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第十六話『魔物との付き合い方』

「……ルカ、魔物にはとどめを刺していいじゃろう?」


「ああ、流石にそこはな……旅をするって以上、俺たちの身分は必然的に冒険者になりそうだし」


 商人をするには元手が足りないし、吟遊詩人なんて目立つことが出来るはずもない。根無し草的な生き方を俺たちがしていくなら、やるべきことは自然と定まってきていた。


「それを聞いて安心したわ。それを聞かずに殺した挙句、『約束と違う』などと幻滅されてはわらわも泣くに泣けないからの」


「さっき急所を外してたのってそのせいかよ……別にそんなことで別れないし幻滅もしねえって」


 的確にとどめを刺しながらため息を吐くリーシアに、俺は肩を竦めながらそう返す。確かに確認は大事だが、まさかそこまで危惧して動いていたとは予想外だった。


「約束や誓いは大切にせねばならぬものだからな。いくらルカが優しかろうと、それにただ乗りしていればいいという訳でもあるまいよ」


 そう言うと、リーシアはゆっくりと俺から離れていく。柔らかな温かみが離れていくのは少し名残惜しかったが、いつまでも抱き合ったままじゃいられないというのが悲しい現実だった。


「これは……まあ、こことここを持っていけば金にはなるか」


 地面に崩れ落ちた魔物の亡骸を見つめて、リーシアは小さな赤いナイフを作り出す。それを起用に使って剥ぎ取りを続けるリーシアを見ていると、少し気になる事があった。


「五百年寝てた割には、そういう技術には長けてるよな。寝る前からこういうのやってたとか?」


「ああ、たしなむ程度ではあるがな。吸血鬼というのはどうしても力を持つ故、頼られてその力を使わなければならぬ時もあったというだけじゃ。……それも、予言が出るまでの話ではあったが」


 寂しそうにそう締めくくると同時、リーシアの剥ぎ取りも終了したらしい。くるりと振り返ったリーシアの手の中には、魔物の角と爪が綺麗に収まっていた。


「これは売ればある程度の資金になるはずじゃ。魔物の爪は良い武具の素材になるからな」


「成程な、そこはしっかり利用してるのか……。というか、ごめんなリーシア。あんまり思い出したくない思い出だったろ?」


 魔物の素材に関しては興味深いところではあったが、それとこれとは話が別だ。嫌な記憶に触れてしまったことに関しては、俺がちゃんと謝らなければならない事だった。


「ああ、何も問題はないぞ。あれらの記憶に関しては整理がついておる。……それに、その予言を元に封印されなければルカに出会えなかったのじゃ。……そう思えば、悪い事ばかりではない」


「リーシア……」


 俺の眼をしっかりと見据えながらそう言われたことに、俺の心は思わず震える。これ程にまっすぐな思いを伝えられる経験が少ないのか、単純に可愛い嫁にドキドキしているのか。……まあ、両方だろうな。


「とは言え、それだけでア奴らのことを許せるかと言えば違うのだがな。ルカに出会えたというのは結果論でしかない。間違いの報いは、しっかりと受けてもらわなければ」


「ああ、そこはブレないでいいところだからな。一個良い事があったからと言って、お前を苦しめたやつらに歩み寄る必要はないよ」


 戦意もしっかりと残されたその視線に俺は苦笑しつつ、見晴らしのいい平原を一回りぐるりと見まわす。魔物らしき気配はあちこちにあったが、ここら辺を通り抜けようとする人たちの気配は特段見つからなかった。


「――って、俺は何でナチュラルに人と魔物の気配をキャッチできてるんだ?」


「それもまた吸血鬼の体質というものじゃよ。人間にもそういう勘は備わっておるが、吸血鬼は同族以外を判別する能力が高くなるのじゃ」


 完璧に分かるというものでもないがな、とリーシアはそう解説する。……そういえば、俺はもう人間じゃないんだもんな。何回でも忘れかけてしまうが、その度に見える景色が現実を教えてくれていた。


「……ということは、リーシアが攻撃するときに使うのも?」


「アレも吸血鬼の力を活用したものじゃな。名前は……確か、明確には決まっていなかった気がするが」


 そう説明しながら、リーシアは開いた手のひらの上に赤い球体を作り出して見せる。しばらくリーシアはそれをポンポンともてあそんでいたが、突然飽きたように手を振ると同時にその球体は影も形もなく消失した。


「……とまあ、こんな感じじゃ。血の力を使って発動するモノじゃから、無限に使えるものではないのだがな。今のわらわは、その力を使うことに長けているということじゃ」


「だからこそあの黒男も倒せたと。そう考えると吸血鬼パワーすげえな……」


 俺もそれくらい戦えたらリーシアのことを守れるかもしれないが、いかんせん俺は吸血鬼初心者だ。かと言って力を大っぴらに練習するわけにもいかないし――


「……その表情、力の使い方を学びたくて仕方がないといったところじゃな?」


「なぜバレた⁉ まさか、小さいときに言ってた権能とやらで――」


「それを使ってもできただろうが、今回はルカの表情にすべて書いておったわ。……じゃが、ルカも戦えるように成っておいてほしいのは事実。となると、そうじゃな――」


 リーシアは一瞬考え込むようにあごに手を当てると、意を決したように右手を一振り。その瞬間指先から赤い何かが飛び出してきて、平原にあった大きめの岩をいとも簡単に破壊して見せた。


「……てか、さっき探ったときそこに魔物の気配があったような……?」


「そうじゃな。……もちろん、分かってやっておるぞ?」


 俺の質問に、リーシアは当然といった様子で大きく頷いて見せる。その姿を見た俺は、リーシアの真意を一瞬で悟ることに成功した。


 今の行動は、リーシアが俺の意思を尊重してくれたが故に起こしたものなのだ。つまり狙いは、あそこの陰にいる魔物をこちらにまで誘導することで――


「手ほどきもなしにいきなり戦闘とか、流石にスパルタすぎやしねえかなあ⁉」


「大丈夫じゃルカ、わらわも手助けをする! ――さあ、鍛錬の始まりじゃ!」


 思わず悲鳴を上げた俺に、リーシアがとても楽しそうな笑みを浮かべる。俺の初めての魔物討伐は、全く予想もしていない形で始まろうとしていた。

ということで、次回ルカの初戦闘です!果たして彼は吸血鬼の力を引き出せるのか、楽しみにしていただければと思います!

ーーでは、また次回お会いいたしましょう!

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