与えられた異能力
ーーこれからどうしたものか。
ひたすらに歩き続けていたが、特に目的もなかったため、彼は困っていた。
なにせ、金も無い、スマホもない、乗り物もないと、現代に生きる若者基準で大ピンチに陥っている。
まぁこれだけでも充分に問題なのだが、『一番の問題』はそんなことではない。
「逆に持ってても使い道なかったかな……」
周りを見渡して深いため息をつく少年。周りもそんな彼を不思議そうに見つめている。彼の格好は無地のTシャツにチェックのシャツと『一般的』にはそこまで変な格好ではない。もちろん金髪などではなく、髪の毛も黒である。
これらはあくまで一般的な場面で例えたらの話だが。
かつての彼なら目立っている自分に浮かれていたかもしれない。
とはいえ、彼自身そんなキャラではないなと自虐していたが。
もう一度周りを見渡すと、どう見ても人間ではない歩く竜人間? やゲームや漫画などで見かけるいわゆるエルフといった種族が歩いている。
人間の中に『宇宙人』がいたらみんな驚いて振り向くだろう。
逆も然り『異世界人』の中に『人間』がいたら注目を浴びるだろう。
つまり『この世界』ではそのポジションが彼なのだ。
人間誰しも注目を浴びてみたいという部分はあるが、こんな形で浴びたくはなかったなと彼は自虐するように笑うのだった。
さて、もうお気づきだとは思うが、ここは私たちの知る世界ではない。では彼が『異世界』に来ることになったきっかけについて今一度振り返ってみよう。
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進藤 暁 18歳 高校三年生 趣味特技ゲーム。
正直良くも悪くも注目されたことのない彼にとって、簡単な紹介をするとなれば、それ以上の紹介は必要ないと言えるだろう。
最も彼のことを細部まで知りたいのであれば、それ相応の時間を要するが。
さて、この世界に来てしまった原因についてだが、彼は学校が休みだったので家でネットサーフィンをしていた。
補足しておくと、この時黒魔術について調べていたとか、異世界に行く方法について調べていたとかそんなことはない。
彼は単純に暇を潰していただけなのだ。しかし、その結果がーー、
「改めて考えてみても……意味が分からない」
長時間ネットを見ていたこともあり、夜もすっかり更けてきたなと真夜中であることを確認し、眠気に負け、少しだけ眼を閉じた。
寝ちゃってたか、なんて思い再び眼を開けるとこの世界にいた。
最初こそ夢を見ていると思っていたが、いつまで経っても目は覚めないどころか、今自分がいるここが現実であると知らしめてきた。
再びため息をつくアキラだが、それもそうだろう。別に彼はイジメられていたわけでもないし、元の世界でもそこそこ友達はいた。生活に対して不満があったわけではないのだ。
とりあえずは場所を移し、これからどうするかもう一度考える。
幸いにも異端な者が居たとしても『攻撃対象』になるわけではないらしい。現に訝しがられていたものの、捕まったりすることなく、普通に移動することができた。
「まぁ、現代で言うローマみたいなもんか。良く漫画とかである機械文化が発達した感じじゃなくて助かったかもな」
石段に座り、思考する。まずはやるべきこと一つ一つを頭にインプットしていくところから始める。
まずこの世界が殺伐とした殺し合いが行われている世界だった場合。最初に確認した通り装備品は何もないし、当たり前だが魔法なども使えない。アキラは心からそうでないことを祈る。
次に衣食住の問題だ。服に関してはおかしいことが分かったので、残りの問題に取り掛かる必要がある。
少し怖い部分もあるが、『この世界の住人』とコンタクトを取る必要があるだろう。
彼が若干ビビりつつも異世界への一歩を踏み出そうとしていると、
「ご主人! ご主人!」
どこからともなく声が聞こえてくる。慌てて辺りを見渡すが、その声の主は見えない。周りを見渡しても姿が見えないということはーー、
「上か!」
彼の予想通り声の主は上にいた。というか鳥だった。彼は未だに意味が分からなかったが、異世界に常識が通じるはずがないと割り切っていた。鳥が喋っていることについてはそういうものなんだろうと遠い目をしながら許容した。
やがてその鳥はアキラの目の前に止まり、あなたを待っていました! と告げる。アキラはもしかしてこの鳥がメインヒロイン? なんて軽く絶望しながら、鳥の言葉を待つ。
「ご主人は特別な力を有しています!」
頭の中でmenuをイメージしてくださいと言われ、とりあえずRPGゲームのメニューをイメージする。すると目の前に今アキラが思い描いた通りの『menu』画面が現れたではないか。
『Selection』
それがこの世界でアキラに与えられた『異能力』だった。