④③
(キャロライン王女、なんか無理してない……?)
必死に叫び続ける姿を見て、そう思った。
だから敢えて平然と対応をしていた。
言葉を発する度に「こんな事を言いたくない」「本当はこんな事は思ってない」と訴えかけているような気がしたのだ。
しかしキャロライン自身、この状況を望んでいるとは思えなかった。
我儘王女として振る舞う事に、一体何の利点があるのだろうか。
けれど先程のキャロラインの反応を見る限り、言葉を発する度に後悔はしているようだ。
どう接すればいいか分かっている筈なのに、この態度を続けている。
物語のキャロラインの退場方法はジュリエットよりも地味なものだった。
リロイに見捨てられて、色々な人達に拒絶された事により部屋に閉じこもったまま出てこなくなってしまうのだ。
ジュリエットよりは救いがありそうではあるが、精神的には辛いものがある。
「……っ、なによ!もうッ」
いつもとは違う反応を気にしてか、キャロライン自身もどうすればいいか分からないようだ。
普通こんな事を言われ続ければ適当に受け流して「もういいや」と引いてしまう所だろう。
恐らくこういう態度を取り続けたせいで、周りから人が居なくなっていったに違いない。
「変えませんか?」
「え…………?」
呆然としているキャロラインの手を握った。
同じ悪役令嬢として散っていくキャロラインを助けたい気持ちもあったのかもしれない。
余計なお節介かもしれないが、やれる事はやってみようと、そう思った。
「もう少しだけ、私と一緒に話をしてみませんか?ドレスを買いに行く馬車の中なんてどうでしょう?」
「…………!!」
「二人きりで」
きっとキャロラインは他に人目がない方がいいと思った。
その言葉に、キャロラインは俯いた後に小さく頷いた。
ドレスを掴む手はブルブルと震えて力が篭っているように見えた。
そんな時、モイセスと林檎のように顔が真っ赤になっているルビーの姿が見えた。
フラフラと覚束ない足取りのルビーは血が滲んだ布を持ちながら鼻に押し付けている。
つまづきそうになるルビーの体をモイセスが支えると、彼女はピタリと止まった後、そのままグッタリとして意識を手放してしまう。
(まさか、鼻血!?間近で見るモイセス様の刺激が強すぎてとか……?いやいや、あり得ない!そんな漫画みたいなこと起きる訳…………ないわよね!?)
更に焦ったモイセスと慌ただしく動く侍女達を見ていると、まるでコントのようだ。
再びルビーは何処かに運ばれていった。
そんな時、タイミング良く此方に戻ってきたリロイとベルジェは手を繋いでいる此方の様子を見て驚いているようだった。
「あの……リロイ様、ベルジェ殿下」
「……?」
「当日、別々の馬車で行きませんか?」
「……!」
「ジュリエット嬢……それって」
「お店は同じですし。その……どんなドレスにしようかキャロライン王女殿下に相談したくて」
二人はその言葉に驚いているようだったがベルジェはとても嬉しそうに頷いた。
兄としてやはり妹を心配しているのだろう。
「ジュリエット嬢、ありがとう……!」
「お兄様ッ、今すぐお黙りになって!!」
「痛ッ、キャロライン……!やめてくれっ」
バシバシと音立ててベルジェの肩を叩くキャロライン。
しかしリロイだけは難しい顔をしている。
「リロイ様……?」
「……………ありがとう」
リロイは俯いた後、何かを呟くと背を向けてヒラヒラと手を振った。
(いいって事だよね?)
よく分からないままではあるが、その後リロイはずっと機嫌が良さそうに笑みを浮かべていた。
ーーー当日
城で待ち合わせをしてから、わざわざ別々の馬車に乗る為に移動していた。
これで来なかったら仕方ないと思っていたのだが、キャロラインは渋々後ろから付いてくる。




