表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の声 空の想い  作者: 江田 吏来
第1章 江藤 蓮夏は夢をみる
12/52

第6話 夢の世界の正体② 「夢の世界はエルネスト王国」

 バスをおりてすこし歩くと、個人宅とは思えない邸宅がみえた。

 西にかたむいた陽のひかりが、外壁を金色(こんじき)に染めるから、よりいっそう他を圧倒する豪勢な屋敷にみえる。

 その大きな屋敷の横には、(つた)が絡まったレンガ造りの建物あった。

「ここ、ここ」

 真鈴は、これまたりっぱなアーチを描く門をくぐり、なれた足取りでどんどん先へ進む。すると、入り口近くに『受付』と書いてある小窓がガラッと開いた。

「おや、その制服は城南高校の生徒さん? ここは五時までだから、あと三十分しかみられないよ」

 日焼けした血色の良いおばさんが、声をかけてきた。

「三十分でも大丈夫です」

 わたしは入場券を買うために窓口へ近づいたけど……。

 た、高い。

 小学生以下は無料。大人は一五〇〇円!? 学生割引はないの? 

 三人分だと四五〇〇円。毎月のお小遣いが五〇〇〇円だから……。

 帰りたくなった。

 窓口の前でかたまっていると、真鈴がポンッと肩をたたく。

「城南高校の学生はタダだから、はやく中に入ろう」

 ニッと口角をあげて、いたずらっぽく笑う真鈴。

「さ、最初から無料だって、知ってたの? 真鈴、だましたなぁー」

「蓮夏ちゃんの覚悟が知りたかったの」

「ひどーい」

 口では怒ってみせても、内心はほっとした。

 入り口の前で真鈴とじゃれ合っていると「時間がねぇから、はやく入れ」と、背中を押された。

 カルデニア、いや、一条君はすこし短気なところがある。

「あ、はい。すみません」

 ちょこんと頭をさげて、建物の中へ入った。

 赤絨毯が敷かれたうす暗い廊下が続く。邸宅があまりにも大きかったので、こちらの建物が小さくみえたけど、中はかなり広い。

「静かすぎて不気味だな」

 キョロキョロしながら話す、一条君の声がせまい廊下に響いた。

「この雰囲気が良いのよ。私は落ち着くけどなぁー」

 楽しそうな真鈴のあとに続いて、廊下を右に曲がると――。

 足がとまった。

 風なんか入ってこないはずなのに、しっとりとした潮風が肌にまとわりつく。夢でみた、あの港町にしかない独特の香りに、高鳴る心臓。これは、はじめて一条君に出会ったときと似ている。

 横目で一条君をみたけど、同じように立ちどまっている。

 真鈴だけがスタスタと歩き、ポンッと手をたたいた。

「あっ、ここのパンフレット、買うの忘れてたぁー。ごめん、ちょっと戻って買ってくる。先にみててぇー」

「え、あ、うん。わかった」

 ゆっくりと歩き出し、ガラスケースに近づいた。ケースの中には様々なものが飾られている。

 どこかでみたことがあるような、木の器。

 細かい細工が施された壺。

 ライトに照らされて輝く、黄金の剣や王冠。

 どれも、海底から拾いあげたものにはみえない。昨日までごく普通に使っていたような……、そんな気になる。

 わたしとは反対の方向に歩き出した一条君が、「……江藤、これ」と、ケースに手をついたまま、つぶやくような声を出した。

 人がいないので、ほんのちいさなささやきでもよく聞こえた。

 わたしは、一条君が見つめるケースをのぞいた。

「……これは」

 ジェラルドの瞳のような、青い空色の宝石を、麻糸でドレスアップしたペンダントが目に入る。すると、悲しくもないのに、瞳に涙がたまった。

「エトワールのペンダントだよな?」

「うん」

 エトワールが、カルデニアからもらったペンダント。

 ジェラルドと一緒になったお祝いに、もらった記憶がふとよみがえる。

 幼いころからみていた夢は、ただの夢じゃない。

 目の前には、なつかしい品々が展示されている。これはもう決定的な証拠になった。

 やはりあの夢は前世で、このペンダントを知っている一条君は、カルデニア。

 感動? 動揺? 興奮? 悲しみ? なんだかよくわからない感情が波のように押しよせ、混乱している。

 でも、一条君は冷静だった。 

「こっちには、石碑があるんだ」

 そういって、またスタスタと歩き出す。

 わたしはこぼれ落ちそうな涙をふいて、一条君のあとを追いかけた。

 所々にヒビが入り、砕けている場所もあるけど、両手でつかめそうな石碑。その前で立ちどまると、なにかに取りつかれたかのように、一条君はスラスラと刻まれた文字を読みだした。

「……赤い髪色をしたラメル族の願いが通じ、神々が降臨すると、すべての争いがこの世から消えた。金色の髪と金色の双眸をした神、エルネロスは、永劫の平和を見守るため、人間の姿となり、エルネスト王国を設立――」

 あまりにも淡々と語るので、「すごい、ここの文字が読めるの?」と心の底から驚いたのに、一条君はひどく呆れた顔をして、わたしを見おろす。

「読めるわけねぇーだろ。石碑の下に説明があるから、江藤も読んどけば?」

「あ、ホントだ」

 なんだかものすごく恥ずかしくなって、背中に汗がにじみ出る。

 顔が赤くなっていたらイヤだなぁと思ったけど、ライトアップされた展示品以外の場所はうす暗い。顔をかくすように、明るさからすこし離れて、説明文を読んだ。

『エルネスト王国は、自然ゆたかな山と海にかこまれた楽園。豊富な食料とつきることのない水のおかげで大きく発展する。しかし、疫病や内戦が起き、歴史からその名を消す。こちらにある数々の展示品は、(みなみ)氏のプロジェクトのひとつとして――』

「南氏って理事長のことかしら?」

「かもな。お、こっちにはエルネストの絵があるぞ」

【エルネスト王国 想像図】と記された絵。それはわたしの背丈よりも大きく、壮大な油絵だった。

 太陽のひかりがまばゆく輝く、エメラルドグリーンの海がいきいきと描かれ、三日月の形をした白い砂浜と、四角い白亜の壁がずらりと並ぶ町が続く。そして緑がゆたかな山のふもとのは、宮殿のようなりっぱな建物が並んでいる。

 夢でみた景色が、そのままの形で絵になっているので、ポカンと口を開けたまま、息がつけなくなるほど驚いた。

「夢とまったく一緒だね」

「ここの理事長も、オレたちと同じ記憶をもっているかもしれないな」

「そういえば真鈴、遅いなァ」

「ん? 羽野は、どこへいったんだ?」

「ここのパンフレットを買うって……。まだ戻ってこないの」

「んだよ、あと十分ぐらいしか時間ねぇーぞ。なにやってんだ?」

「さあ……。ちょっとみてくる」

 駆けだしたとき、また別の展示品が目に入った。

 透明感のある氷のような刃をした折れた(つるぎ)と、エルネストの海を思わせる綺麗な緑色の模様が入った(さや)。かなり壊れているけど――。

「ジェラルドの剣?」

 ガラスケースに張りつくと、信じられない説明文が添えられている。

【エルネストを滅亡に導いた剣】

 ウソ……だ。

 心臓がドクンと大きく跳ねる。

 ジェラルドは、国を守るために騎士団に入り……。

 ふと、うす暗い夜の海を思い出した。

「こんな国をつくるために、オレは命をかけているんじゃない」

 複雑な思いをエトワールにぶつける、ジェラルドの痛々しい姿。

 不安が、水紋のように胸の中にひろがった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ