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星の声 空の想い  作者: 江田 吏来
第3章 一条新太は思い出す
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第2話 オマエはだれだ?② 「記憶があるのか?」

 江藤が話す不思議な話に興味を抱いて、謎解きをしているようで楽しかった。それだけだと思っていたのに、いつの間にか江藤への想いは破裂しそうな風船のように膨らんでいて、オレ自身が戸惑っている。

 渡したくないなら、すこし抗ってみるか?

 玉砕するのがわかっていても、だまって指をくわえて我慢できるほどお人よしではない。江藤に気を遣うのをやめた。

 ここは四人であそびに来た場所だから、成宮にも積極的に話しかけた。

 大学のこと、受験のこと。オレと成宮が話をするから、自然と江藤は羽野としゃべり出す。最初からこうすれば良かった……。

「このあと、どうしようか」

 羽野と並んで歩く江藤が、くるりと振り向いた。ようやく硬さが抜けて、愛嬌のあるいつもの江藤だった。やっぱり最初から……。

「私はまだ時間あるけど、どうする?」

 ポケットからスマホを取り出すと、まだ四時を過ぎたところだった。

 夏のつよい日差しが若干やさしくなった気もするけど、肌にまとわりつく風はねっとりとして重い。このまま歩きまわるのもイヤだし、解散してもいいと思ったが――。

「僕の知ってる店で良かったら、寄ってみる? ここから近いし、おいしいケーキもあるよ」

 成宮はどこまでも出来る男だった。

 ルックスは完璧で、オシャレでリードするのもうまい。オレも大学生になれば、成宮のような落ち着いた大人になれるのか。いくら考えても、そんなビジョンはまったく頭に浮かばない。

「おいしいケーキだって。いこうよ。ティラミスとかもあります?」

 羽野が目を輝かせて成宮とケーキの話をするから、江藤に話しかけてみた。

「江藤は、成宮がジェラルドだと思うか?」

「緊張しすぎて疲れたから、ジェラルドかもしれないね。でも、エトワールはフラれてるし、これで終わりかな」 

 そういって、すぐに羽野のもとへ駆けだした。

 なぜか鼓動がはやくなった。

 これで終わりという言葉に、かなりほっとしているはずなのに、心が落ち着かない。簡単にあきらめてしまうのが、以外だった。

 ケーキの話で盛りあがる三人のうしろを、ゆっくりと歩いた。

 セミの鳴き声が夏の暑さを運んでくるけど、嫉妬でざわついた心は単純なほどおだやかだ。そして、道路沿いのケヤキ並木をすこし進むと、ビルとビルの狭間で成宮はとまった。

 気を付けて歩かないとそのまま素通りしてしまいそうな、小さな喫茶店がある。

「どうぞ」

 まるで自分の家みたいに、成宮は店の扉を開けた。すると、カランッと、扉に取り付けられたベルが良い音を鳴らす。

 店内は暗めのライトに、ダークブラウンのイスやテーブルが並び、とてもクラシカルな雰囲気。おだやかな時間を楽しむような音楽がゆったりと流れ、ケーキの甘い香りがする。

「成宮センセイもケーキとか食べるんですか?」

 席についた江藤が質問をしたが、成宮はかるく首を振った。

「あまいものはたくさん食べないから、僕はコーヒーで」

「えっ、あまいもの苦手ですか? 果物とかも? リンゴとか食べないんですか?」

 江藤が目を丸くして驚いている。

「リンゴは食べないなぁ。ミカンは好きだけど」

 すこし笑った成宮の顔を、不思議そうな目で追いかける江藤。

 オレはずっとイライラしたり、ホッとしたりで疲れている。あまいものも好きだから、いまならチョコレートケーキをホールごと食べられる気がしたが、成宮と同じコーヒーにした。

 そして、ようやくゆっくりとした、落ち着ける場所にたどり着き、いよいよかと期待した。だが、エルネストの話はまったく出てこない。

 江藤も羽野も、うまそうなケーキを目の前にして、目的をすっかり忘れている。

「くぅー、おいしい。真鈴、ちょっと食べる?」

 並んで座る羽野と江藤は、うっとりとした目で、この世の幸せをかみしめているようだ。いつも冷静な羽野も、コーヒーシロップをしみこませたチョコスポンジと、やわらかいマスカルポーネムースを口に運ぶと、笑みがあふれる。ふわっととろけるティラミスのおいしさに夢中だ。

「こっちもおいしいよ。蓮夏ちゃん、ひと口、食べてみる?」

 江藤にティラミスをわけようとしたとき、羽野の腕がジュースのグラスにぶつかった。

「あっ」

 声を出したときにはもう遅く、ガシャーンと大きな音を立てて、グラスは倒れた。

「蓮夏ちゃん、ごめん」

「いいよ、いいよ。ちょっと、洗ってくる」

 サッとテーブルを拭いて、江藤と羽野があわてて席をたった。

 意外な形で、成宮とふたり取り残されている。これはチャンスかもしれないと思ったが、先に話しかけてきたのは成宮だった。

「一条クンって、カルデニアなの?」

「えっ!」

 まさか成宮の方からエルネストの話をしてくるとは思わなかったので、ビックリしすぎてひとまわり大きな声がでた。

 でも、成宮はまったく気にしていない。

「僕があらわれて、焦った?」

「べつに。……って、エルネストの記憶があるのか?」

 成宮はチラッと化粧室の方をみた。ふたりが戻ってくる気配がないのを確認すると、白いコーヒーカップをもてあそぶように転がしながら、ハッキリといった。

「エルネストの記憶はあるよ」

 ごまかしてくると思っていたのに、アッサリと認めた。

 成宮の真意が、まったくわからない。

「成宮は、ジェラルドなのか?」

 その質問に、ようやくチラッとだけオレの方を向いたが、すぐに目をそらすと、「それは答えない」といった。

「エトワールはジェラルドに裏切られて、殺されたって、カルデニアがいっていた。それは、本当なのか? どうしてそんなことをしたんだッ」

 問い詰めると、おだやかな空気が消えた。

 成宮らしくない刺すような鋭い目つきで、オレを睨んでいる。

「オマエはだれだ?」

「は?」

「アニスとエトワールが一緒にいることも驚いたけど、一条クンがカルデニア? いったいどんな夢をみたんだ」

「どんなって、おまえの言っている意味が、まったくわかんねぇんだけど」

「それはこっちのセリフだ。さっさと役目を終わらせたかったけど、話しにならないな」

「役目?」

 成宮は残りのコーヒーを一気に飲み干すと、伝票を手にとった。

「……わるいけど、先に帰る」

「ちょっと待てよ。意味がわからないっていってるだろ。ちゃんと説明しろよッ」

 引きとめようとしたが、成宮がオレの胸ぐらをつかみあげた。

「オマエはだれだ? まさか、フェザードか」

「フェザー……ド」

 その名前を聞くと、いまいましさが全身を駆けめぐる。

 しかし、化粧室の扉が開く音がすると、成宮が手を離した。

「あれ、成宮センセイ、帰るんですか? 蓮夏ちゃん、呼んできましょうか?」

「いや、用事が出来たからすぐ帰るよ。ごめんね」

 刺すような視線も、鋭い眼差しもまったく感じさせない。いつものおだやかな成宮に戻っている。

「一条、なんかあったの?」

「ありすぎて、わけがわかんねぇ」

 成宮の背中を見送りながら、もう一度じっくりと考えてみたが、やっぱりわからない。

「オマエはだれだ?」そんなこと、こっちが聞きたかった。


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