⑥⑥
「ありがとう、リロイ!本当にお兄様と違って頼もしいわ」
キャロラインとリロイの仲睦まじい様子に自然と笑みが溢れる。
以前よりも柔らかい雰囲気になったキャロラインの可愛らしい笑みに令息達の頬が赤く染まる。
リロイが直ぐさま、ギロリと周囲を威嚇するように睨みつけると令息達は蜘蛛の子を散らすように去って行く。
「リロイ様、あの件はどうですか?」
「概ね順調なんだが……良い知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたい?」
リロイらしい質問の仕方だと思いつつ「悪い知らせからお願いします」と答えた。
するとリロイはチラリとベルジェを見ながら口を開いた。
「……不確定要素が一つあるんだ」
「え……?」
「この事をベルジェに伝えられなかったんだよ。本当なら今朝、伝えられるはずだったんだけど……その前もリラ帝国の皇太子が朝から晩までベッタリだったから、ベルジェとコンタクトを取れなくて。手紙を送ろうかと思ったけど、皇太子の前で問題を晒すのも気が引けてね。証拠が残るのも微妙だし、誰かに見られるか分からない状況で動けなかったんだ」
「そうだったんですね……」
「まぁ、ベルジェの事だから大丈夫だと思うけど……次は良い知らせね!」
「……はい」
「君達が大幅に遅れてきた事で、アチラさんがかなり痺れを切らしてる。思った以上に早く事が進みそうだよ。それにジュリエット嬢と一緒に居る所を見て、彼女はかなり苛立っているようだよ」
「!!」
「来たばかりで申し訳ないけど、いつ仕掛けてくるか分からないから警戒してね。あとはタイミングを見て誘導してくれ」
リロイの言葉に頷いた。
これを『良い知らせ』と言うのは流石と言ったところか。
ベルジェと共に会場入りした事が気に入らないのか、はたまたアイカが訳の分からない噂を流したせいなのか、此方に殺気を送る令嬢達をチラリと横目で見た。
「いいかい?僕の怖ーいお友達をいっぱい用意してあるから部屋だけは間違えない様にね」
「はい」
「冗談はさておき、バーズ家が責任を持ってジュリエット嬢を守るから……証拠を引き摺り出してくれ」
「分かりました」
リロイと談笑しているように装って周囲を確認する。
そしてモイセスが帰ってくるまでルビーと共に居て、喉を潤しながら話をしていた。
ベルジェが帰ってくると、先程の表情とは一転して、完璧な笑みを浮かべていた。
いつものオロオロして照れながら話す彼の姿が嘘の様だ。
別人のようなベルジェを見て驚いていた。
いつもならニコリと笑える筈なのに、今日は上手く笑えなかった。
(……なんだか知らない人みたい)
完璧王子と言われる理由が改めて分かったところで、タイミングを伺っていた。
ベルジェが眉を寄せて此方を見つめていた事にも気づかずに……。
アイカはというと、慌ただしく会場を出たり入ったりを繰り返している。
(…………やっぱりリロイ様の言う通り、あの男が来てるのね)
遅れてきた事もあり、アチラも計画通りには行かなかったのだろう。
相当焦れているようだ。
ベルジェのパートナーとして堂々と振る舞う事で、更にアイカを焦らしていく。
アイカの目が徐々に血走っていき、表情が抜け落ちていく。
しかし他の令嬢達も同じような状態な為、特に彼女の行動が目立つことはない。
「ジュリエット嬢、すまないが少々挨拶に向かわなければならない。ここで待っていてくれ」
「はい、いってらっしゃいませ」
「……あとでゆっくり話がしたいんだが、いいだろうか?」
「…………。はい」
「ありがとう……すまない」
ベルジェはそう言って手の甲に口付けてから去っていった。
彼の優雅な動きと堂々とした態度が、少し寂しく感じた。