⑥① アイカside4
そしてその時、リロイにおだてられるまま本音をポロポロと漏らしてしまった事があった。
リロイの可愛らしい外見と口車に乗せられて、誘導されているとも知らないまま自分の価値をアピールしていた。
「君はさ、自分が一番じゃないと気が済まないんだね……アイカ嬢は他人の不幸が嬉しいタイプかな?」
「え…………?そ、そんなことありませんわ。リロイ様は冗談ばっかり」
動揺してしまい、どう弁解するか考えているとリロイの低く恐ろしい声が耳元に響いた。
「もし、キャロラインに何かしようとしたら許さないから」
「……ッ!」
「この予想が、杞憂に終わる事を願うよ」
冷や汗がタラリと流れた。
この時に、初めて失敗してしまったのだと気付いた。
そこからリロイに対して強い苦手意識を持っていた。
キャロラインと少し話す間でも、リロイの視線を感じていた。
ルビーと同じようにしたら潰されてしまう。
我儘王女として『自分から』振る舞わせるしか道はないと思った。
それならリロイも文句は言えない。
少しずつ少しずつ蝕んでいき、彼が嫌いな女を演じるようにキャロラインを誘導する事に成功したのだ。
そんなリロイが近くにいる状態で、カイネラ邸には簡単に近付けない。
ガリッと音を立てて奥歯が擦れた。
苛立ちだけが募っていく。
それでもルビーやキャロラインから少しずつ情報を集めながら状況を把握していったが、二人の態度も徐々に違和感があるものになっていく。
今まで積み上げてきたものが壊れていく。
二人が、どんどんと良い方向に向かっている事に気付いてゾッとした。
(わたしより幸せになるなんて許せない……!もっと苦しんでくれなくちゃ、わたくしが幸せになれないの)
それにあのジュリエットがベルジェに近づく事が一番、許せなかった。
それだけは絶対に阻止しなければならない。
他の令嬢達にも協力を仰いだ。
利用できそうな令嬢達にもジュリエットとの会話内容を都合の良いように弄り、涙ながらに語り同情を誘った。
それからマルクルスの元に向かった。
勿論、誰にもバレないように細心の注意を払っていた。
伯爵に適当に事情を話してから彼の部屋へと向かう。
部屋の中は真っ暗でカーテンはボロボロ、床には鏡の破片が散らばっていた。
そんな部屋の隅に隠れるように座っているマルクルスの姿を見て溜息を吐いた。
声を掛けてもブツブツと何かを呟いているだけ。
二人きりにして欲しいと頼んで、そっと彼の耳元で呟いた。
「貴方に……挽回のチャンスがあるの」
「挽回……?なん、だと………ちがう!違うッ、元はと言えばお前が……!そうだッ!お前のせいでこの僕は!!」
「誰だって間違う事くらいあるでしょう?わたくしはマルクルス様の事を思って言ったつもりだったのに……そんな言い方、酷いわ」
「!?」
「だからこうして貴方を助けに来たんでしょう?」
それだけでマルクルスの瞳に光が宿る。
(ウフフ、馬鹿で良かった……)
そして最後の仕上げとばかりにあの名前を出す。
「ルビーも気にしていたわ。貴方の事を……」
「本当か!?」
「えぇ、本当よ。ルビーの一番の友人はだぁれ?」
「……どうすればいい!?どうすれば今までのように戻れるんだ!?」
マルクルスは勢いよく顔を上げた。
にっこりと笑みを浮かべると足元に縋るように近づいて来る彼に触れられないように一歩二歩と後退する。
(……お前のようなクズがわたくしに触らないでよ)
この男を利用してジュリエットを排除してから、ベルジェを手に入れる。
本性を見られたからには、跡形もなく消えてもらわなければならない。
「…………貴方のモノにしてしまいなさい」
「え……?」
「少し強引くらいな方がジュリエットも素直になれるんじゃないかしら?」
「そ、そんな事をしたら……またッ」
「あら、わたくしの言葉を信じないの?確信を得てからここに来たのに」
「!!」
(これが終わればお前も用済みよ……マルクルス。ジュリエット共々、表舞台から消えなさい)
ジュリエットとマルクルスを二人きりにする。
その間、ジュリエットの代わりにベルジェと共に過ごす。
ジュリエットはマルクルスを拒絶するが、マルクルスは必死に縋り付くだろう。
そこで……二度と表に顔を出せないように傷モノにしてしまえばいい。
(そんな女が殿下の隣に立つなんて相応しくない……そうでしょう?)
マルクルスに作戦を伝え、出入りしている事がバレないようにフードを被りながら邸を後にした。




