第97話 アンの予感
私には予感があった。
ルナは相当な実力者だ。
同年代のギタリストであの手をしているのを、私はナル・オトナシ以外に知らない。
「Cの1・6・2・5でいいかしら?」
「あ、はい大丈夫です」
やはり基礎は知っているようね。
「じゃ、はじめるわ」
「……はい」
さあルナ。あなたの実力を見せて!
——拍手が鳴り止み会場が静まったところで、私は演奏を開始した。
まずは小手調べとばかりにテンション感のあるフレーズを並べてみた。
普通なら無難な伴奏でまとめそうなところを、ルナは私のフレーズに寄せてきた。
ありえない!? なにこの子?! もしかしてプロ?!
ルナの実力を確かめるべくアヴォイドノートも使ってフレーズを構成した。
これも普通なら即興で合わせるのは難しく、無難な伴奏をチョイスするのがセオリーだ。
しかし、ルナはきっちりオリジナリティーをもって対応してきた。
本当に何者なの?! ナル・オトナシ、ジン・オトナシと言い……もしかして日本人って化物ばっかりなの?
ルナは揺さぶっても揺さぶってもきっちりと付いてきた。
私は次第にルナとのセッションを純粋に楽しみはじめた。
私がどんなにわがままなプレイをしてもしっかりと受け止めてくれる。こんな安心感をもって即興演奏をしたのははじめてかもしれない。
インプロヴィゼーション。型にとらわれず、自由に思うがままに音楽を作り上げる。
このセッションは本当の意味でインプロヴィゼーションだ。
そしてルナの伴奏に変化が現れる。
こ……これは。
私の求めている音だった。
そう、私はこの音が欲しかった。
私の旋律を最大限に活かせるヴォイシング。
音楽家として嫉妬してしまうほどのルナの才能が、私をさらなる高みに誘う。
こんな伴奏されたら私……。
もう、ルナの伴奏以外では……。
私は、実力以上の実力を引き出された気がした。
——私の目に狂いはなかった。いや実際にはルナのことを見誤っていたのかもしれない。
彼女は相当な実力者どころではない。
本物だ。
私はこの偶然の出会いに狂喜した。
アン……なんかごめん。
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