表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

行方

作者: ろぼっと
掲載日:2018/01/23


「本日未明若い男女の遺体が多摩川河川敷にて発見されました。……えー、二人の身元は、未だ不明。現在警察が調査中との事です。」




……………



日が沈む頃、逢魔ヶ刻などと言われる時間帯。川の流れる音と風の抜ける音、虫の鳴き声のなか二人の男女が話していた。


「ねぇ」

「なに?」

「今日何食べた?」

「納豆」


女の唐突な質問はいつもの事だった。


「納豆かぁ、パンに合わないね」

「そんな事ないと思うけどなぁ。惣菜パンとかでそんなのなかった?」

「惣菜パンはパンじゃないの」

「パンだよ、パンって付いてるし」

「じゃあフライパンもパンなの?」

「食べれないじゃん」

「じゃあ惣菜パンもパンじゃないね」

「食べれるよ」

「うん、でもパンじゃないの」

「そうかなぁ」


いつも自分の理論を、理論というのは些か強引な意見を押し通す女は、またいつも通り男が引き下がる事に口を緩める。


「そうなの」

「でも、菓子パン好きだよね。」

「菓子パンはお菓子と一緒だよ。女の子は甘い物は別腹なの」

「じゃあ菓子パンもパンじゃないんだ」

「んー。後一歩だね」

「惜しい感じなんだ」

「そうだね、何が足りないかは分からないけど」

「じゃあ食パンはパン?」

「それはパンだよ」


クスリと二人で笑った。


「そう言えば、掃除機買ったんだ」

「……?。この前も買ってなかった?」

「それは布団用の奴」

「使い分けるんだ?」

「特に意味は無いけどね」

「もったいなくない?」

「でも、鈴木も2台持ってるんだよ」

「鈴木くん?」

「そう、掃除が得意な鈴木」

「友達?」

「学校のね」

「その掃除が得意な鈴木くんも2台持ってるから買ったんだ」

「まぁ、そうだね」

「やっぱりもったいないと思うけど」

「そうかもね、怒られちゃったし」

「彼女?」


男は曖昧に笑った。


「そう言えば、フライパンも買うって言ってなかった?」

「あー、貰ったから買わなかった。」

「フライパンを?」

「フライパンを」

「フライパンの流用ってなんか不潔じゃない?」

「未使用の奴だから」

「フライパン未使用で持ってるって珍しいね」

「掃除したら出てきたんだって」

「掃除……鈴木くん?」

「そう。鈴木。あいつ掃除得意なんだけど部屋は汚いの」

「それは得意なの?」

「んー。汚いのが一気に綺麗になった時の空気とかが好きみたいだよ」

「ふーん、変わってるね」

「そうだね、でも掃除の後はほんとに綺麗なんだよ?」

「それが掃除だもん」

「そうだけど」



「…………」

「……あのさ」

「なに?」

「やっぱりいいや」

「え?なに?気になるじゃん」

「んー。私もね、喧嘩したんだ」

「……そうなの?」

「そうなの」

「なんで?」

「なんでって、色々だよ」

「色々かぁ」

「……そう。色々」

「僕は掃除機とペットの事で喧嘩したよ」

「……話すんだ」

「気を紛らわしたいし」

「掃除機はいいけど、ペット?」

「そう、ペット。彼女は猫を飼いたかったみたいなんだけど、僕がグッピーとか熱帯魚買ってきちゃって……」

「それで喧嘩?」

「そう、猫も飼えばいいって言ったんだけど、何も言わずに買ってきたのが許せなかったみたい」

「それは君が悪いよ」

「そうかなぁ」

「ちゃんと言ってあげなきゃ分からないよ、気持ちなんて」

「うん」

「ちゃんと伝えないといけないんだよ、好きなら好きとか、嫌なら嫌って。重いとかウザイとか、後から言われても直しようがないじゃん。」

「……で、喧嘩しちゃったの?」

「…………そう、いっつも後出しなの。私はねその場で言って欲しいし、聞いてもいるんだけどね。大丈夫大丈夫ってその時は言うのに、後になって重いとかここどうなんだって。聞いた時に言って欲しいよね。」

「んー。男は察して欲しい生き物でもある気がするからなぁ」

「めんどくさいよね。」

「ちょっとね」



.....................



「ここの事もね、もう終わりかなって」

「……そっか」

「話せてよかったよ」

「僕も……」

「泣く?」

「なんで?」

「寂しいでしょ?彼女にも振られちゃったんだし」

「それなら君だってそうじゃないの?」

「そうだね、私は寂しいよ」

「……もう少しで日が昇るよ」

「まだ大丈夫だよ」

「だけど準備はしないと」

「そうかもね」


女が両手を広げて男をみた。


「......なに?」

「くる?」

「なんで?」

「寂しいから」

「寂しいけど行かないよ」

「へたれ」

「違うよ、そういうタイミングはとっくに逃したなって」

「まぁ、ね」

「......」

「惜しいことしたって思ってる?」

「......少しだけ」

「さよならは済ませたの?」

「特別いう人なんて居ないよ」

「そっか。」

「君は?」

「私も、強いていえば、君かな」

「......」

「すぐ黙るよね」

「返事に困る事言うから」


女は笑う。

日が昇り始めている。暁の色の中に黒い影が2つ寄り添って伸びている。


「行こっか」

「そうだね」


光に照らされて2人の輪郭がぼやけて行く。どこに向かうでもなく。言葉は風に消えた。




.....................



「先程の遺体の身元が分かったようです。片方は世田谷区在住の吉永 智さん(23)、もう1人は江南区在住の永里 絵里さん(25)」

「2人に接点はなく無差別殺人も視野に入れ犯人逮捕に力を入れるようです。」

「また、何か判明しましたら報道致します。」



読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ