01話 村を抜け出して
静かな朝がやってきた。
窓を開けると、鳥のさえずりと共に気持ちのいい風が吹く。
窓の外に向かって、大きなあくびをすると、急いで着替えて階段を下りる。
「おはよう、お母さん」
「ヒュノ、おはよう」
テーブルには、お母さんの作った朝食が用意されていた。
パンを頬張り、スープを飲む。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「うん、今日は朝から約束があるんだ」
「テルドくんと?」
「そう。……よし、ごちそうさま!」
「いってらっしゃい、気をつけてね」
ヒュノは赤いネクタイをつけ、そのまま家を飛び出した。
家を出て北の方角に走ると、村の大きな大樹の広場があった。
「はぁ……はぁ……ついた」
約束をしたテルドは、まだついていなかった。
近くの石に座っていると、目の前を兄妹が通りかかった。
「おーい、アルバス!」
自分より3つ年上で、背も高い肌黒の青年・アルバス。
そして、その隣にいるのは自分よりも5つ年下の妹さんだ。
「お、ヒュノ、お前何してるんだ?」
「テルドと約束しててさ、待ってるんだ!」
「朝っぱらから……んで、今日はなーにするんだよ」
「ふふん、ちょっとね?」
「まさか、魔物のうろつく村の外に出ようとか思ってないだろうな??」
当たりだった。
村の規則で、15歳になって自分の剣を手に入れるまで、村の大人無しで勝手に外に出てはいけないのだ。
「まさか、違うよ~」
「はぁ、まあ何するか知らねーが、いくら剣術大会優勝のお前だろうが、外に出ちゃいけないのはルールだからな?絶対すんなよ」
「はーい」
アルバスはそう言うと、妹を連れてそのまま行ってしまった。
ヒュノは、この村の剣術大会の優勝者だった。
幼い頃、別の町で教わっていた剣術を使い、村の子供から大人までが参加できる剣術大会で、見事優勝したのだ。
アルバスは、村で9番目くらいだった。
「おーい、ヒュノ~!」
大きな声で、手を振りながら歩いてくる少年。
ちくちく髪で肌黒い肌が特徴の彼が、テルド。
ヒュノとテルドは同い年で、彼は剣術大会4位だ。
「遅いよ~」
「おめーがはえーんだよ」
「あはは」
「んじゃ、作戦通りのルートで抜けるか」
「了解」
事前にふたりで打ち合わせしていた村の抜け道。
途中までしっかりと村の道を歩いて、少し草や木々が多くなってくると、周りを見てから急いで隠れ、薄暗い道を利用した。
北西の門には、当然門番がいる。
だが、事前に刃物で切っておいた木の塀に開けた小さな抜け穴。
そこを潜って、村を脱出した。
もちろん、抜け穴を切った際の切った部分をしっかりはめ、ちゃんと見ないと、そこに穴が空いているのなんてわからないくらいにしてある。
くぐった後も、門番に見つからないように外側の塀沿いを歩いて、見えなくなったぐらいに走って村から離れていく。
「おっしゃ!脱出成功!」
テルドの手には、片手剣が2個握られていた。
「ほら、ヒュノ!」
「ありがとう!」
これは、魔物と遭遇した時用だ。
テルドに、事前に村から使わなくなった片手剣を持ってきてもらったのだ。
「んで、どっちだ!」
「えっと、このまままっすぐ!!」
ふたりは、村から北西の位置にある洞窟を目指していた。
理由は、ヒュノの見た夢だった。
ヒュノは3日前、村の北西門を出てまっすぐ行くと洞窟があり、
その奥深くに壊せる洞窟の壁が存在し、その先には謎の遺跡が広がっている。
という夢を見た。
その事をテルドに話すと、彼はすぐに興味を持ってくれた。
まぁ、村にいても退屈だったし、冒険心や退屈心がくすぐられたのだろう。
村の北西に洞窟があることは、既に確認済みだった。
村にいる、ヒュノと同い年の少年・シウに調べてもらった。
シウは、癖っ毛でメガネをかけた少年で、本が好きで村の図書室によくいる。
地理や歴史に詳しいが、剣の扱いは下手くそ。
そして、もうひとり同い年の少女がいる。
メイアといって、村長の娘だ。
優しくて可愛く、料理作りが好きな少女だ。
ヒュノにテルド、シウにメイア。
この4人は昔から一緒で、幼馴染みたいなものだった。
「ヒュノ、ちょっとストップ」
「……?」
テルドの視線の先には、茶色い毛で覆われた魔物が立っていた。
「すまん」
テルドは一歩前に出て、ヒュノに背を向けたまま謝った。
魔物は、じっとこっちを見つめている。
「目が合った」
1話目です。
次回、戦闘書いてみます。