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お嬢と立花君  作者: アウトキャスト
8/24

意外な謝罪


「か、金田……?」

「さんを付けなさいよ」


 このデコ助野郎。とまではいかないが、俺の反応に金田は大いに不服のようだ。


「悪いが、お前と話す余裕はない」


 小島の身体を舐め回すように見ていたせいで、腸が活発になっているのだ。大人しくしていないとホームルーム中に噴火してしまう恐れがある。それに小島に会ってなかったら、教室についたら寝ると決めていたわけなので、どちらにしろ金田と話すつもりなど元からない。


「昨日の事を言えば、大人しくしててあげる」


 だが、金田は聞き耳を立てているクラスメイトを置物程度だと思っているのか、周りの視線など気にならない様子で昨日の事を尋ねてくる。


「悪戯だった。はい、会話終了な」


 昨日、下駄箱で固まっていたのは演技ではなかったらしく、手紙の差出人について気にしていたようだ。まぁ……金田にも関係があるので悪戯の詳細までは話すつもりはない。


「本当に……?」


 俺は本気で話は終わったと思っていたので席に座ったが、金田は自分の席に戻るような素振りを見せない。それに俺が座ったせいで目線は同じくらいになり、ギロリと裁判でも始めるように俺の目をジッと見つめてくる。

 見つめ合うのはなんだか避けたかったので、俺は顔を背けてクラスメイト達に助けを請う。しかし、興味深々で眺めているにも関わらず、俺と視線が合いそうになると背景に溶け込むようにみんな視線を逸らして逃げる。


「うーむ、なんか友達を増やす事を考えようと思うレベルだな」


 昨夜は女性恐怖症に対して、いろいろと張り切ったものの俺にはいろいろと欠けている部分があると実感する。コミュ力なんて投げ捨てればよいと今まで思っていたが、これも変えていなきゃいけないな。


「増やすというよりいるの?」

「……容赦ないな」


 正雄くらいしか名前が出てこないあたりが悲しいが、ゼロではないはずだ。


「私も人の事言えない……か」


 金田は嫌味を言いたいだけかと思いきや、キョロキョロと辺りを見回してポソッと呟く。ただその表情は俺とは違って寂しさはなく、ありのままの現状を受け入れているようだった。


 彼女は孤独ではなく孤高。

 むしろ……一人で十分なほど強い存在のようにも俺の目には映る。

 その呟きが合図になったのか、金田はそれ以上は何も言わずにスタスタと自分の席へと戻っていく。機械的な足音に聞こえるが、内心どう思っているのかは察しがつかない。

 ただ、今の会話だけでも余計に面倒な事になった。きっと、今日もクラスはおろか学年全体で俺と金田の噂話が膨れ上がるに違いない。


「しかも、眠気もなくなったわけだが」


 なんということだ。俺の予定が完全に破綻しているじゃないか……

 仕方がないので俺は頬杖をついてこれからの事を考えながら、ホームルームが始まるのを持つ事にする。その時間は退屈で仕方がないのだが、段々と教室の喧騒が強くなってきたところで、奇妙な気配が近づいて来た事に気づく。


「……!」


 俺が顔を上げると、そこには吉田君が普段と変わりない様子で立っていた。昨日の放課後に隊員Cである事が発覚したが、いつも通り独特の気配を発している。だが、吉田君は俺と視線が合うと、サッと教室の後方の扉を手のひらを見せて指し示した。

 吉田君はよくわからないが、俺と会話するときに声を発しない。ぶっちゃけ、二人組を作る時だけの仲なのでそれでも良いと感じていたが、ジェスチャーだけでコミュケーションがよく成立していると自分で思う。


「ん?」


 俺は指し示された空いている扉を眺めると、廊下で女の子がこちらを覗き込んでいる事に気づいた。すると、吉田君はポンと何故か肩に手を置いて親指をグッと立てる。

 意味がわからないが、あの女の子が俺に用事があるのは間違いないだろう。


「ありがとう、吉田君」


 俺は軽くお辞儀をしてから、とても居辛い教室から退散する勢いで出て行く。逃げる理由ができてよかった。俺はそんなネガティブな考えで廊下に出ると、女の子はひどく慌てた様子で俺を見上げてきた。昨日、裏庭で見たようにツーサイドアップの髪が特徴的で、よく見なくてもかわいい子だ。


「あの……昨日はすみませんでした!」


 彼女は俺と目が合うと大げさに身体を傾けて謝罪の言葉を発する。用件を問いかけるつもりだったが、この言葉で彼女が何をしにきたのかがわかってくる。


「あー、人違いだったのはわかってるから問題ないよ」


 多分……あの後に俺が呼び出した相手でない事を知ってしまったんだろう。別に人違いのままでも問題ないのに、わざわざ俺のところに来るなんて随分と律儀な子なんだな。


「す、すみません、まさかあの立花先輩だと知らずに……」


 俺は出来る限り優しく喋ったのだが、彼女の緊張は解けずに涙目になりながら返事をする。


「先輩? ってことは一年生?」

「あ、そうです。私は一年B組の桜澤さくらざわ このみです」


 後輩なのかなと思ったところで、彼女が自己紹介をしてくれる。通りで見た記憶がないわけだ。部活をやらない俺としては後輩に話しかける事がないので、なんだか新鮮な気持ちに包まれる。


「別に俺は気にしていないから平気だよ。そっちも気に病まないでね」


 向こうがあまりにも構えてしまっているせいか、俺は冷静になる事ができスラスラと言葉が出てくる。


「そう……ですか?」

「というか、いろいろと考えさせてもらったから」


 ここまで女の子に対して饒舌になった事はないと思いながらも、俺は素直な気持ちを言葉にする。それは昨日、抱えていたモヤモヤが大きかったせいかもしれない。俺はその事に対する決意表明をするように、言葉を続けていく。


「もう少し、断る時には言葉を選ぼうと思った。結構、いろんな人を傷つけていたんだって、自覚できたから」


 あれだけ丁寧な言葉で、かつ人違いでもダメージを負ったのだから、今まで俺は本当に斬り捨てていたんだと思う。


「それって……私が悪い見本だったんでしょうか?」


 生真面目なんだろう彼女には俺の言葉は悪いように聞こえてしまったのか、青ざめた表情で俺を見上げていた。


「いやいやいや、そうじゃないよ」


 慌てて俺は否定をするが、彼女はフルフルと首を振って俺にまた謝り始める。その健気な姿は俺に打算のない女の子という印象を強まり、心が洗われたような気持ちになる。人の気を引く為の演技。自虐をして気配りをアピール。そんな様子を欠片も感じないのだ。


「って、チャイムなったぞ」


 彼女を暖かい気持ちでなだめていたのだが、ホームルーム開始のチャイムが鳴り響いた。


「あぁ……! ごめんなさい、私戻ります!」


 お互いに現実に引き戻され、不毛なやり取りを中止して教室に戻る。


「あんまり慌てるなよ!」


 俺は十分に間に合うが、ここから走って戻らなければならない彼女の背中に声をかける。


「お騒がせしました!」


 一応、言葉の意味は理解してくれたようで、彼女は立ち止まって俺にペコリとお辞儀してから、また走り始める。

 ただ……あんまり運動は得意ではないのか速度は微妙なので、遅刻になっちゃうんだろうと思いながら俺は戻りたくない教室へと戻った。

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