④⑤
「リロイ様は、キャロライン王女殿下を嫌っている訳ではなく、言葉や態度に引っ掛かるものがあるだけではないでしょうか?」
「……それは」
キャロライン自身が嫌いならば、二人で一緒にカイネラ邸に来たりはしないだろう。
一見、リロイは誰にでもフレンドリーに見えて自分の側に居る人間は選んでいる。
それに感情を荒げたり面倒事が嫌いそうなのにも関わらず、キャロラインの側に居る。
つまりキャロラインはリロイの『特別』なのだと考えられないだろうか。
「キャロライン様が、リロイ様や人前で落ち着いた態度を取れるように努力すればリロイ様と再び仲良くなれるのではないでしょうか?」
「ーーーなっ、何を言うの!?努力ですって!?必要ないわ!!わたくしはもう立派な淑女なのよッ!?」
「……!」
「それに、わたくしは王女としての振る舞いをしているの……ッ!間違ってないわ!!」
頑なに「王女として」「立派な淑女」と繰り返すキャロラインは、再び意地っ張りモードのようだ。
恐らくリロイも話そうとはするのだろうがキャロラインにこのような態度を取られ続ける為、戸惑った事だろう。
しかし今日、こうなった時の為にしっかりと作戦を考えてきた。
「…………そうですか」
「そ、そうよ!!これ以上わたくしが何かする必要なんて……ッ!」
「キャロライン王女殿下は……ずっとこのままなのですね」
「わたっ、わたくしはッ、今のままで十分なの……!でも、貴女の話なら少しだけ聞いてあげなくもなくってよ!!」
「あ、別に大丈夫です」
「何ですって!?」
名付けて『押してダメなら引いてみろ』作戦である。
キャロラインが予想外の言葉に少し怯んだ事で、此方の言葉にも少しだけ耳を傾けてくれるだろう。
「でも一つだけ言えるのは、このままでいけば……お二人の関係は今よりもっと崩れていく事でしょう。私にはそんな恐ろしい未来が見えます……!」
「…………おっ、恐ろしい未来ですって?」
「もしこの先、リロイ様に好きな方が出来たらどうしますか?」
「リ、リロイに好きな人がッ……!?」
「そうなればキャロライン王女殿下は後悔することでしょうね……それでも貴女は意地を張り続けてしまう。そして耳を塞ぎたくなるような暴言を人前で吐き続け、その方に嫌がらせをしまくったキャロライン王女殿下は……ついにッ!!」
「…………ひっ!!」
ゴクリと喉を鳴らしたキャロラインを横目で確認してからフーッと息を吐き出した。
そして何事もなかったかのように笑みを浮かべた。
「でも私には関係ないので、お互いに後悔のない人生を歩めるように頑張りましょうね……!」
「ーーーちょっとッ!!その後、わたくしがどうなるか言いなさいよ!!貴女、性格悪いわよっ」
胸元に掴み掛かったキャロラインにぐらぐらと首を揺さぶられるのと同時に馬車も揺れる。
キャロラインも実際に思い当たる節があるのだろう。
見開かれて瞳はゆらゆらと左右に揺れていて焦っているように見えた。
「理由を話して下さい」
「……ッ!?」
「キャロライン王女殿下は、きっと変われますよ」
「………わたくしが、変わる?」
「はい、その為には自分と向き合いながら努力していかなければなりません」
「待ちなさいよ……!わたくしが変わるよりも、リロイが変わればいいのよッ!!!その方が王女らしい……そうでしょう?」
「……王女らしいかどうかは私には分かりません。今を変えるかどうかを決めるのは自分です。だからわたくしは王女殿下が自分で決めるべきだと思うのです」
キャロラインはそのまま黙り込んでしまった。