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9話 作戦実行……

 鋭い爪を閃かせ右手を振る夜獣(やじゅう)


 その勢いを利用した背負い投げで、那月は三メートルほど先にあるビルの壁に叩きつけた。


 そのまま夜獣に向けスピールを構え、引き金を引いた。


 どん、と威力が伝わる銃声とも言える魔法音をさせ、重なり合う光の弾丸が漆黒のスーツを着た豹頭の夜獣に命中。


 胸部に十五センチほどの穴を開けた。


 続けて三発、腹部に撃ちこむ。

 同様に穴が開き、それを埋めるべく夜獣の手足の先から存在力が流れていく。


 流れていくが補填の量が足りず、計四つの穴に全身を吸い込まれる形で、豹頭の夜獣は消滅した。


「よし!」


 会心の戦い方に那月は思わずガッツポーズをした。


 左側の髪にある凶悪な顔をしたウサギのアクセサリーも、那月の戦いを喜ん

でいるようにみえた。


 街の大通り。

 すぐそばで行き交う人々もいるが、それに気づく事なく通り過ぎていく。


「ナイスファイト、那月」

「ガーッハハハ、手本のような背負い投げ、見事だわい」


 銃神、武神がそれぞれに那月を褒めた。


「ふふ、ありがとう」

 那月も笑顔で答えた。


「しかし、あれから五日ほど経ちますが、あのゾウ型、ドンが現れませんね」


 すると惣神が少し心配そうに言った。


「夜獣はその時の世相にも影響を受ける。いつ、どんな夜獣が現れるか、分からん。その都度、出てきたやつに対処するしかない」


「それはそうですが、あれだけインパクトを残しておきながら、なんかこう、焦らされている感が気になって……」


 呪神に改めて説明されるも、腑に落ちない様子の惣神。


「大丈夫よセンセー、そのための準備はしているんだし、何より那月の作戦があるんだから」「「ねー」」


 惣神を元気づけようとする衣神と、その語尾に乗っかる那月。


「どのみち、出たとこ勝負でッス」


「思いっきりやって、駄目だったら引けばいい。それでいて、損するところがねえんだから、なにも問題ないわな」


 宅神、商神も、焦ることはない旨を言った。


「分かりました。目の前のことにベストを尽くしましょう」


 気持ちを取り直して、惣神が微笑むように言った。





 --噂をすれば影がさす。





 那月の前方、百メートルほどの所に巨体が音もなく姿を現した。


 四メートルはある身長、五トンと言われて納得する体躯。

 それを漆黒のスーツが包み、ネクタイよりも長い鼻が垂れている。

 目つきも鋭く、全身で威圧感を放っている。


 間違いなく、ゾウ型の夜獣。通称、ドンであった。


 人々はその存在すら気づく事なく、平然としている。

 七柱の神と那月以外は。


「那月」


 銃神、呪神の声より早く、那月はスピールを取り出し、シリンダー内にある効果筒(こうかとう)を排出。


 左腰にあるポーチから、対ドン用に効果筒をセットしたスピードローダーを取り出して装填し直し、ドンに構えた。


「まずは、みんなを守る」


 那月が引き金を引くと、パシンッという音ともにドンの周囲五メートルに透明な球体結界が展開した。


 那月の魔力で構築された結界は、原則、人とドンが接触しないためのもので、人が結界に触れれば転移し、そこに何もないかのように通り過ぎていく。


 逆に、ドンが人と接触しようとしても結界が壁になって遮ることができる。


 被弾したことで那月に気づいたドン。

 睨み付けながら真っ直ぐ敵に向かって歩き出す。


 早くはないが、重量感たっぷりの黒い塊が迫ってくるのは脅威である。


「いくよ……」

 呟きながら那月は次弾に切りかえ、引き金を引いた。


 魔圧によるノズルジャンプをさせながら、重光弾が放たれる。


 魔法たる光の弾丸はドンの左膝に着弾。 

 パーンと、火花のような金の粒が派手に散り、効果の大きさを表した。


 しかし、豹頭の夜獣と違い穴が開くことはなく、ドンも何かしたのか? と言わんばかりに平気な顔をしている。


「固い! だったら……」


 すると那月は、左腿のホルスターから治療用と位置付けた、グリップとトリガーだけの形をしたスピールを取り出した。


 左手に治療用スピール。右手に夜獣用スピール。


 二丁拳銃のスタイルだが、那月のは一丁拳銃の両手持ち。

 いわゆるカップ&ソーサーのようにして、二つのスピールを構えた。

 より精度の高い魔法射撃と、二丁連続使用を考えたものである。


 そして那月は左手の引き金を引いた。


 ノズルジャンプなく心地よい明るく弾ける銃声と同時に、桃色の光が同じくドンの左膝に着弾。


 その点を中心にガラス片を撒いたような影が散り、桃色の光が波紋のように広がって、ドンの身体に浸透していった。


 すかさず右手の引き金を引く那月。


 重光弾が再び左膝に着弾すると、今度は抉るように穴を開けた。


 十五センチほどの空洞ができたことで、歩行中のドンは体勢を崩し、左のめりになって倒れた。


 ドズーンという重量感たっぷりの音と地響きをさせ、俯せになるドン。


 那月はそのまま、左、右と引き金を引いた。


 ドンの右肩から影が散り、桃色の光が広がって、重なる光の弾丸が穴を開け、立とうとする動きを阻害した。


「作戦成功だね、那月」


「うん」


銃神が効果を認めると、那月は真っ直ぐに見据えたまま頷いた。


 医療用スピールから放たれた桃福弾(とうふくだん)は、陰気や邪気の一切を祓う陽気と笑福の魔法。


 それは人の心の、負の気などで構成された夜獣にとって毒を受けた形となり、耐久力と回復力を著しく低下させた。


 そこへ高威力の攻撃魔法である。

 さすがのドンも、当たり前にダメージを受けることになったのだ。


 こうなるとあとは単純。

 ひたすら左、右、左、右と引き金を引くだけである。


 ドンが起き上らないように警戒しつつ、蜂の巣にしてゆく。


 恐れていた長い鼻と、そこから放出する攻撃も、体勢上難しく、路面を這わせ動かすのが精一杯だった。


「……」


 一番安全な方法になったとはいえ、一方的で、那月は可哀想な気がしてきた。


「相手に付き合う必要はないぞ、那月」

 それを察して呪神が言った。


「ガーッハハハ、さよう。力自慢に力で対抗することはない」

「これは、那月の作戦勝ちと考えるべきだ」

「怪我をしたら元も子もないでッス」


 武神、銃神、宅神がそれに続いて言った。

 

「そうだね、ありがとう。ネーサン、シショウ、スピール。そしてタクロー」

 那月は罪悪感のようなものから離れ、気を取り直して答えた。 


「ねえ、もうちょっとじゃない?」

 衣神が言うと、確かにドンの身体は残っている部分が透けて見えていた。


 夜獣の存在力が失われている証拠である。


「うん。もう、そろそろ……、かな!」


 そう言って那月が右手の引き金を引くと、ドンは完全に消滅した。


 同時にドンの周囲にあった球体結界も消え、那月はスピールの構えを解いた。


 ウサギのアクセサリーの長い耳が揺れている。

 まるで勝利を祝しているように。


 そして、街ゆく人々は、いつものように何事もなかったように、那月の横を通り過ぎていく。


 笑顔を見せながら。 


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