⑥③
「このままパーティーに出て大丈夫ですか?」
「いや…………」
モイセスの険しい表情を見るに良い状況ではないのだろう。
「絶対にジュリエット嬢から離れない、と言って聞かなくてな……」
「え……?私ですか?」
「あぁ……こうなると普段我慢している反動なのか、願いが叶うまで頑として動かないんだ」
「…………」
ベルジェは「ジュリエット嬢、どこにも行かないでくれ」と言いながら強く此方にしがみついている。
「水は……?」
「飲もうとしない。本当は直ぐにでも飲ませたいんだが……」
「……ベルジェ殿下、お水飲みましょう?」
「分かった」
「え…………?」
「ジュリエット嬢が飲ませてくれるなら飲む……。ジュリエット嬢が飲ませてくれるなら飲む」
「「「……」」」
何故、二回同じ事を言ったのか……。
カッと目を見開きながら力説するベルジェにモイセスが声を上げる。
「ベルジェ、いい加減にっ!」
「良いですよ」
「!?」
ベルジェを椅子に座らせてからグラスを傾けて口に水を流し込む。
ゴクリと喉を飲み込む音を確認してから、もう一口、もう一口と飲ませていく。
会社の飲み会等で酔っ払いの介抱は慣れている為、特に何も思わずにベルジェの世話をしていた。
少し落ち着いたベルジェを見て顔を上げた。
「モイセス様はお姉様と先に会場に向かって下さい」
「だが……!」
「今日は護衛の方も沢山いらっしゃいますし……もう少し落ち着いてから向かいます」
「でも、ジュリエット……」
「お姉様、リロイ様に知らせて下さい」
「……!分かったわ」
背後には恐らくリロイが用意した護衛も含めて、屈強な騎士がズラリと並んでいる。
それに流石にベルジェをこんな状態でパーティーに連れていく事は出来ないだろう。
「私はこの事を国王陛下に報告しなければならない……!すまないが今回はジュリエット嬢の言葉に甘えさせて貰う」
「はい」
「皆、頼むぞ」
「「「はい、隊長……!」」」
どうやらベルジェは『ジュリエット嬢の元に行くから』と言って颯爽と馬に乗ったと思いきやカイネラ邸に突っ走っていったそうだ。
よくよく見れば護衛達も服や髪が乱れているような気がした。
相当、急いでベルジェを追いかけて来たのだろう。
それにパーティーの主役ともいえるベルジェがこの状態ではどうにもできない。
「モイセス様、お姉様を宜しくお願い致します」
「あぁ、勿論だ……!ルビー嬢、行こう」
「は、はい……!ジュリエット、大丈夫?」
「大丈夫ですよ、お姉様。今日は楽しんで下さい」
今日の為に教会に通いまくり、成功を祈っていたルビーの行動を思い出していた。
彼女の念願が叶う日だろう。
そして相変わらずモイセスはモイセスで、ベルジェが心配なのか足を止めては振り返り、ルビーも心配そうに此方を見ては振り返る。
ルビーとモイセスを苦笑いしながら見送った。
そのまま侍女達に濡れタオルや水を持って来てもらったり、顔が真っ赤になってボーっとしているベルジェを介抱したりしていた。
汗ばんでいる額を拭って氷を替えるように頼む。
膝枕をしながらソファに寝ていたベルジェはガバッと起き上がり、此方を見てから額の汗を拭っていた手を掴んだ。
「ベルジェ殿下……?」
「……ジュリエット嬢!聞いてくれッ」
「は、はい」
国宝級の顔面が目の前にあるが、なるべく表情を動かさないように頑張っていた。
荒く息を吐き出し胸元がはだけているベルジェの色気がダダ漏れである。
いかがわしい事を考えないようにと、視線をスススっと逸らすと、逃がさないと言わんばかりに反対側の手のひらが頬と顎に添えられる。
ヘーゼルの瞳はいつも右往左往しているのに、今日はバッチリと此方を真っ直ぐ見つめている。
また違った一面に戸惑うばかりだ。
「ーーージュリエット嬢ッ!!」
「は、はい」
「君が好きだ……!」
「…………!」




