規模な地殻変動がおきているようでソビエトとトルコが消えたという報告がギリシャとポーランドなどから寄せられています」

「確かに、突然揺れたがそのせいか?」

「現時点で詳細は不明です」

「それで、大陸外との通信は一切とれないのか」

「はい。大陸外の大使館との電話やメールは一切不通になっています」

「…それは困ったことになったな。各国に滞在している我が国の国民の安否までわからないということか」

「残念ながらそのとおりです。ドイツからは連携してこの事態の対応にあたるべき――という意見が出ています」

「そうだな…どうやらイギリスも消失したようだし。ドイツやイタリアなどと協力してヨーロッパをまとめるしかないな」

「世論はイギリスが突然消えたことにかなり混乱しているようです」

「…とはいえ、どう説明すればいい?我々ですら事態が出来ていないというのに」


 困惑する大統領。

 なにもわかっていない段階で国民向けに会見するのは出来ないと顔に書いてあった。同席している首相も同様だが「とりあえず、調査中ということだけでも言ったほうがいいのでは?」という提案をしてみた。


「確かにそうだな…夕方に記者会見をするとマスコミ伝えてくれ」


 その間に少しでも情報が集まればいいのだが、と祈る大統領。

 だが、残念ながら記者会見の時点で分かったものは殆どなかった。

 それでも記者会見に望んだ大統領は国民に「冷静になるように」という呼びかけに終始することになったが残念ながらこの記者会見だけでは国民は冷静になれるわけがなく、大統領宮殿前では一部の市民が「政府はすべてを説明しろ!」という抗議集会が開かれることとなるのであった。

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