第6話 夢の世界の正体① 「手掛かりを求めて」
あー、恥ずかしい。もー、照れくさい。
真鈴だけになら、ジェラルドのカッコよさ、すばらしさ、金色の前髪からチラッとみえる宝石のような青い目。休み時間だけじゃたりないぐらい、なんでも話せたよ。でも、そこに一条君が加わると……。
エトワールにはジェラルドという恋人? がいたということを、ざっくりとおおまかに説明した。
ふたりとも軽く聞き流してくれたからよかったけど、放課後、わたしと真鈴は駅前のアイスクリームショップに、いくことになる。
夢の話をまったく信じていなかった一条君が、あの目がくらむほどまぶしい白い町並みと、潮風の香りがする夢をみた。
ただの夢だと笑い飛ばせない色鮮やかな夢は、目が覚めてからも胸をドキドキさせる。わたしは慣れたけど、一条君はまだ戸惑っているようだった。
「たぶんだけど、姉貴の方がカルデニアに似てる気がするんだ。ちょっと確かめてくれよ。カルデニアはオレじゃなくて、姉貴かも」
その一言から、一条君のお姉さんがアルバイトをしているアイスクリームショップへ。当然、一条君もついてくると思ったのに、「あー、無理、無理」といって、ついてこない。お姉さんの愚痴をこぼすから、真鈴とふたりでいくことにした。
ショップのドアを開けると、アイスクリームの甘い香りがふわりと漂う。とても良い香りに、思わず大きく息を吸いこんだ。すると、キリッとした眉だけど、目が大きくて、やさしい感じがする店員さんの、はずむような明るい声が響く。
「いらっしゃいませー」
一目で一条君のお姉さんだとわかった。
真鈴も肘でわたしを突くと、とても小さな声で「一条が女装しているみたい」と笑った。あやうく大爆笑してしまうところだった。
真鈴はときどきユーモアのある毒を吐くのであぶない。でも、さすが一条君のお姉さん。さらにカルデニアと似ている気もするけど、なにかこう、グッとくるものがない。
魂に語りかけてくるような気配も、潮の香りも感じない。
わたしは、大好きなイチゴの香りがいっぱいのストロベリーアイス。真鈴は、地味な色だけど本格コーヒー味のモカアイスを注文して、店を出た。
アイスの香りを確かめてから、目を細めておいしそうに食べはじめた真鈴は、バスターミナルのベンチに座る一条君に大きく手をふる。すると一条君が駆けてきた。
「どうだった? 姉貴の方がカルデニアに似てるだろ?」
「んー、確かに似てるけど……。なんだろ、心に響かないっていうか、はじめて一条君をみたときとは違うかなぁ」
わたしの言葉にガクッとうなだれた。でも、まだ納得がいかないようで、今度は真鈴に質問をする。
「羽野はどう思った? オマエも関係者なんだろ?」
「関係者といわれても、わからないなァ。蓮夏ちゃんと違って夢もみないし」
「え? オマエ、江藤の母親だったんだろ?」
チラッとわたしをみるから、コクンとうなずいた。
「蓮夏ちゃんがよくいう、潮の香りと心にグッとくるなにか。それはすこしだけならわかるんだけど……。入試のとき、異常なぐらい蓮夏ちゃんのことが気になったからね」
真鈴は、わたしの頬についたストロベリーアイスを人差し指でぬぐうと、ペロリと食べた。
忘れ物がないか気にしてくれたり、髪がはねていたらなおしてくれたり、気がついているのかどうかわからないけど、真鈴はわたしの保護者のような振る舞いをすることがある。夢をみなくても、なにかしらの影響が出ている気がする。
「やっぱりカルデニアは一条で決まりね。あ、そうだッ! 城南高校の理事長が考古学者だって知ってる?」
「知らない」
「深海でみつけた古代の宝がどうとか、新聞で読んだ記憶があるぞ」
「一条が新聞、読むの?」
「は? オマエ、イラッとさせるのうまいよな」
いがみあう真鈴と一条君。このままケンカになったら、ヘンな夢の話を持ち出したわたしにも火の粉がふってくる。そういうややこしいことは極力避けたい。
「まぁ、まぁ。で、その理事長がどうしたの?」
ふたりの間に割って入り、話しをもとに戻した。
「理事長が集めたコレクションを展示してる場所があるの。ふるい剣とか装飾品とか。それをみたとき、なんだろ。ものすごく衝撃を受けたの」
「衝撃って、心にグッと迫ってくるような?」
ストロベリーアイスを食べ終わったわたしは、制服についたコーンのくずを払いのけながらたずねると、真鈴は大きくうなずいた。
「そう、ソレ。そんな感じ。展示品たちが心に語りかけてくるような、ヘンな感覚がしたんだよねぇ。で、そこの展示品に、『ジェラルド』って名前を、みたような気がするの」
「へぇー、なんか面白そうだな。……江藤、今日ヒマ?」
「えっ? いまからいくの?」
「気になるからな。羽野、場所案内できるよな」
「できるけど……入場料が高いよー。一条もちなら、案内してあげてもいいけど?」
「は?」
「だって、私たち食べたくもないアイスを買って、食べてるんだよ。一条が一緒に来れば、アイスを買わなくても一条のお姉ちゃんに会えたよね?」
モカアイスを振りかざしながら、一条君につめよる真鈴。
「……家の外で、姉貴には会いたくねぇーし」
「なにそれ。どうせ、からかわれるのが嫌だったんでしょ? くっだらない」
「あー、じゃぁ、もう行くのやめる。悪かったなヘンなことに付きあわせて」
「ちょっと待ってよ。一条君」
面倒くさそうに手をふりあげて、帰ろうとした一条君を引きとめた。
「なに?」
「え……、えっとね」
わたしには兄弟がいないからよくわからないけど、異性をつれて姉に会いにいくのは、恥ずかしかったのかな。入学式では新入生代表として堂々としていたのに、意外とシャイなところがあって、面白い。でも、夢の世界の話は、わたしが勝手に持ち出したことだから、あまり困らせるのもなんだか悪い気がしていた。
「わ、わたしが言い出しっぺだから、入場料はわたしが出すよ」
「えっ、いいの? 蓮華ちゃん」
「悪いなァー。江藤、ありがとな」
あ、だれも遠慮しないのね。
顔がちょこっと引きつったかもしれないけど、わたしたちはバスに乗る。真鈴のいう、理事長の展示品をみにいくことにした。ジェラルドの手掛かりがあるなら、一秒でもはやく知りたい。
バスの中では真鈴も一条君も、今日の授業で出された課題に取り掛かっていたけど、わたしはずっと外の景色をみていた。
すっかり花びらを落とした、桜の木が流れていく。初々しい春の終わりをつげるような景色に、またすこし不安になる。
夢の世界には興味があるけど、このまま突き進むのはどこか怖い。
この怖さはなんだろう?
ジェラルドの会ってみたいくせに、決して足を踏みいれてはいけない場所に、足を踏みいれている気がする。
ジェラルドのことを知りたい気持ちと、よくわからない恐怖心がわたしの中で戦っていた。




