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第二十四話『付きまとうレッテル』

「ヴォレアに居つく冒険者が一人、コハル・シラヌイ! 今日も今日とて無事帰還しましたあ!」


 門番がいる空間に足を踏み入れるなりコハルは背筋をピンと伸ばし、あらんばかりの声を張り上げて期間を宣言する。はた目から見ると奇行以外の何物でもなかったが、門番はなにも動じることなくペンを走らせた。


「ああ、あんたか。今日もお疲れ様だな。……ところで、そちらの二人は?」


 門番さんの態度を見る限り、コハルとはある程度面識があるらしい。だからこそ普段はいない俺たちの姿が悪目立ちしたのか、門番さんは不思議そうな様子でコハルに話題を振っていた。マズいな、コハルのフォローの準備をしといたほうがいいか……?


 ここに入る前はかなりビビっていたし、上手く話せないなんてこともあるかもしれない。もしそうなったときのために、上手くこの場を切り抜ける策は常に考えとかないとな……。


「はい、今日の冒険に協力してくれた人でして! 手に入った素材を換金して山分けするべく、一緒に行動しているというわけでございます!」


 だが、それくらいはコハルも想定済みだったのだろう。俺が思っていたよりも数倍流暢に、そして自然な答えを返して見せる。これは行ったかと思うくらいに何も違和感のない回答ではあったが、カウンター越しに見える門番の表情は硬いままだった。


「まあ、一応納得はできる話だが……こうして同行しているということは、身分証明ができないということだろう? ただ山分けするだけなら別々に街へ戻っても出来るはずだからな」


「それは……まあ、その通りですけど……」


 少し踏み込んだ門番の質問に、コハルの歯切れが途端に悪くなる。さてはアイツ、あの理由付けだけで行けるって高を括ってやがったな⁉


 頼むからもう少し頑張れ! ここで日和る方がむしろ怪しさが増すってものだろ⁉


「で、でも! 私が身元の証明人になれますし、この街で冒険者免許を取るとも言っていました! 仮に身分証明ができない人でも、保証人が居れば問題はないんでしょう⁉」


 そんな俺の心の声が届いたのか、コハルはきっと前を見つめてそう主張する。しかし、門番さんは申し訳なさそうに頭を掻くばかりだった。


「……ああ、いつもなら――というか、昨日までならそうだったんだがな。今日になって事情が変わったんだ。『赤薔薇姫』が、五百年の封印から解き放たれたというのが原因でな」


『赤薔薇姫』。この世でただ一人、リーシアだけを指し示すその言葉に、俺の背筋が凍る。慌てて隣に立つリーシアに視線を向けると、流石のリーシアも冷静さを保てずに足が震えていた。


「見た目などは通達されていないが、だからこそ今警備は厳しくしなけりゃならん。予言の怪物は、あのリューズ様をも圧倒して見せるほどの力を持つということだ」


「リューズ様が⁉ そりゃあダメですね、絶対開けちゃダメです!」


「って、なんでお前がそっち側に立ってるんだよ⁉」

 

 あまりにも自然に立場を入れ替えて見せたコハルに、俺は思わず声を上げざるを得ない。あの真っ黒野郎がこんなに有名なのにも驚いたが、『赤薔薇姫』復活の報がこんなにも早いのが一番の予想外だった。


「いや、だってリューズ様が倒されるくらいのが解き放たれてるんですよ⁉ 赤薔薇姫のヤバさは御伽噺で聞いてきましたし、そんなのが街に入り込んだら大変じゃないですか!」


「それは……たしかにそう、だけどさ……」


 苦虫をかみつぶすような思いをしながら、俺はコハルの主張を肯定する。ここでリーシアを――『赤薔薇姫』を擁護するような発言をしてしまえば、それだけで俺たちの立場は急激に怪しくなる。ここから先のことを考えると、俺たちは『赤薔薇姫の脅威を比較的軽視してる二人』を演じるしかないわけだ。


 恐る恐るリーシアの方に目線だけ向けると、リーシアは俺を肯定するかのように小さく頷いてくれた。……リーシアのことを恐ろしいものだって話すだなんて、たとえ嘘でもしたくないが――


「……つまり、俺たちが街に入るのは認められない、と。赤薔薇姫の脅威がある以上、身元不明の人間を二人も迎え入れるのは危険ですもんね」


「ああ、そういうことだ。お前さんたちがそうである確率は限りなく低いと、そう分かってはいるのだが――」


「……いや、お主にも門兵としての責務というものがあろう。それを果たしているだけのお主を責めるのは筋違いというものだ」


 意外にも、リーシアが門兵の決断を肯定して見せる。つまりそれは、俺たちのプランが失敗に終わってしまったということだった。


「……ご理解、感謝する。―—コハル・シラヌイはどうする?」


 本当に申し訳なさそうに、門兵は俺たちに頭を下げる。その後に水を向けられたコハルはしばらくあごに手を当てていたが、やがて決心したように首を縦に振った。


「……一旦、外に出させてください。街に入るかはまた判断しますので」


「ああ、分かった」


 そのやり取りを最後に、コハルは回れ右をして外へと視線を向ける。俺たちもそれに倣って、さっきまでいた平原に繰り出すべく足を前へと進めた。


――平穏な日常を手に入れるための、ほんの小さな第一歩。『街に足を踏み入れる』という簡単なワンステップにさえ、『赤薔薇姫』のレッテルは暗い影を落としてきていた。





作戦失敗に終わった二人ですが、果たしてここからどう動いていくのか! 付きまとうものに苦しみながらもどうにか前に進もうとする二人をぜひ応援していただければ幸いです!

――では、また次回お会いしましょう!

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