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お嬢と立花君  作者: アウトキャスト
2/24

噂の始まり


 翌日、いつものようにチャイムが鳴る三分前に教室に入ると、クラスメイトから矢のような視線で射抜かれる。


「……?」


 なんで、そんな目で見られるんだ? 一部の女子生徒から見られるのは慣れてはいるが、今朝は男子生徒からも見られている。

 俺と接点のない運動部のメンツ。文化祭準備に忙しいはずの文化部のメンツ。お互いにぼっち対策の為に仲良くしている吉田君。

 だが誰一人俺に声をかけることなくすぐに目を逸らしたので、俺も気がつかないフリをして机にバッグを置いて座る。

 すると、ワンテンポ遅れたタイミングで一人の女子生徒が俺を睨みつけてきた。


「おう……」


 その視線の鋭さに俺はついつい声を漏らしてしまった。高圧的な視線は肉食動物を思わせ、俺に敵意を向けているようだ。


 ――金田麗美。昨日の事を根に思っているのか、ギラギラと目を輝かせて怒りのオーラを放っている。


 なかった事にしたい俺とは対照的な態度だな。とはいっても、俺は俺の意思を曲げるつもりはないので、その視線から逃げるように机に突っ伏す。

 どうせ、ホームルームなんて出席を取るだけだ。教師の話は耳だけを傾けていればいいし、放って置こう。

 微妙に寝不足だし、一限目は寝てもいいかもしれないな。


 運動は出来ても勉強だけはどうにもならないので、いろいろと諦めている。自分磨きの一環で本気で取り組んだものの、全然成績は伸びなかった。

 授業もそれなりに真面目に受けて、テスト勉強もしているんだが、平均より上を取れることは稀だ。

 進学はしたいけど、学力的に無理なんだろうとおぼろげに感じているこの頃だ。


 それから、カツラ疑惑の現国教師のホームルームが始まり、突っ伏したまま適当に出席の返事をしたら、俺は完全に目を閉じた。

 出席という一仕事を終えたら、強い眠気が襲ってきたので、俺はそのまどろみに身を委ねる。

 あぁ、やっぱ眠いわ。

 俺は淡々と進んでいくホームルームを無視して自分の世界に入り込んでいく。今のクラスには特に話し相手もいない。

 こうしている方が自然だと思いながら、再び騒がしくなった教室から目だけではなく耳も塞ごうとする。


「おい、陽介、起きろよ」

「ん……あ?」


 しかし、俺を眠りから覚まそうと強めに肩を叩かれた。俺はかったるいと思いながらも、顔を上げてその声の主を確かめる。


「よう」

正雄まさおじゃん」


 そこには去年のクラスメイトだった飛田とびた正雄が片手を上げて挨拶をする姿があった。


「ちょっといいか?」


 俺を起こしただけの理由はあるのか、正雄は教室の外で話をしたい意思を見せる。自称のトレードマークの赤い縁のフレームの眼鏡が今日も無駄に目立っている。明らかにセンスが悪いんだが、正雄自体がカッコいい部類に入るのでアリな方向として扱われている。

 これが背が低い野郎だったら総すかんだが、正雄は俺より背が高いので、眼鏡姿が様になっているのだ。わずかな身長差が羨ましく思いながら、渋々と俺は正雄の後を追いかけて教室を出る。

 一限目の開始までそんなに時間はないから、さっさと本題を話してもらいたいところだ。


「んで、どうした?」


 俺は面倒事じゃないと祈りつつ、眼鏡をクイッと上げて位置調整をしている正雄に話しかけた。


「率直に聞こう。お嬢と付き合う事になったって本当か?」

「はぁぁぁぁ?」


 面倒を通り越して、意味不明レベルの話だったので、俺は大声を上げてしまった。


「あぁ……やっぱ嘘か。本当にそうだったら面白いと思ったんだがなぁ」


 正雄はそれなりに俺の事を理解しているので、今の反応で俺が金田と付き合ってなどいないとわかったようだ。


「つーか、何なんだよそれ。また噂話か?」

「そうだな。お嬢に告白されたお前は浮き足立って、全力疾走してはしゃいでいたって話だ」


 学園の情報に目ざとい正雄はこういう与太話が大好きなのだ。

 可能な限り、面白おかしく。

 そんな精神をモットーにしている奴だから、男子生徒から相当嫌われている俺にも親しくしてくれている。


「それでも、どこまで本当なんだ? 何もないところに煙は立たないだろう?」

「急用が出来たから全力疾走はした。他はしらねーよ」


 浮き足立つ以外は全部真実なのだが、俺は金田を少し気遣って後半部分だけを真実として扱う。


「前半部分はどうなんだ? あえて触れていない雰囲気がするぞ」


 とはいっても、コミュ力MAXな正雄は俺の嘘を簡単に見抜く。これで恋人がいないんだから、俺よりも摩訶不思議な存在だ。


「お、チャイム鳴ったぞ」

「……ほほぉ。ひとまずはそういう事にしておくか」


 ここで救いの手を差し伸べるように予鈴が鳴り響き、時間切れと判断した正雄は俺の肩をポンと叩くと満足げな笑みを浮かべて、自分のクラスに戻っていく。

 その背中を眺めながら、俺は教室に入った時のクラスメイト達が放った視線の意味をようやく理解する。裏庭周辺には誰もいなかったと思ったんだが、誰が見ているかわからないものだな。

 

 うーむ、それより付き合った事になっているのがなんだか釈然としない。俺の女性不信ってウチの学年じゃ常識だと思っていたんだけどな。

 釈然しない気持ちを抱えながら、俺は眠気が完全に覚めた状態で退屈な授業を受ける事になった。


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