⑥⓪ アイカside3
隙を見つけてはルビーやベルジェに接触していたが、ルビーは無意識なのか偶々なのかは分からないが、ジュリエットに会わせようとはしなかった。
キャロラインもルビーも以前よりも良い方向に向かっているのは気付いていたが、それを相殺するように働きかけていた。
しかしルビーを使ってベルジェに近付けたのは大成功といえるだろう。
けれどベルジェの態度は他の令嬢達への対応と何も変わらない。
色々試して見るもののベルジェの気を引くことが出来ない。
だが、それで諦める訳にはいかなかった。
(わたくしがベルジェ殿下と結婚して、この国で一番になるのよ……!)
そんな時『ベルジェとジュリエットが一緒にパーティーに参加する』と聞いて驚いていた。
(嘘、でしょう……?まさかジュリエットが……!?)
キャロラインもリロイと共にカイネラ邸に通っていると、嬉しそうに報告してきた。
まさかこんな事になるとは思わずに呆然としていた。
しかし今はそれどころではない。
最近、ルビーがモイセスに積極的にアピールしている事を知って安心していた。
二人が結ばれないように邪魔をしつつ、ベルジェを引き剥がせたと喜んでいたのに……。
どうやってベルジェとジュリエットを引き剥がすか……情報を集めながら作戦を練っていると、カイネラ邸で偶々ジュリエットと接触する事が出来たのだが、そこでもまた予想外の事が起こる。
ジュリエットは『別人』になっていた。
何を言っても、以前のように感情を荒げる事も挑発に乗る事もなかった。
『たまたまベルジェと参加する事になっただけ。身の程を弁えろ』と現実を分からせてやりたかった。
しかし、しっかりと内情を調べずに焦った事が仇となった。
「それに……今回のペアはリロイ様の提案なのですよ?」
驚きに声が出なかった。
ジュリエットはこんなに頭が回る人間ではなかったのに、此方に鎌をかけたり嘘を見破ったりと、手のひらで転がされているようで不快だった。
「フフッ、だってアイカ様が勘違いをしていたら可哀想ですもの」
「もしコレが嘘だったら…………ねぇ?でもアイカ様がご自分でそう仰るのなら、そうなのでしょうね」
「それとも…………ベルジェ殿下には、私の方から伝えておきましょうか?」
此方を憐れむ視線で見てくるジュリエットの事が心の底から気に入らなかった。
「…………随分と、調子に乗っているじゃないの」そう言うと「アイカ様こそ、化けの皮が剥がれてますよ」と言い返してきたのだ。
プチリと何かが切れて、怒りと憎しみで支配された。
ジュリエットは……取り返しのつかないことをしたのだ。
(……わたくしを、怒らせたわね)
ジュリエットを地獄に突き落として二度と這い上がれないようにする…………その事で頭がいっぱいだった。
次の日から、噂好きの友人達をお茶に誘い、様々な事を吹き込んでいった。
しかし、何故か噂は広がらなかった。
思い通りに進まない初めての経験に苛立ち、唇を噛み締めた。
ジュリエットがマルクルスと婚約を上手く破棄した日から、何もかも上手くいかなくなってしまった。
誰に邪魔されているのか、直ぐに分かった。
(リロイ・バーズ……)
でなければ、社交の場に出てこないジュリエットを再起不能にして孤立させることは造作もないはずなのに……。
リロイがジュリエットの為に動くなんて信じられなかったが、カイネラ邸で起こってる内部事情や六人の関係性までは分からない。
ルビーに聞いても、カイネラ邸の侍女に聞いても答えを濁すのだ。
リロイがいる事でなかなか上手く動く事が出来なかった。
昔、キャロラインに近づいて仲を深めようとしていた時期、まだ周囲の身辺関係を把握しきれていなかったが、リロイに誘われるがままパーティーに参加した事があった。




