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星の声 空の想い  作者: 江田 吏来
第2章 エルネストの悲劇
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第11話 星の声① 「ジェラルドがいない」

 フェザードが約束したとおり、幽閉といっても生活に困ることはなかった。むしろ、食べきれないほどの食事や、贅沢な(ドレス)がずらりと並んで気が引ける。

 カルデニアはただの付き添いだから、王都と港町を自由に出入りしていた。

 町の様子や病のことなど、いろいろな情報をエトワールに伝えていたが、楽しくなるような話ばかりではない。

「ジェラルドがいない?」

「うん。どこにもいないんだ」

「……なにかあったのかしら?」

「わかんない。でも、エトワールは心配しないで。きっとすぐ見つかるから」

 でも、ジェラルドは見つからなかった。

 ラスティたちも情報を集めたが、船場でフェザードと話をしていたという目撃情報を最後に、消息がつかめない。

 カルデニアはジェラルドの話をしなくなり、エトワールがたずねても、曖昧に答えるだけ。心の奥底に不安がたまり、重苦しいものが身体を支配する。

 空色のペンダントを眺めながら、ジェラルドのやさしい瞳を思い出しても、なにか良くないことが起こりそうな予感は消えない。

 そして、その日はやってくる。

 港町へあそびに行ったカルデニアが、おやつの時間になっても珍しく戻ってこなかった。かわりに重装備の騎士が、国王のサインがはいった書類を渡す。

「本日、エトワールの幽閉を解く。ここにある荷物は好きなだけ持ち帰り、ここでの生活は他言してはならない。そして、ジェラルドさまが、聖なる岬でお待ちです」

 騎士の言葉を聞いて、よろこびの色を頬に浮かべた。

「あの、カルデニアは? 今日もここへ来ているはずですが?」

「ラスティさまの娘なら、荷物をまとめている。心配しなくても良い」

「そうですか。ありがとうございます」

 騎士に頭をさげ、大切なものだけをカバンにつめる。

 どこをさがしても、荷物をまとめているはずのカルデニアがいなかったけど、ジェラルドにはやく会いたい。

 はやる気持ちをおさえきれずに、エトワールは駆けだした。

 王都から白い石畳の坂をくだり、舗装されていない道をのぼる。すると、沈みかけた太陽のひかりに、エメラルドグリーンの海が朱色に染まっているのがみえた。そしてそのまばゆい輝きの中に、人影がみえる。

 エトワールは足をとめた。

「えっ……」

 そこにはジェラルドがいるはずなのに、別の人がいる。

 長くのびた金色の髪に、エトワールは血の気が引くのを感じながら、後ずさりをした。

「逃げるな」

 地の底から響くような、威厳のある低い声。

「フェザード……さ……ま?」

 全身にぞわっと鳥肌が立ち、ここにいては危ないと感じたが、フェザードは手のしている者を放り投げた。

 ドサッと砂ぼこりを立てながら、倒れているのは赤い髪。

「カルデニアッ!」

 ぐったりとして、動かないカルデニア。

 エトワールが慌ててかけよると、フェザードは見下すような冷笑を浮かべる。

「さすがはラスティの娘だ。男三人がかりでも捕まえられずに、毒矢を使った」

「ド……ク?」

 上着をめくり、血がにじむカルデニアの背中をみると、矢が突き刺さった跡が。

 痛々しいほど赤黒く腫れ、異常なほど脈をうっている。

「なんてことをッ」

 炎のような激しい怒りが、エトワールの身体を貫く。

 奥歯をかみしめ、有無をいわせない迫力で睨みつけたが、フェザードは笑う。

「その声、その目つき。まさにアニスそのものだ。ここに解毒剤がある。アニスの声で命乞いをしろ。そうすれば、ラスティの娘は助けてやる」

「……ダ……メだよ、エ……ト……」

 カルデニアの目がすこし開く。

「カルデニア、これを噛んで」

 腰ひもに結び付けていた革袋から薬草を取り出し、口に入れた。背中にもありったけの軟膏をぬったが、フェザードがエトワールのほそい腕をつかみあげた。

「他国もエルネストも、欲しいと思うものは、なんでも手に入れた。だが、たったひとつだけ手に入れられなかったものがある。なんだかわかるか?」

「知らないわよッ。離して」

「アニスだよ」

 憎悪のこもった声を出し、カルデニアの背中を踏みつけた。

「いッ、あぁあああーッ」

 激痛に耐えられないカルデニアの悲鳴が、エトワールの耳を裂く。

「お願い、離してッ。もうやめてーッ!」

「ここは神が来臨した神聖な場所。だから、ここで誓え。このフェザードに隷属しろ」

 パッと手が離された。

「その汚い黒髪は金色にかえてやる。声だけあればいいと思っていたが、目も捨てがたいな。くりぬいて、黄金でもつめてやろうか?」

「く……、狂ってる」

 よろめき、地べたに座りこんだが、いままでに抱いたことのない激しい憎悪が、際限なくわきあがる。

 殺気立つエトワールに、フェザードはまた笑った。

「そういえば、この私に同じことをいったヤツがいたな。「狂ってる」と。私はそいつの腹に穴を開け、真っ暗な海に落としてやったよ」

 スッとエトワールの耳元に顔を近づけ、ねっとりとした声を出す。

「オマエの父、フォンセをな」

 勝ち誇ったかのような高笑いが響く。

 エトワールは蒼ざめた顔のまま、這うようにしてカルデニアのもとへ。

 フェザードがなにをいって、なにがしたいのかまったく理解できない。でも、目の前のカルデニアが死にそうで怖い。

 美しいエルネストの景色が涙でグニャリと曲がり、吐きそうなほど苦しい。

 震える手で薬草をカルデニアの傷にかぶせると、エトワールの手を、カルデニアはしっかりと握った。

「そんな……こと、ジェラルドが……ゆる……す……もんか」

「ジェラルド?」

 金色の眉がピクリとあがった

「あぁ、そうだった。すっかり忘れていたが、ジェラルドはもうこちら側の人間だ。ラメルとも、黒髪の娘とも縁を切った」

 胸もとから一枚の紙を取り出すと、エトワールにむかって、たたきつけるように投げた。

 それは離縁を届ける正式な書類。

 ジェラルド直筆のサインがある。

「ウソ……」

 呆然として抵抗しないエトワールの姿に、フェザードは物足りなさを感じたのか、さらに声をあげた。

「私には息子がたくさんいたが、ジェラルドほど優秀なものはいない。貴様と別れて、彼は私のもとで働くことを選んだ」

 フェザードはしゃがみ込み、エトワールのあごをクイッと持ちあげた。被虐されて、深い絶望に沈む姿にゾクゾクとした快感を得ているフェザードは、つめたくひかる金色の瞳を、さらにあやしく輝かせる。

「ジェラルドの、本当の姿を教えてやろうか?」

 エトワールは涙の止まらない目を見開いて、首を横に振ったが、フェザードは話をとめなかった。

 

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