ひとりでねんねできたよ!
「わたしね、昨日ね、はじめて自分のお部屋でひとりで寝たんだよ!いつも寝る時は、お母さんたちと一緒のお部屋で寝るけど、来年は小学生になるし、いつまでもお母さんたちと一緒に寝るようなお子ちゃまでいられないなって思ってね。すごいでしょ!」
幼稚園に行くと、みなちゃんがみんなにえっへん!と自慢していました。すると。
「なんだそれ?そんなの普通じゃん!ていうかさ、今まで吉田はお母さんたちと一緒の部屋で寝てたのか?ダッセ!」
と、わたしたちの話を聞いていたたくまくんが、そんなことを言ってきました。たくまくんがそういうと、みなちゃんが泣いちゃいました。
「うわ~たくまくん、みなちゃん泣かせた~!サイテー」
「ほんとのことだろ!幼稚園生にもなって、お母さんたちと一緒に寝てるとかダセーだろ!」
「せんせ~!たくまくんがみなちゃんを泣かせた~」
「うう…お母さんもえらいって褒めてくれたもん…ひぐっ」
ひっくひっくと泣いているみなちゃんの背中をわたしは擦りながら、こころの中では困っていました。
…わたしまだ、お母さんたちと一緒のお部屋で寝てるけど、どうしよう…
と。
☆彡
「お母さん、わたし今日から自分のお部屋でひとりで寝る!」
ようちえんから帰ってきて、わたしはすぐにお母さんに言いました。
「あらあら、急にどうしたの?」
「なんかね、みんなもう自分のお部屋でひとりで寝てるって。でね、幼稚園生にもなって、お母さんたちと一緒に寝てたら『ダサい!』ってたくまくんが言ってたの!だからね、わたしね今日から、自分のお部屋でひとりで寝るの!」
「あらそうなの?でもそうね、そろそろひとりで自分のお部屋で寝られるようになった方がいいわね」
と、お母さんは言いました。
☆彡
ねんねの時間。
「今日から私は、お部屋でひとりで寝ます。おやすみなさい」
私がいつも抱っこしながら寝てる、たれみみうさぎのぬいぐるみのロップちゃんを抱っこしながら、お父さんとお母さんに言うと。
「ええ!?りりちゃんひとりでお部屋で寝るの?ひとりは寂しいよ?怖いよ~?」
と、お父さんは私を怖がらせるようなことを言います。サイテー。
「ちょっと、パパ。寂しいからっていぢわる言っちゃダメよ~。りりが頑張って小さな自立しようとしてるんだから~!」
「自立…うぅっ…そっか…そうやって大人になっていって、結婚して…誰か知らない男の嫁に…うぅう……」
「…お父さん、さすがにそれは気が早すぎよ」
お父さんは、ひとりでよくわからないことをぶつぶつと話ながら、何故か泣いていました。そして、お母さんに慰められていました。
「じゃ、おやすみりり」
「怖くなったらパパを呼ぶんだよー!」
「はいはい、あなたは私と寝ようね~」
そう言いながら、お母さんはお父さんをお部屋に引きずっていきました。
────パタン。
自分のお部屋に入る。何だかいつもより、広く感じます。
「…さて、電気を消して寝ますかね」
私は、入り口傍の電気をパチッと消して、ベッドにもぞもぞと入りました。ふかふかであったかくて気持ちいいお布団。
「おやすみ、ロップちゃん」
と、たれみみうさぎのロップちゃんにおやすみを言うと、私はお目目を閉じました…
だけど…
「う~ん…んん~…」
お布団に入ってもなかなか寝られません。ふと、私はパチリと、閉じていたお目目を開けました。
そこは─
「まっくら─…」
まっくらで、何も見えない。すると、暗闇のなかをジーッと見てると、暗闇のなかにさらにまっくろい何かがモゾモゾと動いているように見えました。
(へぇ!?お、おばけ!?)
私はこころの中でそう言って、ぎゅうっとお目目を閉じて、頭までお布団を被りました。
眠ろうとするけど、お布団の外におばけがいるかもしれないと思うと、怖くて眠れません。
(怖いよ…たすけて…パパ…ママ……!)
ぎゅっとつぶるお目目のすき間から、涙がほろほろこぼれます。ぎゅっとお目目をつぶりながら、ロップちゃんをぎゅっと抱きしめました。
すると。
『─だいじょうぶだよ、こわくないよ』
胸の中から、そんな優しくてあったかい声がしました。
「…へ?なに?だれ?」
『ほら、りりちゃんの胸の中にいるよ』
声の通りに、私の胸のところを見ると、抱きしめてるぬいぐるみのロップちゃんが、たれみみをパタパタとさせながら、つぶらな瞳で私のことを見ていました。
「え?ロップ…ちゃん?」
『こんばんは、りりちゃん!』
「え?ロップちゃんしゃべれるの?」
『う~ん…ほんとはおしゃべりできるけど、ふわふわ界の神様が厳しいからさ、あんまりおしゃべりできないんだ。ボクたちは、人間を優しく見守るのが役割り…お仕事だから』
「ふーん、そうなんだ?よくわからないけど、いつも傍にいてくれてるってことだよね?ありがとう!」
『ボクの方こそ、いつも大事にしてくれて、傍に置いてくれてありがとう!』
ロップちゃんはそう言って、たれみみをパタパタとさせました。
『それより、りりちゃん。今日からひとりで自分のお部屋で眠ろうとしてるんだね。えらいね!』
「うん…でも、お布団の外におばけがいて、怖くて寝れないの。どうしよう…」
『だいじょうぶだよ、ボクも一緒にいるし。おばけはね「怖い」って思うこころから見えちゃう幻なんだよ』
「まぼろし…?じゃあ、ほんとうはお布団の外におばけはいないの?」
『うん。今ね、りりちゃんひとりで寂しくて心配でしょ?だから、その不安なこころのものが「おばけ」っていう形になって、りりちゃんにはそう見えるんだ』
「う~ん、よくわかんないけど…どうしたらいいのかな?」
『ボクのことをぎゅっと抱きしめて』
ロップちゃんの言う通り、私はロップちゃんのことをぎゅっと抱きしめました。
『怖くないよ…だいじょうぶ。隣のお部屋には、お父さんとお母さんもいるし。それに、ボクも一緒にいるから。だからあんしんしてねんねしていいよ…』
ロップちゃんは優しい声でそう言いながら、私のお腹あたりを優しくさすってくれました。すると、何だかとても眠くなってきました…
「ロップ…ちゃん…」
『…おやすみ、りりちゃん。今度は夢の中で会おうね─…』
ロップちゃんのやさしいこえが、遠く…なっていきます。
ふわふわとした世界に、ロップちゃんがふわふわ浮かんでて、私はロップちゃんと手をつなぎながら、パジャマ姿で、お星さまがきらきらとした夜空を飛んでいました。
そして…
『─ちゃん、りりちゃん、朝よ。起きて…』
お母さんの声が、ぼんやりと聞こえてきました。
「…ん?」
ぱちりとお目目を開けると、そこにはお母さんがいました。
「おはよう、お母さん」
「おはよ、りりちゃん。ひとりで眠れたんだね。えらいね」
そう言ってお母さんは、にこっと笑って私の頭をなでなでしました。
すると。
『よかったね、りりちゃん!』
胸に抱きしめていたロップちゃんが、優しい声でそう言いました。
私は嬉しくて、にっこにこになりました。
何だかちょっとだけ、昨日よりお姉さんになれた気がしました。