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星の声 空の想い  作者: 江田 吏来
第1章 江藤 蓮夏は夢をみる
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第2話 波乱のスタート② 「突然の睡魔」

 真鈴には、カルデニアという一条君にそっくりな女の子の夢をみていたこと、入学試験の日に、カサを借りたことなどを話したら、それはもう興味津々。

 ファンタジーやオカルト的な話が大好きみたいで、さらに仲良くなれた感じ。

 でも、真鈴がわたし、エトワールのお母さんだっていったら、お腹をかかえて大笑いしている。

「私が、蓮夏ちゃんのお母さん? あー、面白い。なによそれェ」

「わ、笑わないって約束でしょう。笑わないでよッ」

「ごめん、ごめん」

 目尻の涙をぬぐって、一生懸命に笑いをこらえる真鈴。やっぱり話すんじゃなかったと後悔したけど、すこし真面目な顔に戻って不思議なことをいいだした。

「そういえば受験の日、蓮夏ちゃんが途中でバスをおりちゃって、ものすごく心配になったなぁ。なぜか気になって、ずっと門の前で蓮夏ちゃんをさがしてたし……」

「あのときは、本当にごめんなさい。背中たたいて、さむいのに心配かけちゃって」

「いいの、いいの。ただ、蓮夏ちゃんの夢の話を聞いちゃったら、私、本当に蓮夏ちゃんのお母さんだったかも。娘を心配する親の気持ち、みたいな? そうだッ!」

 真鈴はガシッとわたしの肩に手を置き、表情を固める。あまりにも真剣な眼差しにたじろいだけど、真鈴の手に力が入る。

「一条にも聞いてみようよ。私と同じように蓮夏ちゃんをみて、なにか感じたかもしれないよ」

「ま、まさか」

「だっておかしいでしょ? まったく知らない人同士なのに、カサに入れる?」

「それは……、大雪だったし、親切で」

 深いため息をつかれた。

「夢が前世の記憶なら、困っている蓮夏ちゃんをみつけて、放って置けなかったのよ。大親友だったんでしょ? 私だってなにか心に引っ掛かるものがあったのよ。うん、きっとそうよ」

 うん、うん、と、ひとりで大きくうなずいて、真鈴は一条君のもとへと走り出したから、全力で止めた。

 真鈴は不満そうにしていたけど、これ以上ヘンな人だと思われたくない。

 一条君にむかって「カルデニア」と叫んだときの、呆れたようなつめたい目。

 穴があったら掘ってでもなかに入って、隠れたかった……。

「そろそろ入学式がはじまるから、廊下に並ばないと」

「え、もうそんな時間?」

 腕時計をみて、残念そうな顔をする真鈴には悪いけど、わたしは胸をなでおろした。

 そして、入学式がはじまる。

 ありがたいような、つまらないような、よくわからない話を長々と聞き、新入生代表の挨拶になった。

「……あ」

 わたしだけじゃない。

 新入生も在校生もすこしざわついている。

 新入生代表として、スタンドマイクの前に立っているのは、一条新太。

 ちょっとあの赤い髪は不良っぽい。

 わたしも明るい栗色の髪だから、人のことはいえないけど、かなり目立っている。でも、堂々とした風貌で、ハキハキとした威勢の良い声。

 合格発表の日も、制服の受け渡しの日にも姿をみなかった。だから、てっきり不合格になったと思っていたのに、新入生代表ってことは、首席で合格じゃないか。

 あと一点でも失っていたら不合格だった、ギリギリ合格のわたしとは雲泥の差。

 夢の中では、なかよしレベルマックスのカルデニアなのに、ずいぶん遠い人のように感じて、ため息をつく。

 それにしても、体育館の窓から流れこむ春の優しい風が心地良くて、とても眠い。

 あくびをこらえ、くっつきそうなまぶたをこする。

 ウトウトすること数回。

 春の陽気と戦いながら、なんとか入学式をのりきったのに……。

 体育館から出ると、何人かの先生が生徒をつかまえて、なにやら話をしているのが見えた。

「なんだ、このスカートの丈はッ」

 城南高校は進学校だけど、風紀面はあまりうるさくないと聞いていた。でも、やはり最初が肝心なのか、短すぎるスカート丈の生徒に注意をしている。

 わたしは明るい栗色の髪に、パーマをあてたようなクセ毛。いやな予感がするから、早足で通り過ぎようとしたけど、フォーマルスーツに身を包んだ強面の先生が、仁王立ちでこっちをにらみつけている。

 絶対に目をあわせない方がいいと直感が働いたけど、遅かった。

「おい、そこ。ちょっと来いッ!!」

 怒鳴りつけるような声にビクッとしたけど、呼ばれたらいくしかない。

「なんだ、その髪は?」

「えっ?」

「えっ、じゃないッ! パーマか? ちょっと生活指導室に来い」

 がんばってセットしても、汗や湿気でアッサリと崩れる天然パーマ。

 ウネウネうねる、憎い奴。

 いつもポニーテールにしてごまかしていたけど、今日は時間がなくて髪をおろしている。

「ち、違います。これはくせ毛で」 

 目頭が熱く、泣きそうな顔になったけど、先生はさらに厳しい目でにらむ。

「ウソをつくなッ! パーマの当てすぎで、髪まで変色してるじゃないか」

「これも、もともと……。生まれたときから茶色っぽいんです」

 中学生のときも、生活指導の先生によく呼び止められたっけ。でも、本当にパーマやヘアカラーをしているわけじゃないので、絶対に負けられない。

 手をギュッと握り、胸を張ったけど、先生には、生意気に反抗してくる生徒に見えたのかもしれない。

 前髪を鷲づかみにされた。

「みればわかるんだよ。生徒指導室に来いッ!」

 ――怖い。

 ドクンッと、うるさいほど心臓の音が大きく聞こえた。

 いままでも、髪の色やクセ毛が理解されずに、何度も叱られたことがある。でも、ここまで恐怖を感じたことはない。

 それなのに、わたしの心の中で、わたしじゃないなにかが、とても怖がっている。

 全身から汗が噴き出すような不気味さを感じると、手足から熱が消え、膝が震えだした。

「れ、蓮夏ちゃん」

 不安そうな真鈴の声が、とても遠くに聞こえる。

 ふわふわと浮いているような感じがして、足に力が入らない。

 このままだと倒れてしまう。心では焦っているのに、身体がいうことを聞かない。

 どうすることもできない異変に戸惑っていると、だれかがわたしの背中に手をそえた。

「そいつでアウトなら、オレの髪はどうなるんっすかねぇ?」

「い、一条」

 パッと前髪から先生の手が離れた。

 思わず顔を上げたけど、視界がグニャリとゆがむ。

 ――カラスだ。汚いカラスだ。

 ひどく罵倒するような声が頭の中に響くと、立っていられないほどの強い睡魔におそわれた。

「江藤?」

 わたしを呼ぶ声が何度も聞こえたけど、足もとから崩れおちた。

 そして、ドボンと水の中に放り込まれて、沈んでいくような感覚。

 背中から深い闇へと落ちていくようだった。

 息苦しさは感じなくなったけど、だんだんとひかりが消えていくのが怖かった。

 どうしようもできずに、全身に力が入ると、潮の香りがする。

 この感覚は――。

 満月の夜じゃないのに、夢がはじまる。

 いままで、こんなことはなかったのに……。

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