⑥⑧
「皆様、アイカ様の嘘に騙されて、口車に乗せられているだけだと、いい加減気付いた方がいいですよ」
「え……?」
「嘘、ですって……?」
「……な、何を言っているの?」
ルビー同様、アイカに対して何か思うことがあったのだろうか。
一瞬だけ怯んだ令嬢達を真っ直ぐ見つめたまま答えた。
「ジュリエット……貴女はルビーを利用してベルジェ殿下に擦り寄っているんでしょう?マルクルス様の事だって……本当に彼だけが悪いのかしら?」
しかし、アイカの一言をキッカケに次々と此方に向けられる敵意の篭った視線。
「キャロライン王女殿下と親しいフリをして、騙しているってアイカ様から聞いたわ!」
「ルビー様の恋心を利用するなんて……!」
「そうよ……!姑息な手を使ってベルジェ殿下の気を引くなんて」
「私はベルジェ殿下と近づく為にキャロライン王女殿下やルビーお姉様を騙したり利用したりはしておりません。キャロライン王女殿下とは仲の良い友人です。お揃いのドレスを着ていたのを見なかったのですか?」
「上手く取り入っただけでしょう!?」
「そんな事をしたらリロイ様にすぐにバレてしまいます」
「…………!」
チラリとアイカを見た。
リロイの名前が出た瞬間に僅かに眉を寄せた。
「それからマルクルス様は『ルビー様を幸せに出来るのは僕しか居ない』とお姉様とベルジェ殿下の前で豪語しておりました。それを見兼ねたベルジェ殿下が、私を助けて下さったのです」
「だけど、それはベルジェ殿下を唆す為の嘘だって……」
「それにルビー様をあんなに嫌っていたじゃない!!」
「アナタがしつこくベルジェ殿下に迫っているだけでしょう……!?」
「……ベルジェ殿下は、そのような姑息な手に靡くような方ではありません。皆様、それはご存じでしょう?確かに昔はルビーお姉様を毛嫌いしてましたが、マルクルス様の件でお姉様はずっと私の身を案じてくれていた事をキッカケに、お姉様との仲は良好です」
そう言うと、令嬢達は再び怪訝そうな顔をして話し始めた。
「確かに……ベルジェ殿下が、そんな相手とパーティーに参加するなんて有り得ないわ!」
「お父様とお母様は、私に新しい婚約者をと肖像画を沢山取り寄せていました。カイネラ邸でベルジェ殿下に迫っている状態で、私の両親はそのように動くでしょうか?」
「カイネラ子爵から相手を探していると連絡を来たって、私の幼馴染が言っていたかも……」
「そういえば、わたくしも……カイネラ子爵がジュリエットの婚約者を探し回っているってお父様から聞いたような」
「…………でも、まさか」
不審に思ったのか令嬢達の視線が次々にアイカに集まっていく。
「だったら、アイカ様が嘘を吐いてるの!?」
「わたくし達を騙そうとしたってこと……?」
「皆様、誤解ですわ……それは」
「それは……?」
「…………」
「私の言葉を信じて下さるのなら、今すぐこの場から去る事をオススメ致します……わたくしはベルジェ殿下に黙ってここに居ます。頭の良い皆様なら、この意味が分かりますよね?」
「わ、わたくしパートナーを待たせて居ますので」
「わたしも!!ご機嫌よう……っ」
「ちょっと貴女達ッ!!」
ジュリエットの堂々とした態度とアイカの歯切れの悪い返事を聞いて判断したのか令嬢達は次々と部屋から去って行く。
それに釣られるようにして他の令嬢も後に続いた。
(賢明な判断よね……)
部屋にはアイカと二人きり……不機嫌そうにアイカの表情が歪む。
「味方も居なくなりましたが、如何なさいますか?アイカ様」
「…………」
此方を鋭く睨みつけるアイカに動じる事なく視線を返した。
「ふっ……」
「…………」
「うふふ、あははッ……!」
突然、アイカは腹を抱えて笑い声を上げた。
「はぁ……あぁ、おかしい」
「……」
「これで勝ったつもり?あり得ないわ」
怒りが籠った低く小さな声が響いた。
「本当、昔のアナタは素直で可愛かったのにね。今は本当に最悪ね。ふふっ、でもこんな人目のない所に一人残るなんてね……馬鹿ね」
「…………」
それでも表情を変えないで平然としていると、気に入らないのかムッとしている。
すぐに余裕のある笑みを浮かべたアイカは二回ほどコンコンと叩いた。




