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剣と閃の虚偽剣(バルムンク)  作者: Fran
第1巻 紅い悪魔
8/8

第八話 始まりを告げる剣

<9>

あの事件から、ニ日が経過した。

俺はこの二日間、目を覚まさなかった。しかしあの日のことは、鮮明に覚えている。

気付けば、俺は学園の保健室にいた。壊れた学園はたった二日で修復が完了したそうだ。

その理由は、言うまでもないだろう。かつて『魔神』と謳われたシュティス・オーリディアの手によって、修復されたのだ。異次元の『時元魔法』で。

横に振り替えると、ベットにもたれかかっているのは、『剣神祭』に出るとまだ答えを出せておらず、かつあの事件に一緒に立ち向かった戦友のスフィア・アルテミスの姿があった。スフィアは看病をしてくれていたのか、熟睡していた。

あの事件を解決してくれたのは、もはやスフィアのおかげであるだろう。ただ俺は、自分過去に引きずられ、戦意喪失していた。それを救ってくれたのはスフィアである。

俺はその救いを無駄にしたくない。俺が役に立てるのなら。

そんな思いを抱きながら、熟睡しているスフィアの身体に毛布を掛け、保健室を後にした。


***


「ゼクス君!もういいの、寝てなくて」

廊下を出てすぐに見かけたのは、出会いがしら嘘を吹いて逃げてしまった中学の同級生であり、今では同じクラスの委員長、レヴィ・シャルルであった。

「ああ、大丈夫だ。レヴィの方こそ休まなくていいのか」

「私の方は大丈夫。言って手が痺れただけだから、軽傷で済んだよ」

俺の家に居候しているウリエル・アッシュ―ドと共に二日前の事件に立ち向かった。

彼女はきっと、自分のためではなく、俺自身のためであろう。

そういうと思い、俺はレヴィと共に行動する事を決めた。

「あれだ、校舎どうなっているのか確かめたいから、一緒に回らないか」

「えっ、わ、わわわ私と!?」

突然の出来事に、レヴィは驚きを隠していなかった。

「なんか、困ることがあったかな・・・」

「う、ううん、そんなことないよぜひ一緒に回ろう!」

レヴィは何かに頬を赤く染めながら、校舎の見回りを開始した。

授業は今日はやっていないらしい。二日前にあんな大規模な事件が起こったのだから一週間以上は学園に警察が投入されているはずだ。シュティスもそれを気にしているのであろう。

「なんだか、不思議な感じがする」

「え?」

クスッ、とレヴィは微笑み、俺の顔をまじまじと眺める。

「だって、こんな近くにゼクス君がいる。中学の頃だと考えられないんだもん」

「そういえば・・・そうだな」

そう、レヴィとはこうした話を一度も交わしたことがなかった。

『何されるかわからないから、離れていた方がいい』

『悪魔だろ、絶対に不幸になる。話さない方が身のためだろう』

なんてことが中学の頃にあったのだ。普通の人間を生きている上で。

「本当に、お前あの時後悔しなかったのか」

もう一度あの時の問いをレヴィに告げる。レヴィは表情は変わらず、ニコニコしている。

「何度も言ってる。私は『後悔』なんてしてない。むしろ君を知らんぷりしてる方がよっぽど『後悔』してた筈。だから、ね?」

レヴィは空を見上げる。空気を吸い、吐く。

「私は、君があんな運命を背負わされてたとしても、君は一歩も退かなかった。それってすごいことだと私は思うよ。他の人間がすごく『憐れ』だと感じた。だから君を救おう、って考えたの」

空を見上げていたレヴィは再び俺の顔を見る。さっきとはまた別の、真剣なまなざしで。

「だから仲良くしてくれると、嬉しいな。私は多分、それだけで救われるよ」

いつかきっと。彼女の暗闇を晴らしてあげたい。彼女は『救い』を求めているんだろう。

だから、俺自身が強くならなければ。『紅聖』の力をうまく使いこなし、助ける。

少し悲しげな表情をしたレヴィの顔を見て、そう誓った。

「わかった。・・・これからよろしく、レヴィ」

「ええ、こちらこそ。・・・やっと出会えたね」

お互いの手を握り合った。これは新たな『誓いの日』となるであろう。

「再会を果たしたのはいいことだが、こんな日の当たる場所でこの状況を作り出すとはな」

急に声をかけてきたのは、『魔神』と謳われているシュティスであった。

「うおっ、びっくりした。学園長か」

ゼクスは気配に反応できず、少し後退した。

「学園長、警察の対応の方はいいんですか?」

「ああ、本当に疲れるよ警察の対応は。こっちも別の会議の予定があって時間も押してるというのに、メディアから何からくるもんでな」

「大変ですね・・・」

レヴィのポケットから着信音が鳴る。ポケットから取り出し、通話を始める。

「もしもし?・・・はい、はい、分かりました、すぐに行きます」

通話を終了し、ゼクスに告げる。

「ごめん、これから用事ができちゃった。また今度一緒に回ろ!」

そう言って、レヴィはゼクスの場所を後にした。

「・・・で、学園長あなた用事があるんじゃなかったんですか」

「はは、そうだったね。・・・まあまだ時間に余裕はあるし、話でもしようではないか」



***


「君だけに先に伝えておこうと思ってな。来週当たりから登校開始にする予定にしている」

「俺だけに先言っていいんですか?」

シュティスははっ、と笑いゼクスを見つめる。

「君はこの学園を救ってくれた『借り』がある。それのお返しだと思ってくれいいよ」

シュティスは、あの事件の時学園不在だった。

軍法会議に参加しており、学園が襲われていると聞いたのは、軍法会議の途中で知ったそうだ。

「私にはあの時、君たちを助けに行けなかった。会議を抜けるわけにもいかなかったからね」

「・・・」

ゼクスはシュティスの手を取り、握った。

「学園長は、悪くありません。俺たちのために、軍法会議に参加していたんでしょう?」

「あれは・・・まあ、学園の存亡にも関わることだからな」

俺は、学園長が全員の生徒の命を守るために、軍法会議に出席していた事は分かっていた。

一人も犠牲を出さないように。たとえ自分が死んだとしても、生徒たちが無事であれば、それでいいと。

「学園長がそこまで気にする事はありませんよ。彼ら・・・アルディスの生徒は強い。どんな強敵が来ようとも、彼らは決して諦めた顔をしていなかった」

「・・・なるほど。君は本当に優しい子だな」

シュティスはそっとゼクスの手を振りほどき、そっとゼクスの頭を撫でた。

「ちょっ・・・何するんですか、学園長」

「いいじゃないか、ちょっとでも。君の養分を取り込んでおきたい」

「よ、養分!?」

撫でたその数分後、ギュッとシュティスの大きい胸の中に、俺の頭が埋まった。

「んぐぐぐっ!」

「・・・辛かったね、ゼクス君。もう独りには絶対にしないから。・・・ごめんね」

ぐっと力が入る。これまでにないくらい、俺の息は荒くなってきた。

シュティスは二度と、同じ運命には辿らせまいと、そう誓い胸に抱いていた。

「が、学園長・・・苦しい」

「あっ」

胸にうずくまっていた顔がついに外に抜け出だした。ブハァ、っと大きな吐き出しと同時に大きく深呼吸する。

「すまんな。ついつい君を抱きしめたくなってしまった」

「子供じゃないんですから。・・・迎え来てますよ」

校舎の入り口、校門前に大きな黒の車が停まっていた。その隣には、カトルさんが立っていた。

「学園長。例の『頂上機関』がお話があるそうで。会館まで来てくれとのことです」

「・・・まったく、あんな爺どものお遊びに付き合え切れないというのに」

シュティスはハァ、とため息はしてはいるが、目がギラギラと銀色の眼が光っていた。

フワッ、と長い銀色の髪が風に靡かれ、シュティスは校門前の場所まで歩き出す。

「ゼクス君、君はこれからもこの学園で精進したまえ。なるべくサポートも入れられるようにはする」

「・・・ありがとうございます、学園長」

そう言って、シュティスは車の中に入っていった。

「ゼクス君。『剣神祭』に関しての情報が、『頂上機関』内で決まるかもしれない。何かわかったら連絡する」

カトルさんもそう言い残して、車の中に入り、車はエンジンをかけ、出発した。



***


俺は、壊れてた箇所をグルグルと回っていた。

全て完璧に直されていた。初めにシュティスと戦った、あの闘技場も。

その刹那。

上空から雷神の槍が降り注ぐ。

俺は『禁忌解放』ですべてを見極め、避ける。

「さすが、というべきか。ほんと、お前も変わんないなぁ」

「ウリエルか・・・なんだよ急に」

上空から現れたのは、ウリエルだった。そして。

「おぬしはわしの言うことを利かんというのだな・・・ゼクス?」

カツカツと下駄の音。暗闇から現れたのは、俺の爺ちゃんガイス・シューベルトの姿だった。

「・・・!爺ちゃん」

「おぬしはわしが『剣』を禁ずるというた筈を、簡単に破り去った。・・・覚悟はできおるだろうな?」

みるみると、爺ちゃんの闘気が上昇していく。地面が少しづつヒビが入る。

「爺ちゃん。俺は、俺のために戦ってくれる人たちを、そして人々を守るために『剣』を取るよ。そして、『剣神祭』にも出る」

「なに・・・」

闘気の上昇は止まらない。ウリエルも、上空から様子をうかかがっていた。

「・・・何のために『剣』を取るのか、理解をしたようだな、ゼクス?」

「うん、俺はもう二度とあんな過ちを犯したりしない。今を生きる人たちを護るのが、俺の役目なんだ」

爺ちゃんの闘気が収まった。そして、高笑いを始めた。

「ど、どうしたんだ爺ちゃん」

「フフ・・・あの時は目を真っ赤にしておったお前が、よもやこんなに成長するとはのう」

爺ちゃんは、袖から巻き物を取り出し、ゼクスに渡す。

「これは?」

「シューベルト家に伝わる、能力増強ノ書じゃ。習得すると『禁忌解放』で増幅せずとも

能力上昇が可能になる」

「それってまさか、アルディスの上級ランクが使っているあれ?」

「あながち間違ってはおらんが、あれとは別じゃ。『禁忌解放』は、自己の命を負担に、能力上昇を行う技術じゃ。じゃが、この中に記されておる『生命本能』は自己の眠る潜在能力を解き放つ作法で、自己の負担にはならん」

人間には自分では分からない能力も存在する。それこそが、潜在能力。

人の脳は約一パーセントの能力しか使用しておらず、そのうち九十九パーセントが使用されていない力と化科学的にも判明されている。

そして人は危機に陥ったときに、その九十九パーセントの能力を発揮するとまでも最近でわかった。

『生命本能』。その潜在能力九十九パーセントを最大限に生かす、シューベルト家最大の闘技。アルディス学園の上位に立つ人間たちが扱う『剛撃』『神速』『金剛』と同等の能力が発動することが可能になる。

その説明は、また別の機会にて。

「『剣神祭』に出るとなると、その力は必要になってくるじゃろう。ゼクス、今やってみせい」

「えっ、今から?」

すると、ウリエルが上空から降りてきた。

「爺さん、相手はあたしでもいいかい?」

「嬢ちゃんは・・・フフ、なるほどのぅ」

爺ちゃんは何かを察したかのように、数メートル離れた。

「ゼクスよ。お前が『剣神祭』に出るというのなら、『生命本能』解き放って見せよ!」

「・・・ああ」

ゼクスは巻物の中身を一瞬で見通し、巻物をしまう。

目を閉じ、精神統一。

自分の奥深くに眠る、潜在能力を叩き起こす。

イメージは、深く自分の中に潜り込むこと。

海の中の静かな、そして無音を。

目を開けるときは、海の中から一気に出てくるように。

そして。

「・・・フフ、やりおったか」

ゼクスの全身から、鋭く、そして柔らかに波動を解き放つ。

銀色の波動と共に、熱く流れる紅い闘志。

髪は紅と銀を纏い、全身からあふれんばかりの熱気が燈る。

「『生命本能』解放」

「あひぁ。こりゃあたしでも無理だわ、降参、降参」

ウリエルはリミッター自体をゼクスが解放した時に分かった。

『これは、人の領域を超えている』ということを。

「ゼクスよ、これで習得は終わりじゃが、『生命本能』を解放するときは十分注意せい」

「というと?」

「さっきも言うたとおり、自己能力増強の『魔力』を使用しておる。命に負担はかからんが、多様に使ってしまうと『魔力欠乏症』になりかねん。と、使い始めは特に体もじゃ。慣れない能力で大きく損傷する場合もあるので、十分理解したうえで行うことじゃ」

「解った」

ゼクスは力を穏やかに元に戻す。再び紅く染まる髪色に直った。

「というか、このことわかって爺ちゃん、ウリエルと一緒に来てたのか?」

「ほっほっ、バレておったか。流石はわしの孫よ」

なんとなくだったので確証はなかったのだが、ウリエルと爺ちゃんが知り合いみたいだったのだ。

「ウリエル、爺ちゃんとは知り合いだったりするのか?」

「うーん、知り合いというか、なんというか。お母さんなら知ってるかも」

「ガブリエルか?ほっほっ、元気にしておるか」

やっぱり知っていた。聞いた話だが、ガブリエルはウリエルの母親だという。

それ以上のことは、ウリエルからの口から聞いてない。

「うん、まあ」

「そうか、そうか。まあ、おぬしも事情を抱えておるようじゃから何も言わぬよ」

笑いながらそう言ったが、何か事情を隠しているというのは、俺にしかわからないはずが爺ちゃんには簡単に看破された。

ウリエルは俺の方に近づき、耳元で囁く。

「おい、あの爺何も私事情も言ってないのに、わかった感じなんだが・・・」

俺の爺ちゃん、ガイス・シューベルトは、マキス・シューベルトの実の後継者で、『紅い悪魔』とは呼ばれた時期もあったが、それおも次元を越え、『極めし者』として称えられているそうだ。戦闘でも剣闘でも、右に出る者はいない。

そんな爺ちゃんが得意とするものがある。それは『心情』。

心を読むという、常識では考えられない効果で、深く刻まれた悲しみなども判ってしまう、恐ろしい能力だ。

俺は、それをウリエルに伝えた。

「あの爺、こっち側なのか?それとも・・・」

「とにかく、すごい人なんだよ。『剣』を教えてくれたのは、じいちゃんだからね」

ウリエルが考え込むなど、珍しかった。だが、あまり考えさせると脳が爆発してプスプスと混乱する覚えが俺にはあったので、話をはぐらかした。

「では、ゼクスよ儂はこれで帰るぞい」

「えっ、もう帰るの、爺ちゃん」

用はこれだけなのか、と思う俺だったが、何かを爺ちゃんは言いたげだった。

「・・・ゼクスよ、『剣神祭』はおぬしが思っている以上に強い。『剣神』の称号を賭して命ある限り戦う。それはもう『死闘』じゃ。それでもお主は参加するというのだな?」

「ああ、それにスフィアと約束したしな」

俺は覚悟はできていた。この命を、スフィアに救ってもらった今を、使わなくて恩を返せるか。そうはできないと、俺は頭の中で考えていたのだった。

「そうか、わかった。では『剣の頂』にて、儂は待っておるぞ、ゼクス」

「うん、待っててくれ爺ちゃん。必ず行くから」

俺は剣神祭の覚悟を再認識し、改めて決意したのだった。



***


帰り道。ウリエルはうーん、としかめっ面で何かを思ってた。

「それにしてもお前の爺さんほんとすげーな」

「まあね、俺なんて手の届き用のないところにいるけど」

俺は手を握りしめ、自分の作った拳を見つめる。

「俺はいつか爺ちゃんを超える。その日まで俺は強く成り続けなきゃな」

「ゼクスがそんなこと言うとはねぇ・・・まあ、あの子に影響されていいきっかけ、できたんじゃない?」

「そうだな。スフィアに感謝しなきゃ、だな」

俺は赤色に染まる空を見上げていた。この先、スフィアとどう向き合っていくか。そして『剣神祭』の戦いに必要なのはなんだろうと。

あんな事件があってはならないように、自分も強くならないと、そう思っていた。

そんな思い更けていたところに。

「ゼ、ゼクス君!」

「ん?」

振り向くと、息を切らして竦んでいた、緑色の髪の少女。透き通ったエメラルドの髪の色とよく似合う緑の目は、まさに『閃姫』そのもの。

「な、なんで保健室抜け出してるのよ・・・」

「い、いやあ。ごめん。ごめん」

そういえばあの部屋に毛布を掛けたままだった。それに気づいた彼女は探し回ったのだろう。俺は両手を合わせぺこぺこと謝る。

「もう、本当に。・・・ケガは大丈夫なの?」

「おう、この通りさ」

心配させないよう、元気に俺は振る舞う。だが彼女には完全に見透かされているようであった。

「・・・嘘」

「え・・・」

またもや俺にとって予想外な行動を、彼女はとる。それは、誰にでもあるスキンシップの『抱く』の行動だが、彼女はぎゅっ、と俺を抱きしめる。

それは、「想い」のある『抱き』であった。彼女は今にも泣きそうな顔でいた。

「本当に大丈夫。スフィアは俺の命の恩人だしな」

「・・・もう」

半分泣いてはいたが、スフィアは涙を拭きとる。そしてにっこりと笑った。

「・・・で、どうしてここに?」

「うん、ゼクス君にいろいろと剣神祭に出る理由をちゃんと伝えておきたくて」

そういえば、俺はスフィアが出る理由をきちんと聞いてはいなかった。俺は付近にあるベンチにスフィアと一緒に座る。

「それで理由ってなんだ?」

「うん、それは・・・」

スフィアは『剣神祭』に出る理由について語った。父と母の事、スフィアの祖父のこと、『紅剣ヴァルキリー』について、そしていつか脅威になるであろう、『ディアボロス』に関する情報。スフィアが知る全てを、俺に教えてくれた。

「・・・なるほど、よくわかった。じゃあ俺も教える、『シューベルトの呪い』の事を」

俺は『紅い悪魔』についてのこと、『紅聖』の力がどのようなことなのかを教えた。

過去の事もいろいろと話し、理解を深めてもらった。その時、レヴィにも助力してもらっていたことも。

「・・・ふふっ」

「ど、どうしたんだよ急に」

俺にとって笑う所は一切なかったはずだ。なぜかスフィアは微笑えんでいる。

「ご、ごめんなさい。ついつい嬉しくて。最初はこんな風に喋れるなんて、思ってもいなったから」

そうだ。スフィアとの出会いは非常に悪いところからだった。『禁忌解放』で地獄に送った奴もいた。そんなこともあったな、と俺は少し懐かしむ。

「・・・確かにそうだな。スフィアは少しおっちょこちょいな所もあるし」

「も、もう、揶揄わないでよ!」

ははは、と俺は大笑いした。むすっ、とスフィアはしてはいたが、やっぱり笑っていた。

「そういえば、来月に実習があるんだけど聞いてる?」

「実習か・・・話は聞いてたけど何か進捗があったのか?」

アルディスでは実習や訓練など様々な行事が行われている。その中でも実習はかなり難易度が高いそうだ。

「ほかの生徒は『神霊』やら『神剣』やらで浮かれているけれど、私たちはそうでもないからね。『虚偽剣』なんて『神霊』なんか宿してないんでしょ?」

「まあ、確かにその通りだな。『虚偽剣』を作った人にも会いたい、ってのもあるけど自分の能力もあげなきゃな」

俺がそう言うと、スフィアは少し困り顔で告白した。

「次ね・・・『京都』なの実習先が」

「『京都』か・・・」

二ホンオルクディスア大陸に代わって二ホンは衰退の一途だ。移住し二ホンは元の自然な状態へと変貌している、という噂を前から聞いてはいたが。

「名残はあったりするんだろ?文化のモノとか」

「あるとは思うけど・・・行ってみないと分からないし」

「そっか・・・観光も一緒にしたかったなぁ・・・」

俺は少し悲しくなる。あまり二ホンに行く機会がなかったといいこともあったからだ。

「まあまあ。でも少しは時間取ってはくれと思うよ、きっと」

「そうだといいけどな・・・」

昔、父さんに京都の話を聞いたことがあった。

町並みはとっとも綺麗で、趣があっていいと。

俺は個人的にも京都にはいきたかった。

だからこそ。俺は強くなって、調査をやりたい。

「私もあの事件から何個か技を考えたから練習もしておきたいなぁ・・・」

「俺もだ、爺ちゃんに教わった技もあるし」

ならば、答えは一つ。『京都』に行き、実習で経験を積み、『剣神祭』の糧とする。

それと新たに教わった『生命本能』の練習も兼ねて。

「よし、そうと決まればそれまでにある程度練習しておかなくちゃな!」

「それはいいけど、いったい何するの?」

にしし、と俺はニヤッとする。

「スフィア、稽古付き合ってくれよ」

「え、でも君『剣』は使えないんじゃ・・・」

「大丈夫、ついさっき『解禁』許可降りたから」

「えっ、お祖父さんから?」

そういえば言ってなかった気がする。まあこの辺も後から説明しよう。

「『暁の力』モノしたんだろ、練習しようぜ、一緒に」

「うん、そうだね。私たち『仲間』だもんね!」

「じゃあ、早速学園長に闘技場か練武室仮に申請出しに行こう!」

振り返ると、そこには学園長を除く、俺の知る人たちが集まっていた。

「私も、一緒に・・・練習してもいいですか?」

少し恥じらいながらでも勇気をもって告白したレヴィの姿と。

「おいおい、私を放置する気か、飯食わせろゼクス!」

なんだかんだ言いながら世話焼きのウリエルの姿があった。

俺は幸せ者だ。こんなにも素晴らしい仲間たちがいる。

何を戸惑っていたんだ、俺は。

人を気にしすぎていて、心配してくれていた人がいて。

話さずともわかって空気を読んでくれていた人がいて。

そして。

「ゼクス君、みんなで一緒に練習しよう!」

恩人がいる。これほど恵まれる奴がいるものか。

「よし!じゃあみんなで京都実習に向けて鍛錬だ!」

「おーっ!」

茜色に染まる夕日を一緒に見ながら、校舎の方に向かっていった。


***


「学園長」

カトルがシュティスに話しかける。

「ん?」

「いいんですか、彼を『剣神祭」に参加など」

「ああ、彼なら問題ないよ」

シュティスは微笑んでいた。

「今後、『頂上機関』がどういう手で出てくるのか分からないし」

「そう、ですか」

カトルは、ゼクスの事情をシュティス自ら話した。驚く話が幾つもありすぎてついていけていない感じではあったが、それでも理解はしていた。

「私が助けられない時、カトル。君に任せるぞ」

「私が、ですか」

カトルは少し考える。カトルにとって大事な生徒だ。大事な寮の子でもあるのだ。

「・・・分かりました」

運転するカトルは、少し別のことを思っていた。

「後、例の実習ですが・・・」

「ああ、彼らにとってきっといい経験になるだろう」

シュティスは、京都のパンフレットを開き、眺める。その中に、『危険区域』と書かれていた範囲が記載されていた。

「まあ生徒たちにはきっと嫌われるだろうね、未知の世界に放り込まれるから」

「あそこは無人島とほぼ変わりませんからね・・・」

安息の地とも呼ばれていた二ホン。今では魔獣が巣くう地へと変貌している。

それを次の実習で行うというわけだ。

「今のうちに『休んで』おかなければ、あそこに行くと休む暇がないからな」

「・・・」

「下手打ちすれば、死人も出るな」

カトルはシュティスにいろいろと投げ込まれすぎて、ストレスを感じていた。

「まあ、それはいいとして、学園長。私の寮には来ないように」

「ええ?いいじゃん、遊びに行ったってさー」

「ぶち殺しますよ」

運転しているところから、殺気しか飛んでこなかった。びくびくしながらシュティスは答える。

「ま、まあまあ。また今度、お茶でもしようよ」

はあ、と深いため息をつきながら。

「わかりました、奢りで」

ガクッと、シュティスは俯いた。

「またお金が無くなるぅ・・・」

「ちゃんと仕事してください、給料出るんですから」

黒の車は、『頂上機関』と呼ばれる最高権限決定機関に到着した。

頂上機関はすべてに対しての決定が下され、これを無視、あるいは規則に反すると地獄の牢獄と言われる『アレストレルプリズン』と呼ばれる場所に投獄される、という噂がある。

「さてと・・・くそ爺共、何て言ってくるか」

「余計なことを言わないで、行きますよ」

シュティスはビルを見つめる。この会談で決着がつくかもしれない。

「みんなを守るために、か」

シュティスは手を開き、見つめる。

カトルは心配そうに、シュティスを見ていた。

「私は、守れるだろうか。生徒たちを」

「アーサーの意志に背かぬように頑張るまでですよ」

「聖王か、懐かしい」

ぎゅっと握りしめ、覚悟をシュティスは決める。

「さあ、行きますよ、戦場に」

カトルとシュティスは『頂上機関』のビルへと入っていった。


<10>


これから何が起こるのか、一切の未来が分からない世界。理不尽に、不条理に生かされる人間はこれからも抗い続ける。それが人間の性であり、運命なのだろう。

人には過酷な宿命を課せられる人間もいる。生きる上で『何か』の錠に繋げられ、それを引きずって生きる人間もいる。軽蔑や差別を受け、人権の侵害を受ける人間もまた叱り。

だが、それでいいのか?

受けるだけで、錠に繋げられて、過酷な宿命に生かされるだけでいいのか?

否。それは絶対に『間違い』だ。

心は常に磨かなければならない。『剣』ように。たとえ自分にいいところが無いと思っていても、それは必ず誰かが『答え』を持っている。

怯えずに、進むのだ。それがきっと自分の新たな『可能性』になる。

待っていても、誰も自分の『答え』を答えはしない。自ら行動するのだ。

「私は、どんな人間なのか?」と。

其れが『全て』が答えではない。要は『助言』だ。最終の答えは君の心の中にある。それが答えられる事ができるのなら―――、きっと君は新たな自分に変わっているだろう。

私が残したいのは――――。

『剣』は「護る」もの、『剣』は「暴力」ではない。「夢」を『剣』に、「希望」を『剣』に。「世界」を変える一つの『剣』は「偽物」から「本物」に変える。その『剣』は『絶望」を打ち砕く。

君たちにとって『剣』とはな何なのか?人を笑顔にする『剣』か?人を困らせる『剣』か?

ぜひ一度、考えて欲しい。人を虐める『剣』なのか?それを救う『剣』か?

新しい時代を迎える貴方たちはどんな『剣』なのか、楽しみにしている。

きっとこれこそが、彼も伝えたかった言葉なのだろう。

私は、貴方たちの生きる『剣』を期待している。


辛くても、立ち上がれ。きっとそれが君の大きな『剣』だ。

                                  

               <完>

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