抗障
バケモノは話し始めた。
「私達が何者かと言いますとぉ、まぁ貴方達人間の言い方をするならぁ、悪魔ってトコですかね。」
それを聞いた江崎は、その悪魔に問いかけた。
「なぁ何であんたら悪魔は人間を殺すんだ?」
という江崎の直球な問いに対して悪魔は
「理由?理由なんて考えた事も無かったですねぇ
まぁ強いて言えば、貴方達人間を殺さないで生かす理由も無かったですしねぇ。」
と人をバカにするように笑って言った。
ー ふざけるな、そんな理由で人が殺されるなんて酷すぎる!
そう江崎は悪魔に言いたかったが、なけなしの理性を持って、
その怒りを呑み下した。
そんな江崎の怒りを知ってか知らずか、悪魔は話を続けた。
「あ!あと理由って言うならぁ、人間達の苦しむ顔が見たいからっていう理由もありますねぇ。」
ー相変わらずコイツら悪魔は最悪だが、
これなら、もしかして第3の選択肢、上手くいくかもしれない!
そう思った江崎は悪魔にこう尋ねた。
「そうか…つまり、お前たち悪魔は必ずしも人間を殺さないとならないって訳じゃないんだな。
もしそうだとしたら……俺とお前が手を組むことも出来るのか?」
これは…江崎にとって大きな賭けだった、なにせこの賭けで賭けるのは江崎自身の命だからだ。
なぜなら今も江崎の周りには悪魔達が何体かウロついている。
出来ることなら今すぐにでもこの場を離れたい気分だった。
そんな江崎の無謀な提案を聞いた悪魔は笑いながら話し始めた。
「えぇ、出来ますとも出来ますとも。私と貴方は
仲間になれますともぉ。ですが、それにはそれ相応の
対価…つまぁり私へのメリットが無いとねぇ?」
江崎はその答えを予想していた。
メリットも無しに助けてくれるようなバカはそうそういない。
そして江崎は考えた今の自分に払える対価を…
ーこの悪魔にとって人を殺すのは人間の苦しむ顔見たいからという理由だからだ。それなら……
「メリットならある。お前は人間の苦しむ顔を見たいんだろう? それなら俺が見せてやる。
俺はこれから悪魔だらけの世界を生きていく。
それだけでも俺は色々な苦労をしていくだろう。
それに加えて、俺についてくれば自然と色んな人間達とも出会うだろう。そうすれば嫌でも人間の苦しむ顔を見ることが出来る。
これが、俺がお前に与えられるメリットだ。」
そうこれが江崎から悪魔へと与えられるたった1つのメリットだ。
つまりもしこの提案を悪魔に断られたら、その時点で江崎の死は、ほぼ確定する。
江崎の提案を聞いた悪魔は…
これまでとは違い、人をバカにするように笑うのでは無く、人を弄ぶようなニヤッとした気味が悪い笑みを浮かべた。
そして悪魔はそんな笑みを浮かべながら話した。
「なぁるほどねぇ。それは確かに良い提案ですねぇ。
ですが今は仲間だと言っていてもどうせすぐに裏切るのでしょう?それが人間という生き物なのだからぁ。」
ーマズイ!悪魔の感に触ったかもしれない!
このままじゃ交渉以前に殺されるかもしれない!
とにかく今は悪魔の機嫌を取らないと‼︎
そう思った江崎は悪魔に対して質問をした。
「じゃあ、どうすれば俺を信じてもらえる?」
「うぅーむ、そうですねぇ……
じゃあ自分で目ん玉をくり抜いて下さい。
ナイフは貸しますから。」
と笑いながらとんでもない提案をしてきた。
ー何言ってるんだコイツ?そんな事できる訳ないだろ⁉︎
「それ、冗談じゃ無くて本気で言ってんのか?」
もしかしたら冗談かもしれないという希望の元、そう尋ねると、悪魔の顔から笑みが消えた。
「冗談じゃありませんよ、早くして下さい。」
ー無理だよ。そんな事ただの高校生の俺なんかじゃ無理に決まってる!
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
目ん玉をくり抜くだって⁉︎そんな事できる訳ないじゃないか!
今、江崎の頭の中はひたすら恐怖が支配していた。
だが、江崎も理解していた。
今ここで死ぬよりは目ん玉をくり抜いて生きていく方が絶対に良いということを。
そんな江崎に悪魔は笑いながら、柄の赤いナイフを手渡してきた。
その赤いナイフを受け取った江崎は、数十秒程悩んだ末に、覚悟を決めた。
江崎は赤いナイフを自分の右目の前に掲げると、
そのナイフを目の下に滑り込ませた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
ぐぅあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その後も江崎は数分間今までの人生で一度もしたことの無いほど叫んだ。
ようやく叫びが収まった頃。
「ほ、ほらよ こ、これでいいんだろ。」
息切れしながらも江崎は悪魔に自分の目ん玉を手渡した。
「凄いですねぇ!普通の人間ならもっと時間が掛かるんですけどねぇ。貴方は私が今まで見てきた人間達の中でも1番人間らしいですねぇ。え?どこがですかって?色々ありますけど、1番は、生きるためなら手段を選ばない所が人間らしいですね。」
それを聞いた江崎は必死に右目の痛みを我慢しながらも、不思議と笑みがこぼれた。
「そうか…そうかもしれないな…
まぁとにかく、これで俺達は晴れて仲間だな。
これから宜しくな、悪魔。」
ちなみに作者名は白井と書いて「しらい」と読みます。