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第十五話『世界初の会議形式』

「……そういえば、俺の体の事なんだけどさ」


 どれくらい無言でハグをしていただろうか。何か危険が迫らない限りずっとこうしていたいという感情はあるが、そろそろ次の行動に移らねばなるまい。そう考えた俺は、回した腕をゆっくりとほどこうとしながら問いかけた。


「……ああ、吸血鬼の体についてか。それなら問題ない、わらわが些細な変化にも気づけるようになっているからな。……わらわから今体を離そうとすることも、分かっておるぞ?」


「おうっ」


 そんな俺をさらに強く抱きすくめて、リーシアは俺の疑問に回答する。それだけ強く抱きしめても全く体が痛くないのは吸血鬼の力なのか、それともリーシアの体が柔らかいからなのか。どっちにしたってリーシアすげえ。


 だが、その誘惑に溺れてばかりもいられないのだ。せっかく手にした一まずの安息時間、まずは腰を落ち着けられる拠点を見つけたいところだしな。


「そうは言ってもな? 夜になると動き出す魔物とかもいるかもしれないし、街の門だって閉まるかもしれねえんだ。俺たちの計画を進めるべく、そろそろ次の行動を――」


「それは一理ある――が、こうやって抱き合ったまま出来ることはまだまだあろう」


 俺の提案は、俺の胸に顔をうずめようとしてくるリーシアによってやんわりと却下される。まさかここまでベタベタしてくるタイプだとは思ってなかったけど、そういえば目覚めた俺の事もずっと抱えたままアイツと話してたっけ……。


「……それじゃ、抱き合ったまま作戦会議と行くか?」


「そうじゃな。この世界は広い故、やみくもに動いても目的にたどり着けるとは限らん。わらわもできる限り調べてはおるが、知らぬことのが多いのが事実じゃからな」


 その広い世界を見渡しても、作戦会議を抱き合いながらしているのはまあ俺たちだけだと思うのだが。そんなことを思いつつも俺の腕は再度リーシアの腕に回されているわけだから、俺たちはもしかしたら思った以上に似た者同士なのかもしれない。


「とりあえず、あの屋敷から一番近い街に向かうのは得策ではないじゃろう。仲間たちに救出されたあの男が滞在するのもそこじゃろうからな。天敵と同じ場所に拠点を構えるなど肝が冷えて仕方がないわ」


「それに関しては俺も異論はないな。……というか、ひとっところに拠点を構えようってするのがそもそも無理なんじゃねえかって俺は思ってるけど」


「と、いうと?」


 俺の言葉の真意を探るように、リーシアは俺の胸から顔を上げてそう問いかける。柔らかくも真剣なリーシアの瞳が、俺の事をまっすぐに見つめていた。


「俺たち、旅をしながら生活する方が向いてるんじゃないかって思ってさ。どっかに屋敷なんて持っても見つかったら拠点を変えなきゃいけないわけで、それなら俺たちの方からいろんな街を転々とした方が効率がいいんじゃねえかって話」


「それは……まあ、一理あるな。一つのところでのんびりと暮らすだけが穏やかな生活という訳でもあるまい」


「そういうことだ。俺たち二人が敵に脅かされることなく生活する。それがゴールだろ?」


『赤薔薇姫』の異名は知られているかもしれないが、その容貌までは知られていないだろう。それを思えば、いろんな街をめぐりながら生活を続けていくのが一番安全で、穏やかな気がした。


「……レッテルに気が付いた瞬間豹変する人たちなんて、見たくもないしな」


「ルカ、何か言ったか?」 


「いや、こっちの話。俺の心配性が顔をのぞかせてるだけだから、リーシアは気にしないでいてくれていいやつだ」


「そうか……。なら今はこれ以上問わぬが、必要になったなら話すのじゃぞ? わらわとて秘密はあるが、いずれはすべてルカに明かすつもりでおるのだからな」


「それは嬉しい決意だな。……それなら、俺も約束するよ。俺一人でこの心配がどうにもならなくなったら、お前に相談する」


 抱え込んでいたことを一瞬で看破され、気が付けば二つ返事で約束してしまっていた。夫としてこんなんでいいのかという疑問は一瞬頭をよぎったが、リーシアが笑ってくれているからとりあえずは良しとしよう。


「そうじゃ、お主が気にしていた移動の件じゃがな。結論から言えば、今からでも問題ない。確かに門は閉まっておるかもしれんが、昼に多くの行動を起こすことの方がわらわたちからすれば損じゃ」


「うおっ、これまたいきなり――って、え?」


 そう言って、リーシアは俺の頭を肩に乗せてくる。リーシアの形のいい耳がすぐ横に来る姿勢になったが、俺が驚いたのはそこではなかった。


 俺たちは今、夜の平原にいる。もちろん街灯なんてものはなく、あるのは星の光だけ。昼間に比べれば比較にもならないような光量だが、しかし――


「……滅茶苦茶綺麗に景色が見えるじゃねえか」


「わらわたちは吸血鬼、夜に生きる種族じゃからな。夜に生きる者たちが、夜の世界を見られぬのでは問題外というものじゃろう」


 驚く俺に、リーシアが得意げにそう解説してくる。そういえば、俺の体はもう人間のそれとは微妙にずれているのだ。さっき置いておいた俺の体についての解説を忘れていないリーシアの気遣いが嬉しかった。


「そんなこともあって、わらわたちの移動は夜の方が好都合じゃ。時を同じくする人間もおらぬし、それに――」


 そこで言葉を切ると、俺を抱きすくめる力がにわかに強くなる。何が起きているのかと俺が身を固くすると、後方から魔物の悲鳴が聞こえてきて――


「不埒なものの襲撃にも、問題なく対応できるからな」


「……リーシア、お前マジかっけえよ」


 急所を外しながらも、リーシアの作り出した茨の一撃は魔物を的確に行動不能にしている。たった今示された夜間行動の安全性に、俺は思わず賞賛を送るほかなかった。

抱きしめながらの作戦会議が世界初かはともかくとして、リーシアとルカはすっかり夜の十人です。この二人がどんな行動計画を立ててどこに向かうのか、楽しみにしていただけると嬉しいです!

――では、また次回お会いしましょう!

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