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剣と閃の虚偽剣(バルムンク)  作者: Fran
第1巻 紅い悪魔
7/8

第七話 動き出す歯車

<8>

「・・・い、・・・ィア、しっかりしろ、スフィア!」

焦りを見せてスフィアを心配していたのは、ゼクスだった。

「・・・ん」

意識が戻り、起き上がるスフィア。さっきいた場所とは違う所にいたので、スフィアは辺りを見渡し、確認する。

「ここは、保健室・・?」

「ふう・・・マジでよかった・・・」

ゼクスは一息をつき、近くにあった椅子に深く座る。

「ゼクス君・・・状況は?」

「まあ、最悪な状況だよ、生徒たちが外で対抗してる。とは言っても新入生の俺らしか戦ってないんだけどな」

保健室の周りはかなり壊れており、崩壊寸前だった。スフィアは絶句する。

「いやー、まさか校舎まで完全に別離されてるとは思ってもなかった。連絡もつかねーし。何の役にも立たないな、クラス分けってよ」

「・・・そんな」

そこまで予習ができていなかった。そしてガーディアン学園との闘いは。

「今どうなっているの!?教えて、ゼクス君!」

ベットから身を乗り出し、ゼクスの顔まで近づく。ゼクスは急に寄られて驚きを隠せない。

「ちょ、近いって」

「あっ・・・ごめんなさい」

スフィアもつい無意識に乗り出してしまった。そのままベットまで戻り、スフィアは頬を赤く染まらせる。

「・・・」

「・・・」

一時的に二人は時間停止していた。ゼクスは、これではいかんと思い、ゼクスから発言を開始する。

「そ、そういえば俺の家の自宅警備員が来てくれるって話だから、問題ないと思うぜ」

「自宅警備員?」

スフィアはゼクスの家柄だったりは知らなかった。もしかしていいところのお坊ちゃま・・・?だったり思った。

「あ、別にお金持ちとかそういうもんじゃないけどな」

「えぇ・・」

スフィアは思っていることが予想外でがっかりだった。それはそれで別にいいのだが。

「それで、その自宅警備員という人は、いったいどんな人なの?」

「うーん、俺もあんまり聞いてはないけど、『熾天使』?なんて昔呼ばれてたらしいな」

「し、熾天使!?」

驚きをスフィアは隠せない。なにせ熾天使の称号をもらうということは、天界の人間に違いない。相当のレベルの高い自宅警備員だ。

「今はそうでもない、とか抜かしてるけど神気は上々に保ってるようだけどな」

「どうしてそんな人と一緒に住んでるんですか!?というか男性と女性の寮は別で禁止なんでは!?」

「あ、そういえば言ってはいけないことだったわ、ははは、悪い悪い、今の忘れてくれ」

「忘れられないでしょうが!?」

ボケを対応するスフィア。さすがのスフィアも疲れる。

「さてと・・・、そろそろあいつら止めに行くか」

「でも君は、『剣』をもってないんじゃ・・・」

どっこいしょ、とゼクスは重い腰を椅子から上げる。スフィアはベットからスフィアを見上げる。

「まあ、何とかなるだろ。『紅聖』の力が不完全でも、あいつらを撃退できるくらいはできるはずだ」

「・・・」

スフィアはガーディアン学園の生徒に遅れを取ってしまった。それだけでも失敗であるはずなのに。ゼクスは諦めていない。むしろ笑っていた。

「お前はここでいろ。治癒魔法をかけてはくれているが無理したら解毒できないとか先生言っていたし。後は任せろ」

「ゼクス君・・・」

それと同時に壊れかけている保健室のドアからバン、とビラを開ける音がした。そのドアはすぐに取れて壊れた。

「おーい、来てやったぞ」

金色の髪のミディアムヘアーの少女は紅い刀のようなものをもって現れる。

「ウリエル、それは?」

「ああ、これか。学園長の知り合いがなんか鍛冶屋やってるらしくてな。なんかゼクス君に渡しておいてほしい、とか言ってたから持ってきた」

差し出された刀は正に炎の如く紅々しい。刀身は鋭く、細長い。

「これって・・・紅剣ヴァルキリーに似てないか」

「模したそうだそうだ。まあ名前を付けるとしたら・・・『虚偽剣バルムンク』」

「なんで虚偽剣なんだよ・・・」

「まあ、偽物なんだろうその武器は。『神霊』も宿ることのない剣だから『虚ロナ偽ノ剣』で『虚偽剣』なんだろうな」

「おまえが命名したんだろうが!」

文句を言いながらもゼクスは紅い剣を自分の手に取る。剣はしっくりと馴染むように、扱いやすい。軽く剣を振ったゼクスはその剣を鞘に収め、肩にかける。

「・・・スフィアも休んでいけそうなら応援に来てくれ。じゃ、行ってくる」

「ま、待ってゼクス君!」

スフィアは必死にゼクスの裾を掴む。スフィアは涙を拭うようにこう言った。

「・・・無理しないでね」

何かを言いたそうにしていたが、スフィアは口をつむった。ゼクスはこの事件を解決したら聞いてみようと心に留め、保健室を後にした。その後にウリエルがスフィアに話しかける。

「アンタがゼクスのお友達、ってやつ?」

「えっと・・・そうなりますね」

ウリエルはスフィアの顔をよく見つめて、ニッ、と笑った。

「ふんふん・・・まああいつには勿体ないくらいだなぁ。本当アイツ持ってるな」

「な、何をですか?」

「運、とでも言っておこうかな。それに・・・あなたのお爺さんの話聞いた。王都は変異してるらしい。その辺はまた今度話するとして・・・貴方の願い、叶うといいね」

「・・・」

スフィアは涙が出そうになった。

ルディスの悲願を果たすために、様々なことをこなしてきた。人気にもなったりもした。みんなに注目してくれる程の強さを得た。ルックスも完璧だ。でもその中には『寂しさ』感じた。その寂しさは、『仲間』や『友達』だった。

事情をみんなに話をしても、だれも見向きもしてはくれないだろう。しかし、それでも何も言わずにゼクスやウリエルは『行動』している。間違った方向に向いているアルディス学園を『救う』ために。

「んじゃ、あたしは一足先に行ってるから。あんまり無茶しないよーに、ね」

ウリエルがドアまで向かったその直後。

「ウリエルさんっ!」

「・・・ウリエルでいいよ、なに?」

スフィアは唾をゴクッ、と飲み込む。

「私も連れて行ってください、『戦場』に」

ふぅ、とウリエルは溜息をつく。しかし、スフィアの目は真剣だ。これは何も言っても聞かない目だと悟り、ウリエルはスフィアの手を取る。

「いい?私からはなれないよーに」

「はい!」

スフィアは後悔のない返事をウリエルに返した。


***


「うわあ・・・こりゃひでーな」

ゼクスは戦争みたいな風景を目にして、唖然とする。

アルディスの生徒とガーディアンの生徒の激しいぶつかり合い。人の護る概念などただ、ひたすらに存在をなしえなかった。ゼクスは状況を見渡し、確認する。

「あそこにいるのは・・・」

見たことのある姿。それは、自分を犠牲にした、中学の同期であるレヴィであった。

レヴィはかなり苦戦しており、3対1の場面へと突入していた。

「レヴィ!加勢する!」

ゼクスは颯爽と走り出し、レヴィがいる場所まで向かう。

ゼクスが加入し、これで3対2。目の前の敵はガーディアンの一生徒ばかりであった。

ゼクスはふっ、と微笑む。

「はあっ!」

肩にかけていた虚偽剣を鞘から抜き出し、大きな縦の一振りをガーディアンの生徒に一撃。

「まだだっ!」

大振りからの薙ぎ払い。薙ぎ払いから下から上へのアッパー。止めに一閃。合計三撃を相手に与えた。

「ぐわぁっ!」

ガーディアンの生徒は数メートル程遠くに下がる。そして、何かを待っていたかのように右手を上に手をかざし、こう言い放つ。

「いでよ、我の神霊!」

ガーディアンの生徒は身体に光を纏う。それ以外には変化はないが、神霊は自己の能力を飛躍的に向上させる、というのをゼクスは知っていた。

「仕方ないあ・・・『禁忌解放』」

ゼクスは黒い闘気を纏う。その黒さは危険を字で体現したかのようだ。

『禁忌解放』。『紅聖』の力とは別に、ゼクスが保有する特殊な能力。魔力で発動するのではなく、身体の全体の神経をはり巡らせ、脳の神経に送り込む。脳に送る命令は『滅ボス』だ。

ゼクスは手をかざし、こう告げた。

『神霊ノ幻想ヲ破ルハ絶望タル咆哮』

ガーディアンの生徒に宿りかけていた神霊が、一瞬して消滅した。思いのよらない現状に、ガーディアンの生徒は絶句する。

「そ、そんなばかな・・・」その言葉きり、何も話さなかった。そして、スフィアを打倒したあの生徒が、ゼクスの存在を感知した。

「なんだ、あの生徒は・・・」

振り向いた瞬間、目の前にはゼクスが立っていた。気付かれずに、ただ一瞬に。

「!?」

スフィアを打倒したガーディアンの女生徒はゼクスから離れる。ゼクスはにこり、と笑ってはいるが、殺気がたまらなく発している。ゼクスは相手を見つめる。

「よ、どうも。うちの仲間が世話になったな」

ゼクスは既に右手に『虚偽剣』を持っており、戦闘状態だ。

「ふん、あんたの仲間、とーっても弱いじゃん。あんな貧弱な奴が『閃姫』を語るなんて腑に落ちないな」

「お前、名前は」

「・・・、『神喰』カスミ・サヴァリアス。アンタを喰らう名前だ」

「・・・惜しいなぁ、もっと別のところで出会いたかった」

ゼクスは少し残念な顔で、虚偽剣を構え、一閃。カスミはその一閃を捉え、回避する。ゼクスは少し驚愕はしたが、ニッ、と微笑んだ。

「・・・やっぱ別のところで会いたかったな!」

言葉と同時に隼の如く追撃。だがカスミはそれを受けきる。

「次は・・・こっちからッ!」

受けきったカスミはゼクスの虚偽剣を跳ね除け、カスミの『大鎌』を振り上げ、一撃。

重々しいその一撃は、地面を少しではあるが地響きを起こした。ゼクスは受け流しはしつつも、少々のダメージを受けた。

「あんたの得意な『禁忌解放』だっけか、使いなよ、あたしはその方が殺り甲斐がいる」

「・・・」

ゼクスはピタっ、と動きをやめる。

「『禁忌解放』は戦闘には使わない。これは、『道を外した者の罪を裁く』ためのものでもある。それと『約束』した奴がいるんだ、そいつはもういないけど・・・」

ゼクスは自分の握りしめた拳を見る。無くしたものは二度と戻りはしない、と訴えかけるような、そんな顔つきでカスミに一喝。

「だから『禁忌』は使用しない。全身全霊の自分の力で、俺はお前に勝つ。それだけだ」

「・・・意外とアンタ律儀な人間なのな。まあ、いい」

不意にゼクスの首元に『大鎌』が置かれていた。ゼクスはそれでも平然とした顔だった。カスミは苛立ったのか、チッ、と舌打ちを鳴らす。

「俺はそこにいないんだけど」

ハッ、とカスミは後ろに振り返る。ゼクスは面白半分でカスミの頬を指先で突く。『大鎌』を今の場所にいるゼクスに横振りをするが、空振り。

「なっ・・・」

「そんなものか?思ったよりも相手にならないとか、やめてくれよな」

煽りに煽るゼクス。その挑発に乗ってしまうカスミ。状況はゼクスへと転機した。

「私を怒らせるとどうなるか・・・思い知らせてあげるわッ!」

再びカスミはゼクスに攻撃を開始した。



***



「ゼクス君っ!」

「ゼクス~、ってもう戦闘始まってたか」

保健室から出てきたスフィアとウリエルはゼクスが戦闘している校庭にやってきた。応援しかできないと分かっていても彼女らはゼクスを励ますためにやってきたのだ。

「あ、あの・・・」

下から聞こえてきた。スフィアは視線を下にさげる。

「え、えーと・・・」

「初めまして、レヴィ・シャルルといいます」

「ご丁寧にどうも。あんたが例のゼクスの同級生だっけ」

そう、同級生。レヴィはゼクスと同じ学校で、同じクラスだった。そしてゼクスのために何もかもを捨てた。『友達』も。『囲い』も。

「そうですよ、えーと・・・」

「あ、えーとまあ、知り合いというか、従妹というか・・・ウリエル・アッシュ―ドよ」

従妹でも何でもない法螺を吹くウリエルは、汗をかなり垂らしている。何か事情でもあるのであろうとレヴィは何も言わず納得した。

「・・・ゼクス君は本当に感謝しています。何も言わず、ただ真っ直ぐな人なんです。それ故に孤独を私は中学の時感じたんです」

「ふーん、感謝ね・・・ゼウスはレヴィに何かしたのかい?」

「いえ。本当に細かいお話です。雑務や頼みごとを嫌顔見せずに聞いてくれました。後、私が困っているときでも手伝ってくれました」

この話を聞いているスフィアはあることをふと思った。

『ゼクスが好きなんじゃないか』と。

「・・・えーとレヴィさん?率直なお話、ゼクス君のことが好きなんですか?」

「え、え、え、えっ!?」

予想通りの反応。レヴィは顔が茹でタコのように頬が真っ赤になった。フフッ、とスフィアは微笑する。

「ごめんなさい。すごくゼクス君の事褒めるものだから。気持ちはわからなくもないから・・・」

「スフィアさんもなんですか?」

似た境遇を思い出すスフィア。

『俺自身『剣』を持つことを禁止されているんだ。これは借り物で飾りにすぎないんだよ』

『まあ、何とかなるだろ。『紅聖』の力が不完全でも、あいつらを撃退できるくらいはできるはずだ』

「彼なら、きっと・・・」

スフィアは校庭の奥で戦っているゼクスを見つめながら祈った。

絶対に勝って、と。

「スフィア、祈るのはいい心がけだと思うが、周りが悪化してきやがったぜ」

ウリエルがそう語りかけるとスフィアは祈りをやめる。スフィアは周りを見渡し、状況を把握する。

「・・・数は多いけれど、敵の強さはそうでもないわね」

スフィアは背中に背負っていた蒼く透き通った剣を鞘から抜く。それは、今戦っているゼクスの邪魔をさせないために。

「ウリエルさん、レヴィさん手伝ってください!ゼクス君を全力でサポートします!」

そう一喝と激昂を放ったスフィアを見たウリエルはニッ、笑いながら雷槍を魔方陣から取り出す。

「あいよ、久しぶりの戦闘だから身体が鈍っちまってるかもな」

「カバーはしますので。・・・レヴィさんはいけそう?」

竦んでいたレヴィは時間経過で立ち直っていた。武器も装填し準備万端である。

「ばっちり。いつでもいけますよ!」

レヴィの武器は『銃剣』。銃が主体で、剣は切り替えることができるような形となっている。短剣から長剣まで様々だ。ちなみにレヴィの銃剣はハンドガン式短剣で副武器の組み合わせとなっている。オーソドックスな形ではあるが、軽く動きやすいのが特徴だ。

「スフィア、ちょっと待て!」

ウリエルは様子を伺っていたところ、何かおかしいと気付いた。ガーディアンの生徒の眼は何かに操られているようであった。

「どうしたんですか、ウリエルさん」

「様子を見た。あいつらガーディアンの人間が操っているものじゃない。これができるのは恐らく・・・」

「何か知っているんですか?」

「や、確信はないがな。ただ、そうだと思っただけさ。パターンは解っているからその通りに聞いてくれ」

「・・・分かりました、状況が変わった以上、指示はお任せします。私は彼らを殺さない程度の負傷を負わせます」

スフィアは前線に切り替え、ウリエルは後方に、指示を出す役割に代わる。ウリエルは雷槍を魔方陣にしまい、新たに魔方陣から杖を取り出す。小さな杖で、まるで小枝のようなものだった。

「スフィア、あの中に操作している奴がいるはずだ、探し出して斬れ!」

「斬れ、って言われても、その子生徒だったら・・・!」

「そうじゃねぇ、そいつは『化けてる』だけだ、構わず斬れ!」

踏み切りを付けたスフィアは、再度蒼の剣を構えなおす。スフィアは相手の群れの中にいる本体を『分析』で探し出す。

「いた!」

スフィアは地面を思い切って蹴り、疾風の如く駆ける。群れの中に飛び込み次々と回避していく。抜けた先に妙にほかの生徒と違う者がいた。

「そこっ!」

ブオッ、と重い縦斬りの一撃。操っていた生徒たるものは、その一撃を真面に食らう。

「ぐぎぁぁぁっ!」

そう悲鳴をあげ、生徒たるものは消え去った。だが、その一体だけではないと、『分析』

は反応し、さらに分析を拡大していく。

『スフィアよ。ウリエルさん私の声が聞こえる?』

「あ、なんだ?私の脳内からスフィアの声が!?」

唐突に声が聞こえたウリエルはびっくりする。自分も人のことも言えないな、と初めてウリエルは思えた。

「・・・でどうしたんた」

『さっきの『化けてる』怪物は複数体ってことが分かったわ。これからそれを殲滅していく!』

と言葉きりスフィアの声は途絶えた。ウリエルは状況はかなり悪化していることを理解し、レヴィがいる場所に振り替える。

「レヴィ、生徒を睡眠弾で眠らすことは可能か?」

「それは可能ですけれど・・・私の銃自体はガバメントの種類です。それ用に合う弾でなければ打つことすら・・・」

「弾は?持っているのか?」

レヴィは自分のホルダーを確認する。しかし、戦闘になるとは思っていなかったため、持っていたのは実弾が8個、睡眠用弾1個、そして差し替え用のサプレッサー道具のみ。

「1個!?」

「ごめんなさい、戦闘になると思わなかったので・・・」

ウリエルは少し考える。そして出た回答は。

「その睡眠用の弾、貸してもらえる?」

「ええ、構いませんが・・・」

レヴィはホルダーから睡眠用の弾をウリエルに渡す。手に取ったウリエルは、詠唱を始める。

『神ノ加護ヲ。我与エル物複製セン』

そう詠唱が終わると、ウリエルの手のひらから大量の睡眠弾が生成される。

「うわぁ、これは・・・」

ドン引きレベルである。弾は次々に止まらず生成される。

「うし、こんくらいでいいだろ」

そういうと、『解除』と唱え、生成が終わった。

「大体3千発、とこか。外しても生成するから心配するな」

レヴィは山のようにある睡眠弾を何発か拾い、マガジンに装填する。試しに狙ってみる。

「せっ!」

素早く充填し、ロックを解除、引き金を思い切り引く。ドオッ、と重い響きと共に操られた生徒に命中。そのまま一人の生徒は倒れこみ、昏睡した。

「おお、面白いな、その武器!」

興味津々のウリエル。だが、指揮を任されている限り、動くことが制限される。

「とと。浮かれてる場合ではないか、・・・ええと」

ウリエルは状況を再度確認する。ゾンビのようにうじゃうじゃと現れる生徒。だが後から出現しているのは、『誰か』が操っている人形そのものだ。だから、手加減は必要がない。

「器用なレヴィに指示するわ!前衛にいる生徒は全員睡眠弾で眠らす事!後の後衛は人間じゃないわ、実弾でやっちゃいなさい!」

小枝のような杖をフッ、と大きく振ると、やさしい光がレヴィの周りに纏われる。

「これは・・・力があふれてくる!」

レヴィは感じるままに、フッ、と地面を蹴った。走りながら、もう一つの銃を学生服から取り出す。銀色に光る、如何にも重圧感のあるハンドガン。そのハンドガンの先端には禍々しく紅い短剣。人の眼では追えないほどの速さで充填。そして。

「せあっ!」

銀色のハンドガンはダン、と爆裂な響きを奏で、幻影の生徒の顔に直撃。

「はあああっ!」

勢いをつけ、一発一発見事に的中する乱射。片手は黒のガバメントガン、片手は銀色に光るハンドガン。だが、このハンドガンはある弱点があった。

「・・・っ!」

勢いがあったレヴィの行動が段々と鈍くなる。それをいち早く気づいたウリエルは声をかける。

「大丈夫か、レヴィ!」

「すみません、二丁拳銃を扱うのは久しぶりで・・・右手は問題ないのですが、左手に持っているハンドガンはじゃじゃ馬で・・・」

「じ、じゃじゃ馬?」

あんまり拳銃についてわからないウリエルにとって、じゃじゃ馬の意味があまりわからなかった。

「左のハンドガンは『裁ク鷲ノ爪』というハンドガンです。反動が強すぎて、本当なら片手で扱う者じゃないんです。でも、威力は絶大です。かのスナイパーライフルにも劣らない威力なんですよ」

「お、おぅ・・・(やけに詳しいな、この子)」

オタクというべきなのか。ネットで調べたことがある。サバゲー好きな子は、こういうのにも詳しいのだと。

「と、とにかく問題なんだな?何かあれば回復できるからいつでも言ってくれ」

ウリエルはとりあえず、という行動で小枝を優しく振り、レヴィの腕の痛みを無くした。

「ありがとうございます。・・・でも本体はいったいどこに」

レヴィがそう呟くと、ウリエルは少し考え込む。

レヴィとウリエルはゼクスの場所へ行かせないように後衛で防衛。

スフィアは突き止めるために前線に出た。

だが一向に連絡はない。あれから数十分もたっているはずだ。

「・・・そうか、もしそうなら」

もしそうなら。かなりまずい状況になる。

「スフィア、どこにいる返事をしてくれ!」

『ど、どうしたの』

とりあえず、スフィアの声が脳内から再生されたかのように聞こえてきた。まだ無事のようだ。

『とにかく、状況を教えてくれないか』

ウリエルの声が、スフィアの脳内で再生される。それを聞き取ったスフィアは反射神経を利用し、応える。

「大体の目星はついたわ。今から迎え撃つとこ・・・ろっ!」

ザンッ、と向かってくる幻影に蒼い剣が一振り。多数幻影が存在しているところ、独り奇妙な雰囲気を醸し出していた人物がいた。

「やっと見つけたわ。・・・ホント、苦労するわね」

鎧をまとう、謎の人物。黒いオーラを纏い、不気味と佇んでいた。

『我ヲ見ツケルトハ、タイシタ能力者ダ。ナゼ貴殿ハ戦ウノダ?』

どこからか、謎の鎧の人物が語りかけてくる。スフィアは迷うことなくこう答える。

「私は・・・理不尽な世界を壊すために戦うのよ!」

疾走。振るは重撃の一振り。振った蒼い剣は、鎧に当たることなく、地面を抉った。

「お爺様を騙し、父様や母様を操っている奴らを暴き出すために!私の戦いは終わらない!」

連続する蒼い剣の振り。二段、三段と回数が増えるにつれ、消耗が激しくなっていく。

スフィアは疲労困憊状態だ。

額から汗が垂れ流れていく。現状のボスを目の前にして、早くも体力切れ。

スフィアは膝を地面についてしまった。

『・・・努力ハミトメヨウ。ダガ、イツマデタッテモ成長ハシテイナサソウダナ』

鎧は憐れみを感じたのか、声が悲しいそうな、それでいて挑発しているかのような声でもあった。

「・・・っ、貴方に心配されているようでは、私も成長はいつまでも成長しないわね」

再びスフィアは立ち上がり、体制を整える。だが、先の戦いの疲れはまだとれていない。

ここで倒れたら、もう絶対にチャンスはない。やっと『希望』を見出したのだから。

勝って、必ずゼクス君と『剣神祭』に出るんだ。

『想い』は『形』となり、蒼い剣は輝きを放ち始めた。

「えっ・・・これは・・・!」

『・・・『剣』ハ『心』ニアラズ。カツテ『紅イ悪魔』ガ残シタ言葉ダ』

黒の鎧の人物は懐から大きな黒曜の大剣を取り出した。両手に握りしめ、構える。

『人ノ子ヨ、乗リ越エル力ヲ予に示セ。ソノ『暁ノ力』、モノニシテミセヨ』

「『暁の力』・・・そう、私は」

蒼い剣を頭上に掲げ、空にこう叫ぶ。

「『明日』をつかむために、『世界』の理不尽の連鎖を断ち切るために!」

振り下ろした衝撃は驚くほど凄まじく、放つ威力は絶大であった。まるで、空を断絶するかのように。

『絶技:夜明ケノ蒼華燐』

蒼く輝く、花びらの如く。可憐に大地を這う斬撃。凛々しく、また悲しく、はたまた希望を。覚悟を決め、決意し明日を掴むと言わんばかりの絶大さ。まさしく『暁の力』にふさわしい『剣技』である。

『マッテイタ・・・『紅い悪魔』ノ『同志』ヨ・・・』

黒の鎧は蒼い光に包まれ、終わった後には消滅していた。スフィアは剣技を放った後、ハッと我に返る。

「あ、あの黒の鎧は・・・」

スフィアは蒼い剣を見る。蒼く輝きを放ち、穿った。何を『想った』のか、それは自分でもわからない。だが、あの威力は絶大すぎる。極力使うのは避けるようにしよう。

スフィアは蒼い剣を鞘に納め、ウリエルがいる場所に向かった。


***


「はあっ!」

「せやっ!」

虚偽剣と大鎌の剣筋がぶつかり合い、金属と金属の激しい火花を散らせる。

互いは数メートル退く。双方反動を受け、しばらく硬直状態へ。

「強いな、これは本気で行かないとやばいかもな・・・」

ゼクスは彼女の実力を認める。しかし、負けたわけではない。

勝たねば。

でも何故、勝たなければいけないのだろうか。

そうだ。

自分は『剣』を許されていない。

『お前は使ってはならん。『剣』すらも!』

爺ちゃんの言葉が脳裏に出てくる。

『この『悪魔』め!死んでしまえ!』

『やーい、悪魔、とっとと消えろ、きーえーろ』

過去の言葉が自分の中でグルグルと、螺旋の様に、そして耳元で幻聴する。

ゼクスは脱力した。

こんなことをやっていても、どうせ意味はない。

見つかれば、俺は殺される。

なら、ここで死ねるのなら、本望だ。

誰も必要など、していないのだ。だから、人を避け、独りで歩いてきた。

耳を塞いで、目を見開かずに。

「はっ・・・降参ってか。まあ、大した相手じゃなかったな」

大した相手。それはゼクスが相手に大きく劣っていたのと同様だ。皮肉なものだ。ゼクスは最後の言葉になるであろう、そんなつもりで答えた。

「俺は・・・必要にされてない人間だ。お前みたいに必要とされてないんだからな、俺はお前以下なんだろうな」

「何をガタガタと・・・もういい、死ね」

死鎌がゼクスの首元まで刃先が向かってくる。これで俺の人生は終わる。

その瞬間だった。

蒼き斬撃が、死鎌を弾く。花びらが舞う、蒼き華。それこそまさしく、緑のエメラルドカラがーが似合うストレートの長髪の女の子に。

「・・・!」

ゼクスは、驚愕した。蒼い華に身に纏う、紅く、『明日』を見据える眼を。

『暁の力』の力を手に、スフィアはゼクスの前に現れる。

「私は、『魔力』がどうしても憎い。世界を変えてしまった一つの元凶だから。でも、変えられないことは、今はないはずだから。絶対に変えたい。お父様やお母様を救いたい」

スフィアは、ゼクスの手を取った。ゼクスは振りほどこうとする。しかし、スフィアはしっかりと握りしめ、グイッ、と引っ張り上げゼクスはまた驚きを目の前にする。

スフィアの唇が、ゼクスの唇に当たっている。

それも柔らかな。

これは、キスというものだ。

ゼクスは状況が全く分からなかった。何のために、何をするために。

疑問が疑問を呼び、頭の中の脳の処理が追いつかなくなっている。

ゼクスはオーバーヒートを起こしそうだったが、その前に唇が離れた。

「ゼクス君、私は貴方に協力して欲しいことがあるの」

恥じらいはまだ引いてなかったが、スフィアは赤く頬を染めて、真剣なまなざしでゼクスを見る。

「私と一緒に『剣神祭』に出て。取り戻したい、あるべき戦いに」

信念を貫いている姿を、ゼクスは目の当たりにする。

「・・・なんで俺なんだ、スフィア」

理由をゼクスは尋ねる。スフィアは過去を重ね、説明を始める。

「私は母と父が『魔力』の化け物に憑りつかれているの。正体はまだつかめてはいないけどお母様やお父様は優しかった。でも今は何か憑りつかれたように、性格がガラッと変わってしまったの。だからお願い、あなたにも協力してほしいの」

紅剣ヴァルキリーについては話さなかった。このことを話すと、自分は『紅聖』の力について知っていると、思われてしまうから。

「・・・」

「自分勝手なお願いだとは思っている。けど、私も救いたい人がいる。だから・・・」

「ごちゃごちゃうるせーんだよ!」

大鎌が、ゼクスの目の前まで飛んでくる!

「ゼクス君ッ!」

その声は、どこか懐かしい声だった。ゼクスは無意識に剣を構え、大鎌に対抗する。

ギリギリ、と金属の歯ぎしりのような音を立て、大鎌はついに離れた。

「俺は・・・誰も信じねえ」

「!」

スフィアは、この時点で、もう彼は協力してもらえないと悟った。

しかし。

「でも、・・・スフィア、お前は信じたい。もう、二度と誰も失いたくない」

その言葉は、何よりも重圧のある言葉であった。ゼクスが二度も言わないような台詞だ。

「うん。私も。もう誰も失わせはしない!」

スフィアは嬉しくて、少し泣いてしまった。だが、今この出来事がすべて終わったわけではない。

「ゼクス君、終わらそう。そして始めよう、一緒に」

「へっ・・・俺は運がいいのかもな、なんて」

にっ、と再びゼクスに笑顔が戻った。スフィアもつられて笑う。

「ニコニコしやがって・・・ぶっ殺す!」

大鎌はどの一撃よりも遥かにに違う素振りを見せる。これは、そう。

「絶技:黄泉ノ宴」

紫色の、そして暗闇を穿つ一撃。

世界を終わらせるような、地面を這う斬撃が、ゼクスの目の前まで襲い掛かる。

ゼクスはスフィアと一緒に、虚偽剣を握りしめる。

「俺は、俺のために戦ってくれる人達を、そして守るべき人達を護る!」

「そう、私たちは・・・『護戦士』!戦争なんて起こさせやしない!」

そして、この言葉は、スフィアと共に重なる。

『『剣』は「護る」もの、『剣』は「暴力」ではない。「夢」を『剣』に、「希望」を『剣』に。「世界」を変える一つの『剣』は「偽物」から「本物」に変える。その『剣』は『絶望」を打ち砕く!』

「・・・!」

カスミは、膨らんでいく大きな波動に、目を見開き、一歩も動かなかった。だが、それでもカスミは嗤っていた。何かに楽しんでいるように。

「ははっ、あっはははははっ!」

カスミは、何かを期待したように、大笑いする。

「いいぜ来いよ。お前の『護る力』って奴、魅せてみろよゼクス・シューベルトォォ!」

ゼクスは、咆哮を轟かせ、何かを唱え始める。

「剣よ、我ゼクス・シューベルトが虚偽剣に刻み込む!」

左手の人差し指を掲げ、何十行ものの文字の羅列を組んでいく。スフィアは見た瞬間、祖父の残した書物を思い出す。

「これは・・・『多極盤業』!?こんなに組むのは、『禁断』の絶技を・・・!」

「スフィア、一緒に行くぞ!」

ゼクスの掛け声で、スフィアは我に返り、再び虚偽剣を握りしめる。

「せーのっ・・・!」

二人で放つ、合体絶技『蒼覇・天翔撃』をカスミに直撃。

カスミは避けることなく、ただ、笑いながら姿を消した。

ゼクスは大量の力を使い果たし、その場で倒れこみ、暗転した。


この戦いは、アルディス学園側が勝利を収めたのだった。

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