第128話 鳴には私が必要
愛夏の話を聞いてから沈んだ気分のまま数日間を過ごした。日課のギターはサボっていないが、折角の夏休みだと言うのに部屋でだらだら過ごしているだけだった。
ぶっちゃけ今でも愛夏の気持ちを考えると涙がでる。
「兄貴、お客さん」
ん、お客さんだと……ユッキーかな?
突然家に訪ねてくるなんてユッキーぐらいのもんだ。
ラフな部屋着と寝癖のついた髪のまま部屋をでると「お邪魔してます」衣織だった。
つか、なんで衣織が? メッセージ入れてくれてたのかな?
慌てて部屋に戻りスマホを確認したが、メッセージは入っていなかった。
速攻で身支度を整えて衣織を出迎えた。
——「凛ちゃんが教えてくれたのよ」
僕が聞く前に衣織が全ての問いに答えてくれた。
「愛夏さんの話、私も聞いたわ……鳴が落ち込んでるから慰めてやって欲しいって」
凛のやつ……余計なことしやがって。
とは流石に思わなかった。素直に2人の好意が嬉しかった。
「衣織……わざわざ、ごめんね」
「いいのよ、彼女だし、それにこう言う時は『ごめん』じゃなくて『ありがとう』よ」
「あ……そうだよね、ありがとう」
「鳴のそのマインドはやめた方がいいよ、きっと愛夏ちゃんもそうやって鳴が落ち込むの望んでないだろうし」
確かにそうだろう。だから僕に話さなかったとも言えるのだが。
「それにしても愛夏ちゃん強いね……別れてまで……本気で鳴の幸せを望んでいたんだね」
そう……愛夏は本気で僕の事を想ってくれていた。
でも僕は……。
「でも僕は、愛夏の想いに応えることが出来なかった……」
僕の言葉を聞いて衣織が少し眉をしかめた。
「だから今言ったばかりじゃん、そのマインドやめた方がいいって」
そして普段より強目の語気で僕を諭す。
「えっ……」
「もう一度言うけど、
愛夏ちゃんも鳴にそうやって落ち込んで欲しくないの。
鳴は過ぎたことを気にし過ぎて、
込められた大切な想いを受け止めきれていないのよ。
だから想いに応えられないのよ」
晴天の霹靂だった。衣織の言葉は僕の心にガツンと響いた。
「でも、それでも私なら別れないわ。
だって……鳴には私が必要で……
私には鳴が必要だもの」
衣織……。
僕はまた繰り返すところだったかもしれない。
「ありがとう衣織。僕には衣織が必要だ」
僕が真顔で応えると、衣織は目を丸くして頬を赤らめていた。
衣織はストレートに気持ちを伝えてくるけど、僕がストレートに応えるといつもこうなる。
衣織の可愛いところだ。
結局この日は衣織と一日中まったり過ごした。
ありがとう凛。
ありがとう衣織。
衣織……尊い存在だ!
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