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 西暦2025年 1月1日

 イギリス連合王国 ロンドン


 かつては、世界各地に広大な植民地を有していた海洋帝国・イギリス。

 それでも、イギリスは世界を代表する列強の一国であることには変わらずEUやNATOの主要加盟国であった。

 現実世界と異なりイギリス連合にはアイルランドも加盟していた。

 ウェールズ・スコットランド・アイルランド・北アイルランドは独自の議会と政府を有しているが外交や国防などは中央政府が責任を持つという所謂同君連合という形で一つの国を作り上げている。


 イギリスでも日付変更と同時に全土で地震とオーロラのような発光現象が確認された。日本などと違いイギリス全土で地震が観測されたのは過去には例はなく、慣れない地震に年越しイベントなどに参加していた住民たちは一時パニック状態になったが、朝になるまでは深刻な状況に陥っているということはわからなかった。

 はじめに、異変が伝えられたのは対岸のフランスが見えないというものだった。同じ頃、フランスとを結ぶ鉄道トンネルである英仏海峡トンネルが途中で崩落して列車の走行が出来ないという報告も鉄道会社からあり政府はすぐに調査のために軍を派遣したが、やはり40km先のフランスを確認することはできずそのかわり、本来ならば南米のアルゼンチンの沖合にあるはずのイギリス領フォークランド諸島の島々がイギリス本土の南100kmほどのところで発見された。

 更に、驚きの報告がアイルランドのイギリス軍基地からもたらされた。

 それが、日本空軍の戦闘機が防空識別圏に侵入したというものだ。

 イギリスと日本は1900年代前半から現在まで長らく同盟関係を結んでいる友好国だがイギリスはヨーロッパの北方にある一方で、日本は大陸の反対側――太平洋にある国だ。なぜ、日本が大西洋にあるのか、と報告を受けた軍高官は困惑するほどだ。

 しかし、実際に日本空軍の戦闘機がアイルランドからイングランドへやってきたこと。そして日本軍の戦闘機パイロットから「異常な電波が確認されたという報告があったので東に向かったら警告を受けた」という証言。アイルランド駐屯の空軍機が西へ向かった結果、日本軍機の出迎えを受けたことからイギリス政府は日本が自分たちの西にいることを確信し、すぐに日本政府との間で連絡をとりあうことを決めた。

 といっても、日本側も情報収集の途上であるため判明しているのはユーラシアの喪失と東南アジアの一部とオーストラリアやニュージーランドなどオセアニア諸国が発見されたくらいだった。

 それから、数時間後にアメリカの存在も確認されたことからイギリス本土が太平洋上に転移したことが明らかとなり、イギリス政府の高官は今後の事を考えて頭を抱えたのだった。


「私は夢でも見ているのかしらね」

「残念ですが、これが現実です」

「…もちろんわかっているわよ。でも、これほど突拍子のない出来事が現実に起きると誰が予測できるのかしら」


 エリザベス・ハワード首相は現実を直視したくないようだ。

 まあ、当然だろう。いきなりフランスが消え、英仏海峡トンネルが途中から消失した。さらにいえば西に太平洋にいるはずの日本がいるなんて聞いたら誰だってそんなのを信じたくないと、目を背けるのは当然だ。

 だが、鉄の女二世などともメディアで囁かれている女性首相はすぐに「これはむしろ良いことなのでは」と思い直した。新たな隣国になった日本は温厚な国だ。さらに国内では近年難民や移民の受け入れを半ば押し付けているEUに対しての反発も強まっていた。

 ハワード政権は基本的にEUから離脱しない方針ではあるのだが、EU離脱を唱える国粋主義者の支持率が上がっていて党としてそのことに危機感を持っていた。現在のハワード政権は右派・保守党による単独政権だ。

 ハワードが「鉄の女二世」などと呼ばれているのも1980年代にイギリス初の首相として辣腕をふるったサッチャー首相を彷彿とされる保守主義者だというのも大きい。おかげで、リベラル勢力からは目の敵にされているのだが。


「…日本が隣国になったほうが我が国としてはむしろ都合がいいわね。日本なら石油も買ってくれるでしょうし」


 などという計算をしながら、ハワードは早速日本と連絡を密に取り合うように、という指示を外務大臣に出した。



 同日

 アメリカ合衆国 ワシントンD.C.

 ホワイトハウス


 超大国・アメリカもまた未明の地震と発光現象によって混乱していた。

 各国との通信が途絶し、更にハワイ諸島との通信も一時的に不通になったこともあって国防総省などは「ソビエトがついに動き出した」と考えるなどアメリカ政府は第四次世界大戦の引き金が引かれたのでは、と警戒したほどだが程なくしてハワイとの通信が復旧。日本の存在が確認され、更に日本から「地形がめちゃめちゃになっている」という報告が届く。

 同じ報告は、中米のパナマからも「南アメリカが消失し未知の大陸と接続した」という報告が来ていた。


「これほどの地殻変動が起きたら大規模な津波が起きるが。観測は?」

「津波の観測はされていません。ただ、珍しいことに全土で地震を観測した模様です。日本の下岡首相は『異世界に転移したのでは』という内容の記者会見をしていますが

「『異世界に転移』だと?日本らしい突拍子のない発表だな」


 補佐官からの同盟国・日本の発表にトレイ・クロフォード大統領は渋い顔をする。


「しかし、あながち間違いではないかもしれません。つい先程ヨーロッパとの通信が回復したのですが、ソビエトとアジアが消失したようでバルカン半島の先端部がこちらも未知の大陸と接続している、という報告が届いています。なんらかの超常的な存在によって地形が大きく変わったのは間違いないでしょう」

「つまり『神』が何かをしたとでも言うのかね?それこそ常識的にあり得ないことだと思うが」

「ともかく、日本やヨーロッパなどが見つかったのは我が国にとってよかったのでは?」

「たしかにな。ヨーロッパの報告を信じるならばソビエトはどこか別のところに移動したようだしな。だが、ソビエトと北中国あたりを野放しにするのは危険だな。本当に日本のいう『転移』があったとすればそれこそ別世界の国家が存在する可能性もあるのだからな…」


 などといいつつも、このときのクロフォードはまだ半信半疑の状態でありとりあえず軍に対して周辺地域の調査を徹底的に行うようにと指示を出しながら、連絡がとれた日本などと情報の整理を行うこともあわせて指示した。


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