『好き』がすれ違う残酷な愛の告白(男の娘と僕っこ少女。片想い)
百合なのか、異色男女になるのか悩みましたが、二人とも自己認識は『少女』なので百合にしてます
彼……いや、彼女は、誰よりも可愛らしい『少女』だった。
「す、好き。私、奏くんが、好き。恋愛として」
背も高く、体格はがっしりめ。顔も完璧な男顔ではあるのだけれど、それでも、彼女は『完璧な』少女だった。
いつも身に着けているロリータ服は、いつだって新品のよう。皺も、フリルやリボンの乱れも無い。
メイクも、綺麗な瞳を活かした愛らしく、かつ違和感のあまり無いもの。
言葉遣いも美しく、彼女が話すと場がまぁるく和む。
何より、ただただ、彼女は優しかった。
誰かが失敗しても責めず。泣いている人がいればそっと寄り添い。失言を受けても、きちんと諭しはすれど、基本は笑って流せる鷹揚さ。
非の打ち所がない少女。
けれど、僕は。
「……ありがとう」
自分の、紺色のジャンパースカートを見下ろしながら、
「そして、ごめん。その気持ちは受け取れない」
そんな彼女を、傷付けるのだ。
「僕は……前も言ったように、誰にも恋愛感情を抱かないんだ。類のことは大好きだけど、でも、友だちとしてなんだ」
お気に入りのジャンパースカートは、フリルが少なめだけれどクラシカルで上品なもの。パニエで膨らませると、まるで貴婦人のドレス。これを着ると、いつも不思議と勇気が湧いた。何も怖くなくなる。
けれど僕は今、顔も上げられないくらい、怖い。
優しい彼女を、親友の彼女を、否定しなくちゃいけない。
そのことが、怖い。
……ちがう。
僕は、そんなお優しい人間じゃない。
否定して、そのあと、彼女が僕から離れてしまうのが怖いだけだ。
彼女を、大好きだから。
友だちとして、これ以上ないくらい、大好きだから。
「ごめん」
意味の無い謝罪が、口を滑る。
ごめん。ごめん、傷付けて。
でも、どうか。
「……奏くん」
俯いた視線に、彼女の手が入って来た。
「どうか、謝らないで」
彼女の手が、そっと僕の手に触れる。
「私が奏くんのことを恋として好きになったのは、私の勝手。そして、それをこうして告白するのも、私の勝手。その責任を取るのは、いつだって私しかいないの」
顔を上げた。彼女は、微笑んでいた。
「大好き。大好きよ、奏くん。……例え、奏くんが私を好きにならなくても。両想いになれなくても」
綺麗な瞳に浮かぶ涙は、まるで水晶のよう。
「……こんな大事な気持ちをくれて、ありがとう」
「こっちこそ」
その温かな気持ちには応えられないけど、
「ありがとう」
ぎゅっと手を握り返した。
「えへへ。こんな告白しといて何だけど、友だちとして改めてまた仲良くして欲しいなって」
「! それは、僕も……っ」
鼓動が一つ、高鳴った。
逃がしはしない、と言うように、慌てて言った。
「ずっと友だちで、いて」
それは、ある意味とても残酷な言葉なのに、
「──うんっ」
優しい彼女は、やっぱり笑って肯いてくれた。
END.