⑥④
「だからっ、誰のものにもならないでくれ……頼む」
「…………ベルジェ殿下」
「ずっと、君の事が……っ」
あまりにもストレート過ぎる言葉に戸惑っていたが、ベルジェの今の状態を確かめなければと口を開いた。
「ベルジェ殿下、酔ってますよね?」
「…………うん」
「酔いは覚めたのですか?」
「うむ!」
「…………」
明らかに酔っ払っているようだ。
眠くなったのか、ボーっとしているベルジェの柔らかくてサラサラとした髪を撫でていた。
気持ち良さそうに目を閉じている姿を見て、胸がキュンとする。
(酔うと本音が出やすくなると言うけれど……)
今、言った言葉はベルジェの本心なのかは分からない。
(ベルジェ殿下の気持ちは嬉しいけど、でも……)
今まで心にずっと突っかかっていた事を問いかける。
「ベルジェ殿下は……アイカ様が好きではないのですか?」
「アイカ……?ルビー嬢の、友人の?好意を持った事はないが……」
やはり全てアイカがついた嘘だったのだろう。
安心からかホッと息を吐き出した。
「そうなんですね……なら」
「…………?」
「私が好きというのは、ベルジェ殿下の本当の気持ちですか?」
その言葉にベルジェはカッと目を見開いてからガバリと起き上がった後に、ソファの端に身を寄せる。
彼を逃さないように体を寄せてグッと顔を近付ければ形勢逆転。
ソファの上で一生懸命に後退しようとしている様子を見るに、少しずつ酔いは覚めてきたようだ。
だんだんといつもの反応に戻っていく。
「ーーージュ、ジュリエット嬢!?!?」
「ベルジェ殿下、ちゃんと答えてください」
「わっ……ッ、ひ!?」
「どう思っているのか、本当の気持ちを話してください!」
「~~~っ、ほ、本当は何度も言おうとしたんだッ!!でも君を前にするといつもの自分ではいられなくて……っ、俺はジュリエット嬢のタイプでもないし、ルビー嬢を利用してジュリエット嬢に近付こうとした最低な男だ……!それに今日だって上手く君をエスコートするどころか、こんなにも迷惑を掛けてしまった!こんな俺が、君を好きで良いのだろうかと何度も何度も自問自答していた。けれど公務に集中出来ないほど君の事を考えてしまって……っ!今までこんな事は一度もっ」
早口で語っていたベルジェは突然我に返ったのか、慌てた様子で立ち上がり乱れた服を押さえた。
額を押さえるその手は微かに震え、真っ赤だった顔は更に真っ赤になっている。
ベルジェの事だ。先程の出来事を思い出しているのだろう。
「…………す、すまない。パーティーの日に俺はこんな……!!すっかり、酔いも醒めた」
「……ベルジェ殿下、わたしはっ」
「そろそろパーティーにむかっ、向かおうッ」
「今日は、迷惑をかけてすまない……!!カイネラ邸の皆もありがとう。また改めて礼を……」
「あの……っ」
「本当に、すまない……水をっ!もう一杯貰えるだろうか」
こちらの言葉をわざと被せるように話すベルジェに、どう声をかけたらいいか分からなかった。
水を一気飲みして空のコップを置いたベルジェに手を引かれるがまま歩き出した。
そして戸惑う護衛達を引き連れて馬車に乗り込んだ。
完全に酔いが覚めたのか端の方に小さくなって項垂れているベルジェを見ていた。
目が合うと慌てて話題を振りながら一人で話しているベルジェは、いつもの彼へと戻っている。
そしてもうすぐ会場というところでベルジェが静かに頭を下げた。
「本当に、申し訳ない……!今日の事は、全て忘れてくれっ」
「…………!?」
その言葉に目を見開いた。
「ジュリエット嬢には、迷惑を掛けてばかりで……ッ」
「…………本当に」
「え……?」
「本当に、忘れても良いんですか……?」
「ーーーー!!」
そう問いかけると先程まで饒舌だったベルジェはピタリと動きを止めた。




