⑥②
ーーーパーティー当日。
ジュリエットは朝から慌ただしく過ごしていた。
肌をピカピカに磨いて、内臓が無くなりそうな程にコルセットを締めて、髪を整えて軽くメイクをする。
(何事もなく終わると良いけれど……)
リロイの予想通りにアイカが動いてくれたらいいが、アイカも何をしてくるか分からない。
(気を引き締めていきましょう!)
キャロラインとリロイは自分達よりも早く会場に入ると言っていた。
アイカの動きと状況を確認したいから……と。
もうすぐモイセスとベルジェが迎えに来るので紅茶を飲みながらドキドキとした胸を押さえていた。
ルビーと共に馬車が到着するのを待っていると、なんだか邸の様子が慌ただしく感じた。
様子を見る為に部屋から出ようとすると、目の前で勢いよく扉が開いた。
「ーーーッ、ジュリエット嬢は何処だ!?」
「……ベル、ジェ殿下!?」
いつもの雰囲気とは違い、荒く息を吐き出して汗を拭うベルジェの姿に言葉も出ずに驚いていると……。
「はぁ、はぁっ……待て、ベルジェ……ッ!!」
モイセスが後からベルジェを引き止めるように追いかけてくる。
何故かベルジェに肩をがっしりと掴まれて、驚きに目を見開いた。
真剣な瞳が此方を見たのと同時だった。
「ゔ……っ!」
「!?!?!?」
瞳を潤ませて急に泣き出したベルジェに体を硬くした。
無意識に私は何もやっていませんとアピールするように手を上げた。
ポタポタと溢れ出す涙は止まる事を知らない。
モイセスも同じく汗を拭いながら、「直ぐに水を用意してくれ」と侍女に頼んでいる。
(水……?)
すると腰に腕を回して密着する体。
顎を上げられて強制的に戻される視線。
珍しく強引なベルジェの頬は高揚しており、明らかにいつもと様子が違うようだ。
「ーーージュリエット嬢は、気になる令息が居るのだろうか!?」
「???」
「……っ」
「気になる、令息……?」
「アイカ嬢から、聞いたのだ……!新しい婚約者を探しているとッ」
「アイカ様が……?」
ベルジェの口から飛び出した名前。
やはりリロイの言った通り、何かを企みつつ動いているようだ。
(まさかベルジェ殿下にも接触していたなんて……何を吹き込んだのかしら)
いい加減にしろと言わんばかりにモイセスがベルジェの肩を引いた。
「ベルジェ……!ジュリエット嬢に失礼だぞ」
「そんな事は、分かっているッ!!!」
「「「…………」」」
皆が心の中で「分かっているんだ……」と突っ込みを入れつつ、ベルジェはフラリとよろけながら顔を上げた。
回らない呂律、真っ赤になった頬、フラフラと覚束ない足取り……これは明らかに。
「…………酔ってますか?」
「……あぁ、そうなんだ」
珍しく取り乱しているベルジェを押さえながら、モイセスが事情を説明してくれた。
どうやらずっとベルジェが忙しくしていた理由は、リラ帝国からお忍びでやって来ていた皇太子の相手をしていたからだそうだ。
その皇太子が自分と真逆の性格をしているベルジェを大層気に入っており、今回は友人として遊びに来たいと言ったことで、実現した外交。
そして恋愛や結婚の話になり、流れで皇太子に恋愛相談をしていたらしい。
「もっと積極的になれ!ベルジェ!」と励ましてくれたそうだ。
しかし今日になり「パーティーで上手くエスコート出来るだろうか」と緊張から壁の端でウジウジと悩んでいるところを見た皇太子は「リラ帝国ではコレを飲めば全て解決だ!緊張など、すっ飛ぶぞ!」と、言って取り出した真っ黒な瓶。
その好意を無碍にすることは出来ずに口にするも、その中身はリラ帝国名産の度数が強い酒だった。
完璧王子であるベルジェにも弱点がある。
成人しているがベルジェは積極的にアルコールを口にしない。
その理由は『実は酔うと手が付けられなくなるから』だと、モイセスが申し訳なさそうに言った。
「今日はコレでバッチリだ」と言われて大量に口にした結果、この状態なのだそうだ。




