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第二十七話『そして旅は始まる』

「お二人とも、お待たせしましたー! ……って、お二人とも何かいいことありました?」


 俺たちも元を離れてから十分後、飛ぶようなスピードでコハルは俺たちのもとへ帰って来る。その背中には小さな風呂敷が背負われていて、身支度はばっちりと言った感じだ。……まあ、その小さな風呂敷だけで荷物がばっちりなのかどうかは定かではないが――


「……いい事があった、って?」


「いえ、お二人の表情がかなり穏やかなもののように見えまして。私が行く前はちょっと思い詰めてたみたいですし、何かいい事でもあったのかな、って……」


「ああ、そうじゃな。……わらわにとっていい事が、お主のおらぬ間にあったのじゃよ」


「ええ、そうなんですかあ⁉ なんで私のいないときに限ってえ……」


 コハルの質問にリーシアが軽く返し、それに対してコハルが頭を抱える。それを笑って見つめるリーシアの表情は、コハルの言う通り穏やかなものだった。


 さっき言ったみたいに、リーシアの表情に恐怖の色は見えない。この二人の間に流れる空気感は、友人同士のものと言ったって過言ではなかった。


「いや、お主が居ないからこそ起きた幸運かもしれぬぞ? まあ、わらわたちからすればコハルという協力者を見つけられたこと自体が幸運なのじゃが」


「感謝すればいいのか抗議すればいいのか分からないお言葉! 一応悪意はなさそうですしそう言っていただけたのは嬉しいですし感謝いたしますけども! ありがとうございますリーシア様!」


 コハルの表情はころころと変わり、喜怒哀楽を一周してから最終的に頭を下げる。その様子は賑やかで、見ているだけでどこか心が和むようだった。


 仮に『赤薔薇姫』への恐怖心があったって、目の前の『リーシア』に対してコハルは一切遠慮がない。一応俺たちもそこそこいい身分を名乗ってはいるのだが、そんなことはもうお構いなしだ。それでいいと思うし、そうである方が嬉しいし。


「俺からしてもお前の存在はありがたいよ。俺たちについてきてくれてありがとうな、コハル」


「ルカ様からまで! 私いつの間に徳を積んだんですかあ⁉」


 俺からの礼がそんなに意外だったのか、コハルは飛び跳ねるようにして俺に向けても頭を下げる。同じ礼を受けたのでも、俺とリーシアの印象はそこそこ違うようだ。そのことに首をひねっていると、俺の裾をリーシアがちょんちょんと引っ張ってきた。


「……ん、どうしたリーシア?」


 それに気が付いた俺がリーシアの方を向くと、内緒話と言わんばかりにリーシアが耳元に口を寄せようと必死に背伸びをしてくる。それに応えて俺が小さく屈むと、その耳に嚙みつかんと言わんばかりにリーシアは口を近づけて――


「……仲間と親睦を深めるのは良い事じゃ。……じゃが、目移りは許さぬぞ?」


「大丈夫だよ、リーシア。……お前だけが、特別だ」


「うむ、ならよい。気にするな、ただの確認じゃ」


 蠱惑的な忠告に応えてささやき返すと、満足そうな頷きが返って来る。コハルとやり取りをしている俺を見て、不安に思ってしまっていたのだろうか。そんなやきもち焼きも、リーシアがするなら可愛いものだ。こんな可愛い嫁が居て、目移りなんかできるわけもない。


「……あ、お二人ともまた私のこと置いてけぼりにしてる。恋仲ですからいいですけど、あまり蚊帳の外にばかり置かないでくださいね?」


 微笑み合う俺たちを見つめて、コハルは頬を膨らませる。さっきまで照れ照れしたり誇らしそうにしていたりしていたのに、その影も見せずにいまじゃすっかりご不満顔だ。この切り替えの早さを忍びらしいと見るべきか、こんなに感情が動くのは忍びらしくないというべきか。まあ、全部ひっくるめてコハルらしいって結論に結局たどり着くんだけどな。


「悪い悪い、うっかり嫁に見とれてた。これからはできる限り二人の時に世界に入り込むようにするよ」


「ぜひそうしてくださいねえ……貴方一応騎士でしょう? 大事な時にリーシア様に見とれて動けないとかやめてくださいよ?」


「大丈夫じゃぞルカ、そうなったらわらわが守る。コハルも見ている通り、わらわもそこそこ腕には自信があるのじゃからな?」


「いや、確かにそうですけどお……もはやどっちが騎士なのか分かりませんねえ……」


 力こぶを作って見せるリーシアに俺は拍手を、コハルは戸惑ったような表情を贈って見せる。俺たちの設定、もしかしてもう少し練った方がよかったりしたかもな……。


「ま、かっこいいところを見せられるように頑張るとするよ。夫が頼りないんじゃ、将来家庭を持つときに困っちゃうしさ」


「とはいえ、今は定住する家を持つための街に入ることが難しいんですけどねえ……。とりあえず、それが第一目標になりそうですか?」


「ああ、そうじゃな。……長い旅になるやもしれぬが、ついてきてくれるな?」


 もう一度確認するように、リーシアはちらりとコハルを見つめる。質問の形式を取ってはいたが、それに対してどんな答えが返って来るかは俺たち二人とも想像がついていた。


「もちろんそうですとも! あなたたちを助けると決めた以上、どこまでもお供いたしますよお!」


 ピョンピョンと飛び跳ねながら、コハルは俺たちに向けて啖呵を切って見せる。どこまでもわかり易いその回答に、俺たちは揃って笑みを浮かべると――


「――っし、それじゃあ行くか! 目指せ、俺たちでも入れる町!」


「「おおーーっ!!」」


 ずいぶんと低い志ではあるが、俺の掛け声に応えて二人は拳を突き上げる。俺たち三人の行く当てのない旅は、そんな感じで幕を開けるのだった。

という訳で、次回から本格的に旅の幕開けです!三人の珍道中はどこに向かっていくのか、広がっていく世界をぜひお楽しみにしていただけたらと思います!

――では、また次回お会いしましょう!

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