⑥⑤
酔った勢いか、嘘か冗談かとも思ったが、やっぱり違うと思った。
いや……そう、思いたかったのかもしれない。
何も答えないベルジェに痺れを切らして瞼を閉じた。
「……ベルジェ殿下の事、ずっと可愛らしくて素敵な人だなと思ってました」
「!!」
「優しくて真っ直ぐで誠実で、一生懸命で思い遣りがあって……いつも楽しそうに話を聞いてくれて」
「ジュリエット、嬢……」
「でも、今のベルジェ殿下は好きじゃないです」
「ーーーッ!」
ベルジェの真っ直ぐな告白はとても嬉しかったのに、気持ちを全て否定された事がとても悲しかった。
前向きな想いが、ぐちゃぐちゃに潰されてしまい悔しいような悲しいような複雑な気持ちになっていた。
それに彼はひたすら謝っていたが、迷惑などではなく違う一面を見ることが出来て嬉しかったのに、それを説明する事すら出来なかった。
一方的で此方を無視したコミュニケーションは普段のベルジェだったら絶対にしなかっただろう。
そんな時、気まずそうな御者が「着きました」と小さく呟いた。
「今の言葉が本当かどうかは分かりませんが、ベルジェ殿下の告白……私はとても嬉しかったです」
「ぁ……」
「行きましょう。皆様がベルジェ殿下を待ってますよ」
そう言うとグッと唇を噛んだベルジェがフラリフラリと馬車を降りる。
そしてエスコートを受けて、馬車から降りた。
「…………」
「…………」
二人共、何も話すことはなかった。
『全て忘れてくれ』その言葉を思い出す度にチクチクと胸が痛んだ。
会場に着くとモイセスとルビー、リロイとキャロラインと直ぐに合流した。
「少し待っていてくれ」と言ったベルジェはモイセスと共に国王の元へと向かった。
考え込んでいるとルビーとキャロラインが心配そうに問いかける。
「ジュリエット、大丈夫だった……?」
「お兄様が迷惑を掛けてごめんなさい」
そんな二人の言葉に答えるように顔を上げた。
「あのね……ベルジェ殿下に『好きだ』って言われたの」
「まぁ……!」
「……本当に!?」
ルビーは口元を押さえて、キャロラインは手を合わせて嬉しそうにしている。
後ろにいるリロイも「へぇ……!」と声を上げた。
しかし、次の言葉で三人は黙ることとなる。
「でもその後に『全て忘れてくれ』って……」
「「「……!?」」」
「…………」
「あー……もう。はぁ……」
「……ジュリエット」
「お兄様ってば……もう絶対に絶対に許せませんわッ!」
リロイの特大の溜息と、ベルジェとモイセスの方をチラリと見ながら狼狽えるルビー。
キャロラインが苛立ちを押さえるように手を握り込み、拳をブンブン振り回しながらベルジェの元に行こうとするが、それを引き止めてから首を横に振った。
「一発ぶん殴らないと気が済みまないの!ジュリエット、離して頂戴ッ!!!」
「大丈夫よ……今日が終わったら、また元通りになるから。今日は楽しみましょう。ごめんなさい。こんな時に……」
その言葉と同時に気持ちを切り替える。
いつまでも落ち込んでいたら自分らしくないと思ったからだ。
「それよりもキャロラインとお揃いのドレス、どう?似合う?」
「わ、わたくしが選んだんですものッ!貴女に似合うに決まってますわ!!」
自信満々に言い切ったキャロラインは満足そうに腕を組んだ。
なんとか気を逸らせたようだ。
そして先程から山の様な令息達が此方を凝視している。
その視線の先には宝石のように輝いている美しいルビーの姿があった。
モイセスに選んでもらったルビーレッドのドレスは、白い肌によく映えている。
ルビーに身を寄せて小声で呟いた。
「今日はモイセス様から離れない方がいいですよ!皆、お姉様に話しかけようとウズウズしてますわ」
「え……?」
「ルビーはいつもの事だけど、ジュリエット……貴女も気をつけないとダメよ!!」
「えぇ、勿論」
「心配ないよ、キャロライン。僕がフォローするし、準備はもう出来てるから」




