第10話 引き裂かれたふたり② 「幽閉」
客間には、金色の瞳をつめたくひからせる、フェザードが座っていた。
アニスと同じ金色の髪と瞳なのに、温かさを感じない。それぞれが席についても、エトワールの身体は石のようにかたくなり、足がすくむ。
そんなエトワールにフェザードは、気味がわるい虫でもみるかのような視線をおくる。
「わるいが、私はアシェ人がキライだ。そこの娘、フードをかぶれ」
その言葉にジェラルドが立ちあがったが、ラスティが片手でとめる。
「エトワール、フードはかぶらなくていい。フェザード、エトワールはアシェ人じゃない。ラメルの試練をのりこえた、フォンセの娘だ。だから、エトワールはラメルの民だ」
「フォンセが? どうせ、ラスティが手を貸したんだろ」
「いいや。フォンセは頭のいいヤツだったからな。軽くクリアしたぞ」
「信じられんな」
プイッと顔をそむけ、腕を組む。横柄な態度に不穏な空気が流れたが、ラスティは冷静だ。
「フェザード、エトワールをどうするつもりだ? エトワールを閉じ込めても解決せんぞ。病の原因は他にある。それぐらいは、わかるよな?」
「……あたりまえだ。その娘に原因があるなら、この私が、わざわざここへは来ない。ただ、混乱を鎮めるために、協力してほしいだけだ」
「協力?」
自信家のフェザードから思いもよらない言葉が出たので、ラスティは顔をしかめた。
フェザードをよく知るジェラルドも、怪訝な目をむけたが、気にする様子もなく話を続ける。
「病を封じるために国も必死だ。だが、その娘がここにいては、騒ぎがおさまらない。しばらく王都に身を隠してほしい。国民には幽閉と伝えるが、もちろん、手荒な真似はしない。生活は保障する」
「んー、身の安全が保障されるなら、いい提案かもしれないな。どうする? エトワール」
「ひとりで、王都にいくのは……、ちょっと怖いです。ただでさえ、この髪と目なので。ジェラルドと一緒でもいいですか?」
か細い声でフェザードにたずねてみたが、大きく目を見開いたまま、答えない。驚きで顔が強張っているようにみえた。
「フェザード?」
ラスティが声をかけると、フェザードはハッとして、すこし笑った。
「驚いたな。アニスかと思った。……なつかしい声だ」
「そりゃ、エトワールはアニスの娘だからな。怒った顔なんかもよく似てるよ」
ほんのすこしだけなごやかな雰囲気になったが、フェザードは再びキリッとした威厳のある顔に戻ると、エトワールの願いを退けた。
「ジェラルドは騎士を抜けた男だ。王都に入れるわけにはいかん」
「あ、じゃ、アタシがいく!」
大きく手をあげたのは、カルデニアだった。
フェザードはしばらく難しい顔をして考えていたが、「カルデニアなら問題ないだろう」とつぶやくと、形だけの幽閉が決まった。
話がまとまりジェラルドが席を立つと、フェザードが引きとめる。
「なに?」
不機嫌なジェラルドと、まったく無表情なフェザードが並んで話をしているのが不思議で、エトワールは足をとめた。
しかし、それに気がついたフェザードは横目で睨みつける。
「人の話を立ち聞きか? そんな下品なことをする前に、王都へいく準備をサッサと済ませろ」
「あっ、すみません」
ふかく頭をさげてあやまったが、ジェラルドが険しい顔をして、エトワールの肩をつかんだ。
「あやまる必要はない。オレも準備を手伝うよ。いこう」
「ジェラルド、いまの話をよく考えておけ」
「…………」
ジェラルドは険しい顔のまま、なにも答えなかった。
どんな会話をしていたのか気になっても、親子のことに口を出すのは気が引けて、エトワールはただ黙って準備をはじめる。
どことなく気まずい雰囲気の中、ジェラルドがやるせないようなため息をつく。
「こんなことになって、すまない」
「ジェラルドがあやまることなんてないわ。カルデニアが一緒だし、大丈夫よ」
ジェラルドの空色の瞳が雨にうたれた子犬のような、また悲しい目をしている。
笑顔で見送ってほしいエトワールは、カルデニアからもらったペンダントをジェラルドにみせた。
「カルデニアがお祝いにくれたのよ。ラメルのお守りだけど、ジェラルドの目と同じ、キレイな空の色。わたし、これがあれば大丈夫です」
「エトワール」
ジェラルドは息がつまるほどつよく、エトワールを抱きしめた。
「心配しないで、わたしは平気だから」
エトワールもギュッとジェラルドに抱きついた。でも……。
「はいはーい、ここはエトワールの荷物がいっぱいあるけど、自宅じゃないぞッ」
大きなカバンを抱えたカルデニアが、ふたりを引き裂くように間に割って入った。
「アタシは準備できたよ。エトワールとふたりで王都へいくなんて、ちょっとワクワクするね」
遠足を心待ちにした子供のように笑うけど、エトワールは笑えない。
邪魔をされたジェラルドが、不機嫌オーラを発している。
「カルデニアは気楽でいいよな」
「エトワールはアタシが守るから、ジェラルドは家に帰れ」
カルデニアは真っ赤な舌を「べぇ」と出して、からかうような口調で笑ったが、刹那、目の色をかえた。敵意をむき出しにして、ジェラルドに攻撃を仕掛ける。
カルデニアは足を高くあげると、鋭い蹴りを入れてきた。
「いッ」
ジェラルドでも、頭にくらわないように身をねじるのが精一杯で、右肩に激痛が走る。うまくよけたつもりでも、肩にあたっていた。
「こらッ、カルデニア。なにやってんだい」
フレムが慌ててカルデニアをとめたけど、ラスティは豪快に笑った。
「エトワールのことは、カルデニアにまかせておけって」
「……カルデニアは女でも、騎士になれるんじゃないか? いまの蹴りは、バケモノか」
「安心しろ。ラメルは争いを好まない。漁をして、のんびり暮らせればそれでいいんだよ」
太い腕をみせつけるように、ラスティは胸をはる。
並外れた身体能力と、強靭な肉体をもっているのに、ラメルの民はおだやかで、平和的な人が多い。
「アタシは一度、ジェラルドをたたきのめしたいんだけど」
よく陽に焼けた小麦色の脚で軽く空を蹴ると、つよいバネのようにヒュンっと音がなる。それだけでも、カルデニアのつよさがわかった。しかし、調子にのるカルデニアにラスティは苦言を呈する。
「やめとけ、カルデニア。俺の目からみても、剣をもったジェラルドにはかなわないよ」
「えー、武器なしなら勝てる?」
「それは、いい勝負になるかもな」
ジェラルドを焚きつけるかのようにニッと笑うと、ジェラルドはムッとした。
カルデニアもジェラルドも負けず嫌い。心配になったエトワールが、泣きそうな顔でオロオロすると、ふたりはいがみ合うのをやめた。
「一日でもはやく帰ってこれるように、オレもなんとかする」
やさしくエトワールの頬をなでると、軽くキスをした。
「ありがとう、ジェラルド」
このときはまだ、ジェラルドを信じて心のよりどころにしていた。
なにもかも吸いこんでしまいそうな、どこまでも青い空色の瞳を愛していた。
やわらかく温かい感情につつまれて、またすぐ会えると思っていた。




