真睦
ー悪魔に目玉を渡して、やっとの思いで悪魔を仲間としたが、俺には今そんな感慨に浸る余裕は無い。
「おい、悪魔!話したい事は山程あるけど、取り敢えず今はここから離れよう!」
そう、江崎は今、自分の命を脅かす悪魔達に囲まれている。この状況下ですべきなのは撤退だと江崎は判断した、というか普通はそうする。
「ふふっ、そうですねぇ では行きましょう。」
そう言うと悪魔と江崎は人気のない方へ走って言った。
***
江崎たちは人気の無い狭い路地へと身を隠した。
「ふぅー 流石に悪魔もこんなとこまでは来ないだろ。」
部活にも入らずにずっと家にいたからか、江崎は少し走っただけなのに息切れをしていて辛そうだ。
「人間は軟弱ですねぇ、私たち悪魔は人間とは違って強いですからしょうがないですかねぇ?」
そんな悪魔の煽りを無視して江崎は話を始めた。
「ところで、お前ってなんて名前なんだ?
ずっと「お前」とか「悪魔」って呼ぶわけにはいかないし。」
「名前?そんな物ありませんよ。私たち悪魔の世界は弱肉強食です。大抵の悪魔はすぐに死んじゃうんで、名前なんかにこだわる必要はないって事ですよ。」
ー何か、コイツ不機嫌じゃね?もしかして
俺がコイツの俺Tueeeee自慢を無視したからなのか?
まぁそれは良いとして、名前がないのは不便だよな。
「じゃあ!俺がお前に名前を付けてやるよ!」
ー何かに名前を付けるの、昔から好きだったんだよなぁ。育成ゲームで名前を付けたりすると結構愛着が湧くんだよなぁ。
でも張り切って名前とか考えても文字数制限で入れられなくなって、泣く泣く名前を変えたことってあるよなぁ。アレ辛いよなぁ
「そうですか、まぁ名前なんて何でもいいから
早く付けてください。」
そう言った悪魔は心底どうでも良さそうな表情をしていた。
ーん〜そうだなぁ、コイツの特徴と言えば
仮面にマントだろ。それなら頭文字をとって、
カマ? それともマカ?
なぁんかしっくり来ないなぁ〜、
江崎は数十秒程悩むとハッ!と顔を上げた。
ーそうだ!カーマ、カーマでいいんじゃないか⁉︎
「よしっ!
これからお前の名前はカーマだ!これに決定!」
ー我ながら良いネーミングセンスだ。
どの位良いのかと言うと、
世界史で出てくる「クロムウェル」と同じくらい良い名前だ。
「まぁ名前なぁんてどうでも良いですけどね。」
と言うカーマだが意外とまんざらでもなさそうだ。
そんなカーマの様子に江崎も気づいたのか、
「うんうん、そうだよねぇカーマ君は名前なんかに
興味無いんだよねぇ、分かってるよ、僕はちゃんと分かってるから大丈夫だよ。」
と所々笑いながらカーマをバカにするように言った。
それを聞いたカーマは右肩の辺りに付いている口の中から赤い柄の剣を取り出して江崎の喉に突き立ててこう言った。
「ほほぉーう、調子に乗ってるようですねぇ
殺されたいってことですかぁ? 」
と笑いながら江崎を脅してきた。
それを受けて、江崎は
「ひぃぃぃ!す、すまん。もうしないから許してくれ!
あ、あと俺の名前は江崎殉だ。人間じゃなくてジュンって呼んでくれ。」
と心底情け無い声を出したかと思えば意外にも図々しく自分の名前を名乗っていた。
「はははっ!ただの冗談ですよぉ、ジュンを殺したら
ジュンと他の人間の苦しむ姿が見られなくなるだろ。」
ー意外と素直に俺の名前呼んでるし、コイツまぁまぁいい奴かもな。
江崎は何故かカーマに親しみやすさを感じていた。
それは恐らく、カーマは契約や力を大事にしており、
人間のように気まぐれなんかで裏切ったりしないと江崎が思っているからだろう。
だがそれに江崎は気づいていてない、むしろ気づかないふりをしているのだ。
何故なら、もし気づいてしまったら人間と悪魔の
どちらが良いのか分からなくなるからだ。