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ぐるりと会場を見回した。
ルビーは幸せそうに微笑みながらモイセスの側に寄り添っている。
モイセスを見つめる甘い視線に令息達も現実を思い知ったのだろう。
会場の端で令息達がどんよりとした空気を纏いながら料理をつついていた。
モイセスはどこか懐かしそうに目を細めているようだが、まだ何か壁があるように思えた。
ルビーとモイセスの二人の関係を最近見ていると、モイセスはルビーの気持ちに気付いているようだ。
それからルビーに対して、どうすればいいか迷っているようだった。
(……もう一押し、頑張って。お姉様)
長年の一途な片思いと、トラウマを抱えた騎士が結ばれる事を祈らずにはいられなかった。
そしてキャロラインとリロイだが、周囲が全く近づけない程の甘いオーラを放っている。
あまりのイチャイチャ振りに通り過ぎる人々は目を剥いている。
色々な意味で激しいカップルである。
そして国王が直ぐ後ろの方でハンカチを噛みながら、何枚目か分からない涙で濡れた布を交換している。
わざとらしく鼻をかむ音は聞こえないのか、二人は見つめ合いながら話をしている。
(これ以上、近付いたら火傷するわね)
幼馴染ケンカップルは今までの我慢していた分まで愛を爆発させているようだ。
邪魔にならないように端へ移動しようとすると、漂う甘い薔薇の香り。
アイカが近付いてくるのが直ぐに分かった。
(ベルジェ殿下に此処で待っててと言われたけれど、大丈夫かしら……)
しかし、今しかチャンスはないだろうと足を進めた。
リロイや騎士達に合図を送りつつ、お手洗いに行くふりをして会場を抜け出すと、案の定……。
「ご機嫌よう、ジュリエット様。少々、宜しいかしら?」
「…………ご機嫌よう、アイカ様」
そう挨拶をした後、後ろから険しい顔をした令嬢達が取り囲むように身を乗り出した。
「たかが一回、ベルジェ殿下のパートナーになったからって、もう婚約者気取りなのかしら?」
「子爵令嬢如きが図々しくはなくって?本当、意地汚い女ね」
「そうそう。上手く取り入ったつもりでしょうけど、ルビー様を利用して、はしたないったらないわ」
「アイカ様が、ルビー様が可哀想だという言葉の意味が分かりましたわ!本当、許せませんわ」
「……ルビー様を利用してベルジェ殿下に近づく為にマルクルス様も利用するなんて」
「本当……ベルジェ殿下の同情を引いて、キャロライン王女殿下を利用してまでやる事かしら?」
「アイカ様もルビー様を憂いていたわ」
「…………」
四方八方から甲高いヒステリックな声が響く。
当の本人は後ろで高みの見物をしている。
きっと扇子で隠されたは口元は大きく弧を描いている事だろう。
こうして本人が絶対に手を下さずに、嘘と真実を織り交ぜて情報操作を行いながら人を上手く動かしている。
(すぐに仕掛けてくると思ったけど、先ずはこうきたか……)
リロイも何パターンか予測していたが、周りの令嬢達を巻き込んだ緻密な作戦はさすがと言ったところだ。
(……きっと、マルクルスも最後のチャンスとか言われて連れてこられたのでしょうね)
ギャーギャーと騒ぎ立てる令嬢達の前で片手を上げる。
喋る間も無く責められるのを止める為だ。
「あの……ここでは目立ちますのでアチラのお部屋で、お話し致しませんか?丁度、誰もいませんし」
「ふん、まぁいいわ……!」
「この身の程知らずに分からせてあげましょう!ねぇ、アイカ様」
「そうねぇ……今すぐ、今までの発言を撤回するなら許してあげてもいいわよ?」
「今までの発言とは何でしょうか?」
「…………馬鹿ね」
フッと鼻で笑ったアイカは此方に見せつけるようにして、音を立てて扇子を閉じた。
「此方からも一つ、宜しいでしょうか?」
「何よ……!図々しい」
「フフッ、何かしら?」




