⑤⑨ アイカside2
先ずはルビーに近付いた。
「友達になりたいの」と言えば彼女は瞳を輝かせた。
(馬鹿な子……)
しかし何を言ってもなかなか感情を荒げずに隙を見せないルビーに苛立っていた。
憂さ晴らしにルビーの悪い噂を流して孤立させていた。
『人の婚約者を取ろうとしている』
『自分が一番美しいと思い、皆を見下している」
そんな噂を流していても妬み嫉みを向けられたとしても、彼女は笑顔のまま何も揺らがない。
その余りの眩しさと気高さに目が眩む。
その間にも令嬢達と仲を深めながら実践を繰り返していた。
心を開かせた後、悪意を吹き込んで互いが争うように、ぐちゃぐちゃに壊していく。
(ふーん、こうすればいいのね。フフッ、簡単じゃない!)
そう言ってどんどんと自分の立場を確立していった。
勝手に自滅して行く様を眺めるとゾクゾクとした。
感じたことのない快感と優越……次第にもっと欲しくなる。
そしてカイネラ邸に上がれるようになると、やっとジュリエットに近付く事が出来た。
二人の関係を見ていると、面白い事に気付く。
眩い光の裏……深い闇が生まれつつあった。
少し突いてやれば自然と亀裂は広がっていき、ジュリエットは嫉妬に狂って落ちていく。
ジュリエットは素直な分、ずっとずっと扱いやすかった。
ルビーに憎しみを募らせるように仕向けたら面白い程に信じ込んで『アドバイス』を聞いた。
そしてルビーも、ジュリエットに嫌われる事で少しずつ崩れていった。
同時にキャロラインにも少しずつ近付いていった。
彼女と話すのは疲れるし苛々した。
しかしベルジェが妹のキャロラインが好きな事は知っていた。
彼に近づく為には彼女の協力と信頼が必要だった。
ルビーの友人のフリをして、じっくり内部から壊していく。
善人の仮面を被って、我慢して我慢して我慢して……。
そして、ずっと自分だけの婚約者が欲しいと言っていたジュリエットに、プライドが高くナルシストだが扱いやすいマルクルスを当てがった。
(捨て駒だけど、存分に役に立ってもらいましょう)
マルクルスはこう言いながら動かしていた。
『ルビーに似合うのは貴方のような令息かもね。ルビーの一番の友人である、わたしが言うのだから間違いないわ』
『ジュリエットの婚約者になるのはどうかしら?でもルビーが貴方の魅力に気付いちゃうかもしれないわね』
『ジュリエットは貴方の事を心から愛しているから……』
"許してくれるんじゃない?"
ついに良い感じにジュリエットが仕上がったと判断して、マルクルスに、そろそろではないかと提案した。
それはベルジェとルビーが顔合わせをする日だった。
二人の間を切り裂く為にジュリエットを使った。
欲に塗れて自分に自信があるマルクルスは、意気揚々と『本当はルビーが好きだ』と告白しに向かった。
(本当に馬鹿過ぎておかしいわ……頭が悪い男)
あとは待つだけで最高の結果が得られる。
そこで座って待っているだけでいい。
(わたくしの前から消えろ……!ルビー・カイネラ、ジュリエット・カイネラ!)
目障りな二人が相打ちになる。
そう思い、ドキドキと高鳴る胸を押さえていた。
それなのに……予想とは全く違うことが起こる。
なんとベルジェが間に入り、ジュリエットを庇い、マルクルスだけが裁かれたというものだった。
(どうして?あんなに追い詰められていたのに……!)
あの"ジュリエット"が、冷静にマルクルスに対して抗議出来るなんて予想外だった。
(おかしいわ……!わたくしの作戦は完璧だったのに)
それからジュリエットの状態を確認したくても、ベルジェがルビーに頻繁に会いに来る為、なかなか予定が合わせ辛くもどかしい日々が続いた。
はやる気持ちを押さえながらもカイネラ邸に向かった。




