Selection
ーーどうしてこうなったんだろう。
固いアスファルトに仰向けになりながら、彼は考えていた。
既に彼の身体は力を失っており、もう後は時間次第といったところだろう。
ーー痛い、痛い、痛い、痛い
痛みに耐え切れず、声を上げそうになるが、口から出るのは血のみだ。
よく見ると口からだけでなく、手や足など身体の至るところから血が流れていた。視界に映るすべてが血で染まっていく。
ーーどこだ? どこで間違えた?
彼は自身が死ぬことに関してはどうでも良かった。彼が気にしているのはそんなことではない。では一体なんだと言うのか。
失いそうになる意識をなんとか保ち、彼は意識を失うその瞬間を迎えるまで、必死に頭を回転させる。
ーーこうなるはずじゃなかったんだ。
あそこじゃない、あれでもない、これでもない。これまでの『記憶』を辿り、こうなるまでの『過程』を探す。
ダメだ、見つからない。どうしても、見つけることができない。
先程言ったように『彼』はもう間も無く死ぬ運命にある。
彼自身もそれを把握しており、死ぬことに対しての後悔はない。
彼は理由と答えを探しているのだ。人間はいつだって『理由』と『答え』を求める生き物である。そしてそれは死ぬ瞬間だとしても変わらない。
だが彼がその理由と答えを知ることはできない。それは運命なのか、はたまた神の悪戯なのか。
どちらにせよ、彼は嘆くしかない。真実を知ることはできないのだから。
そもそも大層なことを成し遂げようとしていたわけではない。
『彼』は1人の女の子を救いたかっただけだった。
「私のためにありがとう。もう、いいんだよ?」
どこからか声が聞こえる。優しい女の子の声が。
彼は自分が求める『女の子』の声だとすぐに分かったが、すぐにそれを頭の中から消す。
それを受け入れればすべてが終わると分かっていても、彼はそれを受け入れるわけにはいかなかった。
受け入れることは『諦める』ことだと分かっているから。
だからこそ彼は誓うーー、
「お前が、お前が俺を忘れない限り、俺は何度だってお前をーー」
ーー迎えに、迎えに、行くから。
彼は力尽きるが、これで終わりではない。
最後まで口に出すことはできなかったが、彼は自身にーー彼女に誓う。
彼の死体のみがそこに映るなか、突如menu画面が表示される。
『Selection』
最期を迎えようとそれが終わりではない。
この物語はそこから始まる。