10話 入浴と食事と
居住空間内、浴室。
淡いピンクで統一された内装に、四畳半ほどのコンパクトな広さ。
そこで那月は、鼻歌を歌いながら壁にかけたシャワーを浴びていた。
「ふふ、ふふーん、ふふ、ふふーん……」
掌におさまる胸、うっすらと筋肉が見える腹部、引き締まった太ももに足、そして女神を思わせる美しい背中。
その素肌を伝わり、那月の身体から湯が流れ落ちていく。
「いつ見ても那月の身体、きれいよね」
そう言って衣神が、あらためて那月の身体に感心した。
「そう?」
言いながらシャワーを止める那月。
「私よりも普通に、フクサンやセンセー、ネーサンがスタイル良いと思うけど」
女性神である衣神、惣神、呪神の、かつての姿を思い出しながら言った。
「わたしはちょっと背が高いだけ。センセーなんて胸が大きいし、ネーサンはスーパーモデル級だけど、那月は上品さと逞しさをもった華みたいな感じね」
「ふーん」
そう言われても、いまひとつぴんとこない那月。
「でも確かにセンセーの胸は大きかった」
頷きながら那月が言った。
「え? そ……、そんなことありません」
不意に身体のこと言われ、慌てる惣神。
「ネーサンは凄かったし、フクサンはスレンダーのお手本だった」
「ありがとう、那月」
「ふふ、ありがとう」
呪神と衣神は微笑みながら、さらりと躱すように答えた。
純真さ、クールさ、穏やかさ。
それぞれの性格が現れた反応だった。
「……」
反応といえば那月を取り巻く、銃神、武神、宅神、商神、の四柱もその場にいるのだが、男性として節度を守る意思表示で、入浴中や着替え、トイレなどのときは、一切、喋らないことにしていた。
--曇りガラスのドアを開け脱衣室に入る那月。
同時に那月の魔力が身体を乾かし、そのまま脇の棚にある下着を身に着け、きれいに畳まれたパジャマを手に取った。
「お、いいねー、フクサン」
青地に白のウサギが模様になったパジャマ。
それを着た姿を鏡で見ながら那月が言った。
「気に入ったみたいね」
用意した衣神も嬉しそうに答えた。
脱衣室を出てピンクのモフモフスリッパを履くと、そこから那月は真っ直ぐ、リビングに向かい、ソファーに座った。
「さっぱりしたかい、那月」
「うん、とっても」
銃神が声をかけると、那月は気持ち良く答えた。
「湯上りに、いつもの|新健理茶でッス」
宅神が言うと、那月の前にあるテーブルから、有名飲料メーカーのブレンド茶が淹れられたマグカップが現れた。
それを手に取り、適度に冷えたお茶を口に運ぶ那月。
「ふう……」
ゆっくり飲み込むと、那月は至福の顔をみせた。
「いい顔だ。大仕事の後の一杯は何でも格別だからな」
自身も嬉しそうに商神が言った。
「ガーッハハハ、確かに。腹もへっただろう。タクロー、御馳走じゃ」
「那月、よろしいでッスか?」
「うん、いいよ」
武神の提案に、宅神が確認をとり、那月が同意した。
「ではこちらをどうぞ」
宅神が言うと、テーブルから一回り大きなどんぶりと、茶碗にいれられた温かい味噌汁、ウサギの箸受けにピンクの箸が現れた。
どんぶりの中にはご飯が盛られてあり、その上にマグロ、イカ、タコ、エビがのせられ、イクラが散りばめられていて、とても華やかだった。
「三陸産の海鮮丼でッス」
「うっわー、美味しそう。いただきまーす」
そう言うと那月は箸を取り、ごはんと一緒にマグロを口に入れた。
「うん、美味しい!」
「それは良かったでッス」
大喜びの那月に、宅神も笑顔が見えそうな声で言った。
「でも、乙女のご馳走って、なんか違うような……」
箸が止まらない感じの那月を見ながら、衣神が呟くように言った。
「確かに、ふつうはケーキとかですよね」
「私ならワインだな」
惣神と呪神が私見を述べた。
「以前、食べてみたいと言っていたので、希望にこたえたわけでッス」
宅神が選んだ理由を言った。
「ガーッハハハ、質実剛健。那月らしくて良いではないか」
「本人が喜んでいるなら、それでいいと思うね」
「フランス料理のフルコースみてえなのよりは、安上がりだしな」
武神、銃神、商神がそれぞれの見解を語った。
「まあ、それはそうだけど……」
納得がいかない感じの衣神。
「だったらフクサン、明日、選んでよ」
那月が好奇心を含ませて言った。
「え、私?」
「そう。センセー、それにネーサンもね。いいでしょ?」
「ええ、構いませんけど……」
「私の場合、酒類になるぞ」
「大丈夫! 私、二十歳だから」
そう言いながら胸をはる那月。
「ああ、そうだったな」
呪神は微笑むようにして答えた。
「分かったわ那月。明日の晩御飯までに話し合って決めるわね」
ウインクしながら話しているように、衣神が取りまとめておくことを言った。
「うん。楽しみにしてる」
「じゃあ、そういうことで。タクロー、キンジイ、よろしく」
「了解でッス」
「この流れじゃあ仕方ねえわな。その分、後でしっかり稼ぐんだぜ、那月」
「オッケー」
実際に用意する宅神と、財布を預かる商神も了承し、那月は残りの海鮮丼を
口にした。
みんなといる。
みんながいる。
その表情は満面の笑顔だった。