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第二十一話『作戦の下準備』

「……そういえば、その姿の時って戦闘はできるのか?」


「人並み程度にはな。あの時の様な大立ち回りはできぬが、その程度で手詰まりになるわらわではない」


――俺が作戦を提案してから、大体五分後。俺たちはできる限り多くの魔物を狩るべく、出来る限り奥まった地点へと移動していた。


 お互いに背中を預けあって全方向を確認しつつ、魔物が現れそうな方向に意識を集中する。背の高い草陰、ちょっぴりじめじめとした岩場。そのすべてが、俺たちを街へ導く道しるべだ。


「それなら安心だ。まあ、何かあっても俺が守るくらいの気概ではいるけどさ」


「嬉しい事を言ってくれるではないか。……それならば、わらわも全力でもたれかかるとするかの」


 リーシアがそう言うと同時、背中越しに彼女がわずかに力んだのが伝わってくる。半回転してリーシアが見つめる方に視線をやると、そこには夜も見たような狼型の魔物がいた。基本的に群れで行動する種なのか、その数は少なく見積もっても十匹を超えるだろう。


「あれ、結構多く生息してる種なんだな」


「ああ、アレならば少しばかり多く狩っても問題なかろう。……仕掛けるぞ」


「おっけー、タイミングはそっちに任せる」


 リーシアの合図に合わせて俺も腰を少し落とし、それに応えるかのようにリーシアは腕を高く掲げる。その指先に紅い結晶が集中して、見る見るうちに矢の形をとった。その鋭さは、小型の魔物くらいだったら易々と貫いてしまえるだろう。


「……悪いが、わらわたちの糧となってくれ!」


 こちらを視認したと思わしき魔物に、リーシアはそう叫んで腕を振り下ろす。その瞬間、紅い矢が魔物たちに向けて目にもとまらぬスピードで放たれた。


 その軌跡はとても美しく、その一撃に俺は思わず見とれてしまう。……だが、そんなことを悠長に考えるのは後だ。


「―—いつまでたっても足手まといじゃ、夫失格だからな!」


 昨晩の感覚を思い出して、俺は手の中に紅い刀を作り出す。まだまだ不格好ではあるが、これが俺の暫定戦術だ。リーシアみたいな器用な使い方も、後々勉強するとして――


「……援護射撃は任せたぞ、リーシア!」


「ああ、全力で腕を振るってこい!」


 頼もしい返事とともに、追加で矢が魔物たちに降り注ぐ。かなりの物量で迫るそれを回避しきれるものは一握りしかおらず、大体の魔物が俺の射程範囲に入る時にはもう息も絶え絶えと言った感じだった。


「……無駄にはしねえから、安心してくれな」


 そう口の中で呟いて、俺は昨日よりいくらか軽く感じる刀を振るう。俺の言葉が魔物に届いてないことも、それが綺麗事なのも分かっちゃいたが、これが俺なりのけじめというものだ。


 リーシアの援護射撃のおかげもあって、特に苦戦することなく魔物狩りは進んでいく。俺もある程度この体に慣れてきたのか、感覚の違いに戸惑うことも一度か二度で済んでいた。


「いいぞルカ、昨日よりもかなり動けておるではないか!」


「ああ、おかげさまで――な!」


 後方から矢とともに飛んでくるリーシアの歓声に応えつつ、とびかかってきた最後の一匹に向けて俺は刀を振るう。その一撃が綺麗に入った直後にリーシアの矢が無数に突き刺さったことが致命打となって、魔物はその活動を停止した。


「これで最後……か?」


「ああ。これだけあれば、わらわたちの目的もある程度は達成できるじゃろうな」


 安全を確認してから手招きをすると、とてとてとリーシアが俺の方に駆け寄って来る。およそ五百歳を優に超える吸血鬼に使っていい擬音ではない気がしたが、そう表現するのが一番しっくり来てしまったのだから仕方がない。


 そのまま俺の傍に来たリーシアは、小さなナイフを作り出して魔物の素材を剥ぎ取りにかかる。俺もその姿に倣って小さめの刃物を作り出し、せっせと剥ぎ取っているリーシアに続いた。


「そういえば、この魔物の素材は何に使われるんだ?」


「魔道具の素材になったり、物によっては加工して武具にもできるという話じゃな。魔物はその特性上魔力への順応性が高い故、素材としての需要は尽きることがないのじゃ。危険性が高いものも多い故、欲しいからと言っておいそれと手に入れれないものも多いらしいがな」


「だからこそ冒険者っていう職業も成り立つってわけか。なんというか、思ったよりうまく回ってんだな」


 需要と供給というか、適材適所というか。魔物を買った成果は冒険者たちにも反映されているみたいだし、誰も損しないいいサイクルが出来ている。


「それを上手く使って街の中に入ろうって言うんだから、俺たちも中々にあくどいけどな」


「まあ、否定はできぬな。今こうして回収しているだけでも、軽く三日ほどは食いつなげるくらいの資金にはなるだろう」


 おおよそ使えそうな素材を剥ぎ取り終わって、リーシアは立ち上がる。俺の返しに苦笑しながらも、城から持ってきた袋の中には換金できる素材がこれでもかと詰め込まれていた。


「後は作戦対象を探すだけじゃな。……と言っても、そう時間はかからなそうじゃが」


「マジかよ。リーシア、どこか人の集まる場所に出も心当たりがあんのか?」


 しかし、俺たちの作戦の本番はここからだ。むしろそっちの方が時間がかかるし、何なら数倍面倒だとさえ俺は考えていたのだが――


「そうではない、もっと簡単な話じゃ。……おい、もう脅威は去ったぞ。そろそろ出て来てはどうじゃ?」

 

 くるりと後ろを向き、誰もいないはずの茂みに向かってそう声をかける。いきなり何をしているんだと、俺は首をかしげざるを得なかったのだが――


「……え、何で分かったんですかあ⁉」


 できる限り気配消してたのにい――と。


 そう驚きの声を上げながら茂みから出て来た少女の姿に、俺は思わず腰を抜かした。

最後に登場した少女はいったい何者なのか! 彼女がどのようにここから関わって来るかも含めて、初めての邂逅をお楽しみにしていただけると幸いです!

――では、また次回お会いしましょう!


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