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拝み屋さん

ある土地の話

作者: 原田 和





さて、何から話そうかな。少し長くなるけど、分かりやすいように話さなくてはね。

ん?要点だけ言え?タイパ?

何言ってんの。要点だけ言って文句言わず納得するならするけど、大体しないんだよ。してくれるなら、俺も楽なんだけど。あぁ、スマホ、壊したくないなら電源切っといて。弁償だ何だと言われたくないし。忠告したからね。

鼻で笑ってる君ら、何で此処に呼ばれたか分かってる?えらい事してくれたね。とりあえず、黙って聞いてくれる?先に親御さんには話してるから、出てっても連れ戻されるだけだよ。




学校からの帰り道に、森があるでしょ。鬱蒼とした。そう、隣に古い家が建ってる。あそこは何年も前から空き家だよ。持ち主が不幸な死に方をしてね、仕方ないから一時的に俺らが管理してるんだ。他の誰かに任すよりかは安全だって言われてね。あれでも手入れしてるんだよ。決まった日にしか入れないから、どうしても見た目鬱蒼だけど。

で、君ら学生の間で噂になってるんだってね。幽霊がでるって。皆知ってる?だろうね。

毎年毎年、この時期に肝試し対象になってるからね、あの場所は。けどいくら暇でも、遊び半分で行っていい場所じゃないんだわ。毎年毎年、痛い目に遭ってるのが数人いるのよ。

何で言わない?いや、注意喚起、してるよ。毎年。人間やっぱり、経験しなきゃ身に沁みないのかなって毎年思ってる。行くなって言われなかった?あれ、フリじゃないからね。マジなやつだから。

でもね、今まではそれで済んでたのが、




……君ら、ホントえらい事してくれた。

…そこの、震えてるね。でも最後まで聞いてね。言い訳は結構。もう分かってるから。

家、入ったんだろ。でも何もなかった。それは当然。近所の人達と片付けたからね、荒らされたら困る。これでも管理者だし。

そこまでは、いい。でも君ら、入ったね。森に。立ち入り禁止の札、ぶっ壊して。

それが、此処に呼ばれた理由。

今まで家に入るやつは居ても、流石に森に入るバカは居なかったんだわ。どんな鈍感でも、あそこは駄目だって分かるから。こんなに居たのに、誰も気付かなかったなんて。…いや、言えなかったのかな。何人かは気付いてたみたいだし。

あの場所は人が入っちゃ駄目なんだよ。神さんの土地だから。そうだね、禁足地って言えばいいかな。

俺も決まった日にしか入れない。汚す事も、侵す事も絶対に赦されない土地。

そこがあるから、この辺の地域は守られてる。

まだ笑うか。時代錯誤、まぁ何と言われても事実は事実。俺含めて、皆生かされてる事をお忘れなく。

ん?持ち主は何で死んだのか?

君らと同じよ。森を汚そうとしたから、神さんの怒りをくらったんだ。いや、同じじゃないな。君ら、壊しただろ、神さんの祠。それに土地も荒らした。ゴミだらけにして帰ったんな。ありえんわ。

鈍感通り越してただのバカ。

で、君らのありえん所業に神さん怒ってる。あ、自分は壊してないとか、荒らしてないとか通用せんよ。神さんは全員に怒ってる。全員を連れていくって、聞いてくれんぐらい怒ってんのよ。

……あぁ、気付いた?そう、君ら見つけて此処に集めるまでに、三人連れてかれた。

あ、神さんの言う全員って、家族親類縁者って事だから。もう君らだけの問題じゃないわけ。こうしてる間も、誰かが連れていかれてるかもしれない。

自分らが今大変な事になってるって、分かってくれた?なら、神さんに謝りに行くぞ。

土地を元に戻して、祠を直す。誠心誠意尽くして謝れば、神さんも怒りを鎮めてくれる。これから、毎日。

……え?何言ってんの?たった一日謝ったぐらいで赦してくれるわけないでしょうが。毎日だよ。何年掛かるか俺も分からんけど、方法はそれしかないの。

丁度帰り道なんだから手間ではないだろ。あのな、知らなかったでは通らんの。

荒らし、壊したのは、間違いなく君らなの。

神さんを怒らせたのは、君らなの。

責任は取ってもらう。誰も代わりは出来んし、神さんはずっと、見てるぞ。










 「兄さん、お疲れ」


 「……おぉ、帰ってたんか、お帰り……」


 「うん、ただいま。どうだった?大人しく続けそう?」


 「……。いんや、多分サボる」


 「分かってないのね、兄さんがこんなに体張ってるのに」


我が家は代々続く、拝み屋だ。

先代の祖母が亡くなり、俺が継いだ。俺には拝み屋の才能があり、妹はからっきし。

それで良かったと、今では思う。神降ろしは恐ろしく疲れるのだ。こんな思い、妹にはさせられん。


 「あの問題児達だけど」


 「うん、」


 「喉元過ぎればってやつね。私に喧嘩売ってきたわ」


 「ん、どいつだ。殴る」


 「大丈夫、返り討ちにしてやったわ」


溜息を吐く妹は、淑やかに見えて武道派だ。大抵の輩は片手で往なす。


 「ねぇ、もしサボったらどうなるのかしら」


 「……この辺で、変死が相次ぐだけだよ。神さん、まだ怒ってんだから」


 「私からも言っておくわ。兄さんが説得してくれたから今無事なのに…」


 「……すぐ、分かると思う」


妹の後ろを、する、と横切る影。

神さんは、祠修繕中の為我が家に居る。何をするでもない。祖母の決め事で、掃除は徹底されているので、居心地はいい方かもしれない。静かに、此方の会話を聞いている。そして、たまにああして出掛ける。

俺たちには何もしないが、神さんは、まだ怒っているのだ。命取るまではいかなくとも、何かしら警告を送っているのだろう。


 「何年掛かるのかしら…」


 「さぁ。ただ…、」


 「ただ?」


 「先祖代々が守ってきたトコだから。それこそ、人一人の一生じゃ足らないだろうと思うよ」









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