⑤⑥
そんなルビーを止めるように、リロイから引き剥がそうとするが、接着剤でくっつけたように動かない。
そしてリロイもリロイでこういう扱いはキャロラインで慣れているらしく動じる事なく平然と答えている。
「そうだなぁ……パーティーに何人か護衛を頼むなんてどうかな?」
「是非、お願いいたします!!」
「……そこまでしなくても」
「でもまたジュリエットに何かあったらどうするの……っ?お願いしましょう?」
「ルビーお姉様……」
ルビーの気持ちはとても嬉しかったが、もう無関係なマルクルスとアイカが手を組んで何かをしてくるところなど、想像が出来なかった。
「それと今日此処に来たのは暇だったのもあったけど、ジュリエット嬢の色んな噂が回り始めたからだよ。事実でないとは分かってはいたんだけど、一応確認に来たんだ」
「え……?」
『ジュリエットの色んな噂』とは果たして何のことだろうか。
マルクルスと婚約を解消してからは、キャロライン達とドレスを選びに行った時以外、殆ど出掛けていない。
またマルクルス関係の話だろうかと思っていたが、思い出すのは数日前のアイカとのやり取りだ。
彼女が絡んでいるとなると、ややこしい事になるだろう。
そしてリロイの表情を見るに、明らかにいい噂ではないようだ。
「何故か根も葉もない噂が飛び交っていたんだ。けど今日の話を聞いて確信したよ…………恐らく彼女が言葉巧みに嘘をでっち上げてるみたいだね」
「!?」
交友関係の広いリロイは令嬢達から様々な話を聞く機会が多いようで、今回もカイネラ邸によく出入りしている事を知った令嬢達がリロイを心配して教えてくれたものだったようだ。
噂には様々なものがあった。
『ジュリエットはルビーを憎んで陰では虐げている』
『ルビーからベルジェを奪い取ろうとしている』
『キャロライン王女があんな性格なのはジュリエットのせいだ』
キャロラインとベルジェがカイネラ邸に出入りしているのは、だんだんと周囲に知れ渡り、最近はルビーとキャロラインは外でもよく一緒に行動している。
しかしジュリエットは外に出ていない為、言いたい放題という訳だ。
キャロラインが頑張って努力しているのを知っている人は少なく、まだまだ我儘な王女様という印象が抜け切らない。
ルビーも令嬢達の間で株は上がりつつあるが、それも上手く利用してジュリエットを悪に仕立て上げてるつもりだろう。
それにジュリエットはマルクルスがルビーを好きだという原因で婚約を解消している。
そしてベルジェが唯一、自分から出向くカイネラ邸。
今までルビーが顔合わせをしたのがベルジェが初めてだ。
子爵令嬢であるルビーが令嬢達の間で大人気の王太子と近付きになれば、以前のジュリエットならば嫉妬をして何故ルビーだけ、と大激怒していた。
ジュリエットの性格を知っている者達なら安易に想像出来る噂だろう。
明らかにジュリエットの株を下げようとする意図を感じる。
この事実と嘘を巧みに混ぜ込んでいく辺りが何ともアイカらしいと思った。
「まぁ……どんな噂でも僕が潰してあげるからいいんだけどね」
「リロイ様が……?」
面倒事が嫌いそうなリロイがこうも動いてくれるとは思わずに眉を寄せた。
何か裏があるのかと眉を顰めて観察するように見ていると、彼はニコリと笑った後にヒラヒラと手を上げた。
「別に裏もないし、君達の為にだけにやっている訳じゃないよ?」
「知ってます。でも、どうしてここまでリロイ様が動いてくれるのか気になって……」
そう言うと、リロイは嬉しそうにニッコリと笑いながら、こう話した。
 




