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第十九話『寝坊助の代償』

「……カ。おい……」


――どこかから、声が聞こえてくるような気がする。おかしいな、今までの生活で俺の事を起こしてくれる人なんていなかったはずなのに。その声は自然と、俺の中にしみこんでいくように思える。


 その声を聴くだけで心が温かくなって、声をかけてくれた人の下に今すぐかけていきたくなる。こんな眠りからさっさと抜け出して、今すぐ声の主に会いたくなる。


 思えば、こんなに誰かに会いたいと思ったのは初めてかもしれない。誰も彼も、俺の事を望んでなんかいないのはうすうす分かってしまっていたから。……だから、俺はいつの間にか誰のことも求めなくなっていたのかもしれないな。


「……ちょろいな、俺も」


 そんな風に思っていたはずなのに、ちょっと優しく、寄り添ってくれるだけで俺の気持ちは高模範店してるわけだからな。『誰も要らない』なんて言葉は、寂しがり屋の強がりでしかなかったというわけだ。


「……カ、ルカ!」


「……ああ、今行くよ」


 俺を呼ぶその声はどんどんと大きくなっていく。それに俺は思わず頬を緩ませながら、ゆっくりと、ゆっくりと意識を浮上させていって――


「……って、眩しっ⁉」


――顔を上げるなり差し込む無数の光の明るさに、思わずその眼を覆った。


 なんだこれ、ただ眩しいとかそういうレベルじゃないぞ⁉ なんか光が俺の体の中にまで入り込んで来て、内側から悪い事をされているような――


「……ルカ、早くこっちへ来い! 日光など浴びていてもろくなことは無いぞ!」


 近くからリーシアの声が聞こえてくるが、光を受けてくらんだ俺の視界は未だに戻ってこない。その声と触覚を頼りに平原をふらふらと歩き回っていると、その手が突然ぐいと引かれた。


「う、お……っ」


「こっちじゃルカ、安心して身を委ねるといい」


 その力に逆らえず、俺はリーシアと思わしき人物の胸にすっぽりと収まる。相変わらず温かい肌が心地よかったが、昨日と比べてどこか骨ばっているような気がした。


「―—お前、もしかして姿戻った?」


「なぜ視界もないのにそれだけは分かるのじゃ! ああもう、とりあえずもっとこっちへ来い!」


 図星を当てられたのがよほど意外だったのか、声を裏返らせながらリーシアは俺を抱えてゆっくりと平原を進む。しばらくしたところでリーシアが足を止めると、唐突に俺の視界が鮮明になった。


「……ここ、日陰か」


「ああ。ここまで連れてくるのにどれだけの気力を費やしたことか……」


 俺が視界を取り戻したのを確かめたリーシアが、肩を竦めながら地面へとへたり込む。その姿は初対面の時の小柄なものに戻っていた。どっちの姿も綺麗でかわいいから、俺としては二度おいしいって感じなんだけどな。


「にしても、日差しを浴びるだけでこんなんになるとか……こっちの吸血鬼ももしかして日差しには弱いのか?」


「も、といういい方には少し引っ掛かるものを感じるが――まあ、当然じゃな。日差しを直に浴びれば吸血鬼たちは少なからぬダメージを負う。対策術式を編めば凌げなくもないが、出来るなら日差しを浴びる時間などない方がいいというのが本音じゃな」


「ああ、やっぱり対策術式はあるのか……って、それなら俺の事も守ってくれたって良かったじゃねえか!」


 対策術が自分にしか適用できないというならまた話は別だが、こんな思いはできれば味わいたくなかったというのが本音だ。日差しを浴びるだけで目がくらんで全身の力が抜けていく経験というのは中々にショッキングだったからな。


 しかし、そんな俺の抗議にリーシアは呆れたように首を振る。まるでその原因は俺にあると言いたげな、そんなジト目が俺に向かって向けられていた。


「……ルカがもう少し早起きだったなら、そうするのもやぶさかではなかったんじゃがな?」


「あー……」


 ごもっともな指摘に、俺は思わず頭を掻いた。ぼんやりとした意識の中ではあったが、俺は確かにリーシアに何回も呼ばれていたような気がする。アレは幻聴でも何でもなく、ただ眠りこけていた俺を起こすための呼びかけだったってわけだ。


「もっと早く起きておればわらわにかけたのと一緒にかけてやれたのじゃが、説明もなしにかけるのはもうやめようと決意したところだったのじゃ。……という訳で、痛い目にあいながら勉強してもらうことにした」


「……お気遣い、痛み入ります……」


 リーシアの主張を、俺はうなだれながら全面的に受け入れる。反論してやろうなんて気が一切合切消えうせてしまうくらいには、俺の自業自得でしかなかったからな。


 痛み入るって言葉は教訓に対して使うものだが、今回に関してはそれに加えて本当に痛かった。昨日ほどじゃなくても、しっかり寝ぼけたことを後悔するくらいには俺の心に痛みはしっかり刻み込まれた。多分、もう野宿で寝坊なんてしたくてもできないだろう。


「くっ……くっ、はははっ」


 そんな俺の表情がよほど沈鬱に見えたのか、リーシアはおもむろに笑い出す。そしてゆったりと俺のところまで歩み寄ると、頭にポンと優しく手が置かれた。


「反省、したか?」


「ああ、それはもう心の底から」


「それならよい。わらわも心を鬼にしたかいにあったというものじゃな」


 俺の返事にリーシアは頬を緩めると、ぐしぐしと頭が撫でられる。あまり慣れていないような手つきだったが、多分俺も撫でるとしたら同じような感じになってしまうからお互い様だろう。俺たち二人とも、そういう距離感には慣れてないんだ。


 感触が気に入ったのか撫で続けるリーシアに、俺は目を細めて為すがままにされることを選択する。―—その心地いい感覚が、この異世界生活が一夜の夢ではなかったのだと証明してくれているような気がした。

ということで、ドタバタしながらも二人の生活二日目が幕を開けます! 果たして彼らはどこに向かうのか、そして何と出会うのか!平穏を目指す二人の旅路、これからもぜひお楽しみに!

――では、また次回お会いしましょう!

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