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小説家になろうラジオ大賞4

屋根裏の集い

作者: 尾手メシ

 細い階段の前に、何気ないふうを装って、男が一人立っている。特徴の無い顔はわずかに俯けられ、量販店の服に見を包み。そんな男が立っている。

 その男に、木彫りのクマは懐から取り出した招待状を手渡した。受け取った招待状の裏表を検めてから、そこで初めて男は木彫りのクマに視線を向けた。

「冬至冬中冬始め」

「中に裏あり表なし」

 男の問いに、木彫りのクマは間髪入れずに答えた。

 自宅を出る前にさんざん練習してきた問答だ。木彫りのクマの言葉に淀みはない。

 男は一つ頷くと、すっと一歩脇へ避けて恭しく頭を下げた。

「ようこそいらっしゃいました、木彫りのクマ様。どうぞ、先へお進み下さい」

 男に会釈だけを返して、脇を抜けて階段の手すりに手を掛けると、木彫りのクマは細い急な階段を慎重に登り始めた。


 一段上る毎に、古い木の階段がギシギシと軋みをあげる。

 そうして七段ほどを登れば、手を伸ばせば触れそうなくらいに低い天井の、しかしそこそこの広さの空間に木彫りのクマは立っていた。どうやら彼が最後だったらしく、すでに幾人もの人間が談笑している。天狗、パピヨン、戦隊ヒーロー。薄暗い中に、様々な仮面が蠢いている。

 その談笑の輪の中から、一人の人物が進み出してきた。今時珍しいダブルのスーツは真っ白で、胸ポケットには紫のハンカチーフを忍ばせている。顔を覆う黒いガスマスクが、白いスーツに良く映えていた。

「最後の参加者は君だったのか、木彫りのクマ」

「ご無沙汰しております、ガスマスク」

「いや、本当に久しぶりだね。あの時の小僧がずいぶんと立派になったものだ」

 ガスマスクが木彫りのクマを見ながら、一つ二つ頷いた。そして、やおらに背筋を伸ばす。纏う気配ががらりと変わり、にわかに空気が張り詰めた。

「その面を被ったということは、覚悟は決まったのかね?」

 固い声で問うてくるガスマスクを、木彫りのクマは真っ直ぐに見返した。

「はい、勿論です。祖父が果たせなかった悲願を、私が叶えてみせます」

「そうか、ならば良し」

ガスマスクのその奥で、満足そうに目が細められらる。

「皆の者、ここに全ての参加者は揃った。さあ、屋根裏の集いを始めよう」

 ガスマスクの声が、屋根裏部屋に響き渡る。もう後には引けない。必ず祖父の悲願、「屋根裏に隠すべきテストの点数」の謎を解き明かすのだ。

 木彫りのクマは強く拳を握りしめた。

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