恐慌曲
江崎 殉は
それこそ何の変哲も無いただの高校生で本当にどこにでもいる一般人だ。
幼い頃に悲劇的な経験をした事があるとか
可愛い幼馴染がいるとか
そんな事もない、本当にただの一般人だ。
今までの人生も大したことは無かったし、
「人生で1番大きな経験は?」とか聞かれたら
ー 地元の不良に絡まれてカツアゲされた事です。
と答えるくらいの普通の人間だ。
それか棚の角に足の小指をぶつけて骨折した位の小さな事しか経験してないような男だ。
だが今、江崎は普通ではあり得ない光景を今目撃している。
江崎の通う高校の近くにある駅の改札を出て少し歩いていると、江崎の目の前に黒い光が現われた。
ー何だこの光は⁉︎映画の撮影か⁉︎
驚いて周りを見回すと色んな場所に次々と黒い光が現れている。
テロか何かか?何これ怖い!
などと江崎と同じように周りの人達は驚いている。
そんな江崎たちの疑問に答えるようにその黒い光は段々と形を変え、やがて1つの形となって言葉を発した。
「ハロー人間くん。そしてサヨナラ〜♪」
と人を馬鹿にしたような様子で言ってきたのは、
言葉にするなら、それは バケモノだった。
そのバケモノは体長170cm程で、道化師のような仮面をしていて赤いマントをしているが、そのマントの下の体には体が埋まっているそんな体をした奴だった。
顔や腕、目も口も体に埋まっている。
そしてその埋まった体達は生きているかのように今も動いている。
コレをバケモノと呼ばずに何と呼ぶのだろう。
俺が驚き過ぎて固まっていると周りから色々な悲鳴が聞こえてきた。
周りを見ると俺の前にいる奴と同じような、バケモノ
が人を殺していた。
それを見た瞬間、俺は前にいるバケモノに話しかけていた。
「お前らははいったい何者なんだ?」
自分でも自分に驚いた。
ーお、 俺は、バケモノ相手に何で話しかけてるんだよ!
江崎は自他共に知る程の怖がりである。
そんな怖がりが今回は幸いした。
怖がりというのはつまり、動物としての防衛本能が人より強いという事だ。
そんな動物として、人間としての本能が頭をフル回転させた結果がバケモノに話しかけるという物だった。
何故、本能がそうさせたかというと、江崎は視覚によってバケモノは人間を殺すということを知った。
そしてバケモノはそこら辺にウジャウジャといる。
つまり、江崎は今敵陣のど真ん中にいるという事だ。
そして、少しでも生き残る為にはバケモノと話をして時間を稼いで助けを待つか、隙をみて逃げ出す。
という2つの選択肢を江崎の本能は一瞬で考え出した
そして今に至る。
「ほほぉーう、この状況で話しかけるとは人間のくせに度胸があるじゃないですかぁ、その質問に答えてあげましょう!」
ーこれならイケるかもしれない!
意外にもバケモノは普通に話せる事が分かった。
この事より、江崎の中には第3の選択肢が出来た。
バケモノを仲間にするという選択肢が。